第8話 投資会社設立
数週間後――ヴァルグレイブ侯爵家の会議室。
長い机の両端に、私とジュリアンが並んで座っていた。
壁際には、ヴァルグレイブ商会の幹部と、アーネスト商会の代表たち。
机の上には、分厚い契約書と赤い印章が並んでいる。
「これで正式に、共同出資会社の設立です」
ジュリアンが最後の署名を終えると、書記官が書類を束ねた。
新しい社名は――マナ・コモンズ。
魔力も資産も、一部を出し合い、皆で育てていくという意味を込めた名前だ。
金貨を預けた者は、魔力株式や土地権利の一部を所有し、利益が出れば皆で分け合う。
今まで一握りの貴族だけのものだった市場を、初めて平民の前に開放する。
***
初めての説明会は、王都の広場に特設会場を作って行われた。
集まったのは、商店主や職人、農家の夫婦、学生、孤児院の年長者まで――“投資”など無縁だった人々だ。
「金貨一枚で、魔力株式や土地の権利を持つことができます」
私の声に、会場はざわついた。
「利益が出れば、半年ごとに配当として戻ってきます」
半信半疑の目が、何十もこちらを向く。
「どうせ貴族が吸い上げるだけだろう」
「夢みたいな話だ」
そんな声も聞こえた。
***
そして半年後。
再び広場に人々が集まった。
この半年間、彼らの金貨はマナ・コモンズを通じて様々な投資先へ振り分けられていた。
ある者の配当は金貨二枚、またある者は金貨一枚と小さな魔力結晶。
鉱山権利に投資した者は思ったより伸びず、逆に魔力株式に投資した者は大きく増えていた。
「おれのは鉱山だったから、今回は少なめだな」
「私は港の土地に投資したら、予想以上に増えてた!」
「次は何にする? 分けて投資してみない?」
配当の額はまちまちだが、それこそが人々の興味を刺激した。
予想と結果が違う、その意外性が、退屈な日常に新しい話題をもたらす。
半年前には不安そうだった目が、今は楽しげに輝いている。
私の耳には「次はもっと増やすぞ」という声まで届いた。
広場の喧騒を背に、私は静かに微笑む。
――これが、自由の第一歩。
小さな芽は確かに育ち始めた。
半年という時間を経て、その芽はもう、誰にも踏み潰せないほど強く根を張っている。




