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6話 その頃の魔導士たち

「どうしてこうなった……」


 王国の魔法師団の第一開発部の局長であるその男は頭を悩ませていた。

 先日左遷させた元部下レティカ・シュガードナのことである。


 男からすれば、彼女はいけすかない小娘だった。


 下級貴族の出の小娘が、家柄も経験も上の自分を差し置いて、期待の新人とお偉方に期待されている事に内心で苛立っていた。


 そして遂に魔が差した彼は、彼女が書いた論文を自分の名義にして提出してしまった。


 しかも、提出した論文はお偉方からはもちろん、学会の老人たちからも奇抜ながらも斬新だと好評であった。

 苛立ちながらも、その身に浴びる賞賛は甘美だった。

 こうして味を占めてしまった彼は、以降も度々レティカのアイデアを自分の物にし続けてしまう。


 だが驚くべきことに、レティカ本人はそれに一向に気付かない。

 彼女からすれば、パッと思いついたアイデアを忘れる前に殴り書きでメモって、上司である男に見てもらっていた程度であり、ボツと突き返されても、『あーダメですかー』と苦笑しながら、次のアイデアを思いついてはまた書き記すか実際に試し、そして自分へと報告をする。


 以降も彼が盗んだアイディアが採用されても、それが自分のものが盗まれたものだと気付かず、『おお、自分のと違ってちゃんと欠点が改善されてますね。すごいなあ』と、ただ素直に感心するばかりであった。


 そして、名声や功績など興味無いとばかりにレティカは己の研究に没頭していく。


 それがかえって男の苛立ちを強くした。

 まるで、所詮自分が彼女から奪ったものなど、その程度だと言われているかのようだった。


 無論、彼女からすれば理不尽な逆恨み以外の何物でもないのだが、そんなもの男からすればどうでもいいことだった。


 どうにかして、あの女の顔を絶望と失意で歪めたい。

 歪んだ思いが彼の心の奥底で積もっていったその時、コネクションを持っていたとある筋の貴族から多額の金銭と共に、彼女に冤罪を掛けて遠くに左遷するよう手回ししてほしいと頼まれた。

 その家はなんとあのレティカと婚約関係を結んでいる侯爵家だった。


 向こうの理由などどうでも良かった。男はすぐさま了承した。


 結果は成功だった。

 初めて見る彼女の困惑し、慌てふためく顔を見て、男は内心で愉悦に満たされていくのを感じる。


 ――ざまを見ろ。

 ――ずっとこの小娘のこの表情が見たかった。

 ――そうだ。これは天罰だ。


 後日、レティカがサポロヘイムへと左遷された後、男はレティカが座っていた机を哄笑と共に何度も蹴り上げた。


 目障りな小娘がいなくなった、自分を脅かす者はもういない、と彼は浮かれながら今日も意気揚々と出勤してくる。

 ……その代償を支払う時がすぐそこまでやって来ているとは知らずに。


「これを造ったのは君だろう? どうにかして直せないのかね?」


 急に呼び出されたそこはマジックアイテムの保管庫で、男はレティカの設計図の元に作った魔力動力炉が動かなくなっているのだ。


 男は必死で動力炉をいじり回すが、うんともすんとも言わない。


「いや、その……申し訳ありません。わかりません……」

「何を言ってるんだ? 以前、動作に問題はなく良好だと言っていたではないか」

「いえ、これはその無我夢中で作り上げた物でして――」

「以前、何度も試運転を重ね、安全性は確認済みと言ったのを記憶しているがね」


 お偉方……宮廷魔導師たちに、呼び出された男は汗だくで顔色を悪くしながらも、何とか答えようとするが、緊張と焦りでうまく舌が回らず、結局しどろもどろになってしまう。


「我々も内部を少し見せてもらったが、術式や細かい機構パーツが独創的過ぎて、細部まで理解できるのは作った君しかいないと判断したのだ」


 術式や機構パーツ、これらは本来は全てレティカの机にあったものを危険物を没収するという名目でちょろまかし、設計図を頼りに自分が組み上げたものである。


 男は当のレティカ本人がいなくとも、自分ならばこの魔法道具ぐらい取り扱えると高を括っていた。


 ちなみにレティカ当人ですらこれの改良版をサポロヘイムの方でも製作中だが、いまだに失敗続きで、試行錯誤を繰り返していたりする。


「そういえば、君の所で一人女性職員が北の辺境へ左遷されていったねえ。とても優秀な子だったよ。……もしかして、それと関係があったりするのかね?」

「そ、それは……」


 そう言う宮廷魔導師の一人、壮年の男性は以前から才能あるレティカに目をかけており、男の発表にも以前から懐疑的な視線を送っていた人物である。

 レティカがいつの間にか左遷されていた時も、憤慨して食い下がってきていたことを思い出し、男は絶句する。


「どうなのかね? 黙っていないで何か言いたまえよ」

「ひっ……うっ、あぁ……」


 既に質問は尋問に代わっていた。

 汗が止まらず、喉が干上がるのを感じる。


 ――もう終わりだ……。


 男のメンタルは限界を迎えた。


「じ、実はですね……」


 観念した男は半ベソをかきながら本当の事を語り出す。


 かくて真実は白日の下に晒された。


 一方で、シュガードナ男爵邸宅。

 夫人は送られてきた手紙の内容を読んで呆れの溜息をついていた。


「おや母上、どうかしたのですか?」

「宮廷の魔導士の方々からの手紙よ。レティカの研究について詳しい説明と、あの子の左遷の一件について改めて話をしたいと――」

「は? 当人に送ればよいでしょう。なんで今さら……」


 妹がされた仕打ちを思い出し、兄であるマシュー・シュガードナは舌打ちする。


「色々と自覚している分、本人には言い辛いのね。手紙の内容を見る限り、遠回しに私たちに仲介をしてほしいのでしょう」

「自分らで追い出しておいて、今さら何を言っているのか……。こちらを馬鹿にしているのですかね?」

「あの子の研究成果や論文はかなりユニークみたいですからね。解読が困難だから教えてほしいということかしら。本当に厚かましいわ」


 微笑む夫人だが、彼女も彼女で額に青筋を浮かべている。


「……それでどういたしますか?」

「とりあえず、今は立て込んでおりそれ所ではないと返しておきましょう。実際嘘でもないしね」


 そう言って、夫人はテーブルに置かれている別の手紙に目をやる。

 その内容は、つい先日、王太子の祝いの場で起こった騒動の内容の報告だった。

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