第7.5話 咲き誇る薔薇
ジュリアン・アーネストは、商会での仕事を何より愛してきた。
だがそれ以上に、ひとりの女性のことを、ずっと目で追ってきた。
リアンナ・ヴァルグレイブ侯爵令嬢。
物静かで、常に周囲に合わせ、波風を立てない。
それでも、内に秘めた思考の深さは、会話を交わした者だけが知っている。
派手さはないが、時折見せる切れ味の鋭い提案に、ジュリアンは初対面から心を奪われていた。
――彼女は、誰よりも頭がいい。
それに気づいた時には、もう目を離せなくなっていた。
だが、今のリアンナは昔とは違う。
王太子に婚約破棄を告げられてから、まるで蕾が一気に開いたように、彼女は変わった。
その変化は、静かな少女が一夜にして咲き誇る薔薇へと姿を変えたかのようだった。
鮮やかで、力強くて、見る者を惹きつけてやまない。
新しい投資会社の計画を立てるときの瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭く、
説明会で人々と向き合うときは、暖炉の炎のようにあたたかい。
そのどちらもが、ジュリアンの胸を締めつけた。
(……このまま惹かれてしまえば、きっと自分は距離を保てなくなる)
だから、彼はその想いを深く隠した。
隣に立つのは、恋人としてではなく、戦友として。
彼女が目指す未来を、共に築く友として。
――この距離感が、一番長く彼女のそばにいられる方法だと信じて。
リアンナが机の上の地図を指し、笑みを見せた瞬間、
ジュリアンはまた、胸の奥にしまい込んだ想いが膨らむのを感じた。
それでも、言葉にはしない。
咲き誇るその花を、ただ一番近くで見守り続けるために。




