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異世界転生してバニーガールを流行らせます  作者: 江保場狂壱
第14章 ハーゼはついに王国を乗っ取ります
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第92話 いきなりですが場面はドクメント帝国に移ります

 それは巨大な白い石でできた建物だった。ローマのコロッセオのようだと思っていただきたい。

 青空の下、コロッセオの観客席は4万人近い人間が収容されている。老若男女問わず、熱気に浮かされていた。まるで煮だった鍋のようだ。

 コロッセオの中心は野球のダイヤモンドベースが敷かれてあった。マウンドにはひとりの男が立っている。

 2メートルほどの巨漢で、黒い全身甲冑を身に付けていた。頭は禿げあがっており、毛一本生えていない。まぶたは晴れ上がり、鼻は鷲のように鋭く、口はへの字に曲がっていた。あごは割れており、肌は日焼けして黒かった。

 右手にはグローブがはめられており、左手には硬球がにぎられている。

 男の向こうにはバッターボックスがあり、こじんまりした男がキャッチャーミットを構えてしゃがんでいる。黒い男とは対照的に真っ白い子ネズミのような男で、くりくりした目に、小さな鼻、それと出っ歯が目立っていた。

 バッターボックスには十代の少女が立っていた。野球のヘルメットを被り、ピンク色の袖なしに短パンのユニフォームを着ている。金髪ロールで、人形のように愛らしい顔をしていた。


「さぁさぁ、ドクメント帝国の皆様、おまたせいたしました!! ただいまよりエンパイアリーグの開催でございます!!」


 銅鑼が鳴るような大声が響き渡る。それは解説席に座っている女性が叫んでいたのだ。青い髪のボブカットに赤ぶちの眼鏡をかけた女性である。着ている衣装は白い水着のようなもので、煽情的だ。

 声が大きく聞こえるのは、音を拡幅する魔法具を利用しているためである。仮に彼女をアナウンサーと名付けよう。


「偉大なる我らの皇帝、アドルフ・ド・ドクメント陛下が開催して20年! 今年でニ十回目を迎えました! 東西南北の領地からやってきた猛者たちが今年もコロッセオで火花を散らします!」


 アナウンサーが実況すると、観客が沸き上がった。声がびりびりと震えており、コロッセオ全体が揺れる感覚になる。


「それでは始球式を始めます! ピッシャーは皇帝陛下! キャッチャーは陛下の二十数年来の相棒、マオス・ド・クラインさま! そしてバッターボックスに立つのは、陛下の第13皇女リーベさまです! では陛下どうぞ!!」


 アナウンサーが叫ぶと、マウンドに立つ男、アドルフが構えた。両腕を上げると、右足を天高く上げたのである。重い鎧などまるで発泡スチロールのようであった。

 そして力強く、大地を踏むと、ボールを投げる。

 投げられた球は瞬時に分裂した。まるでこちらが乱視になった気分になる。

 リーベはまったく振ることはできなかった。球はあっという間にマオスのミットに収まっている。白い煙を上げていた。


「きたーーー!! アドルフボールです!! 別名破壊の風と呼び、初期は逆らうやつらをそのボールで屠ってきました!! 今はわれら帝国民に夢を与えてくださるボールです!! 皆さま、盛大な拍手をどうぞ!!」


 観客席から爆雷のような拍手が起きる。そしてアドルフも右腕を大きく上げた。ますます拍手の音は激しくなる。

 その後、チームが出てきて、試合を開始した。


 ☆


「お見事でございます陛下」


 アドルフを迎えたのは、ひとりの女性であった。灰色の長髪に、鎧と灰色のマントを羽織り、真っ赤なドレスを着た美しい女性である。

 年齢は若々しく見えるが、どこか老獪な雰囲気もあり、つかみどころがない。

 皇帝の相談役であるヘルシャフトである。


「お父様、お疲れ様です。わたくしお父様の投げる球を横切ったとき、おしっこがもれそうでしたわ」


 リーベも来ていた。アドルフはそれを見て微笑んだ。彼はこのドクメント帝国の基礎を作り上げた男だが、家族には優しいのだ。もちろん軍隊にも優しい。彼は兵士たちを自分の家族のように接していた。時には厳しく叱咤し、時には優しく接している。


「ふふふ。陛下のボールを前に、おもらししないだけ上出来ですわ。普通の人ならみっともなく股間を濡らしているところでしょう」

「そうですわね。前にギューテお兄様もそうでしたものね」


 ふたりが会話をしていると、妙齢の女性がやってきた。40代くらいで豪華な白いドレスを着ているが、化粧は濃く、目は紫のシャドーが描かれている。唇も紫で口が裂けているように見えた。

 彼女は第一夫人のベツァオバント。先ほどリーベが口にしていたギューテの母親である。


「キュホホ。そこのあなた、今ギューテの悪口を言いましたね? 第13皇女のくせに不敬ではありませんか?」


 ベツァオバントににらまれて、リーベはたじろいた。


「大体、なぜあなたが皇帝陛下と対等に口をきいているのですか? あなたは将来臣下になる身。自分の身のほどを知りなさい。まったく、これだから下賤な者は嫌いなのです、陛下の格が下がるというものですわ、それから―――」

 

 べらべらと嫌味を並べ立てている。早口で相手に反論の余地を与えない口調だ。それをアドルフが遮った。


「ベツァオバント。お前こそ勝手なこというな。リーベは俺の娘だ、家族に差などない。お前の基準で物事を測るな」


 怯えるりーべをかばうように、アドルフは威圧した。ベツァオバントは見る見るうちに真っ赤になった。屈辱で怒りに震えているのだ。


「なんですって!? わたくしは陛下の事を想っているのですよ!! それなのにわたくしに対してその口の利き方は―――」

「ベツァオバント殿。そもそもあなたは第一夫人ですが、一番偉いわけではありません。陛下にとって百人の夫人に差などないのです。第一夫人だからと言って威張り散らすのはやめていただきたい。もっとも、あなたがそれを盾にしても、使用人たちには注意して止めるように教育しておりますけどね」


 ヘルシャフトが言った。物静かだが、怒気が含まれている。ベツァオバントは顔を醜く歪めながら、立ち去った。リーベも疲れたのか、メイドに連れられて去っていく。

 後に残るのはアドルフとヘルシャフトだけであった。


「まったくベツァオバントには困ったものだ。自分が一番偉いと勘違いしている」

「第一皇子が次期皇帝ですので、調子に乗っているのでしょう。ですが、すでに皇帝の座は形骸化しました。もう何の権力もありません」


 そう、アドルフは皇帝だが、すでに権力はない。ドクメント帝国は5つの領地に分かれている。中央はアドルフが治めており、東西南北の領地は信頼できる部下たちが将軍となって治めている。

 政治は宰相が、軍事は元帥が抑えており、皇帝の権限は驚くほど弱い。彼の仕事は始球式に参加する程度であり、後は子供たちと遊ぶか、各地の視察に行くくらいだ。

 これはヘルシャフトの提案である。彼がこの世界に転生したころは、ドクメント大陸は群雄割拠の時代であった。村同士の戦いは絶え間なく続いており、魔物の脅威を前にしても一致団結などもってのほかである。

 それをアドルフが始球式で見せたアドルフボールで、バラバラだった村をひとつにまとめたのだ。その後は別の人間にまかせてある。自分はあくまで力でまとめたが、その後は国を運営できる人間に任せたのだ。

 その人物の育成をヘルシャフトが担当したのである。


「君は破壊神という割には、ちっとも破壊活動を行っていないな」

「いいえ、きちんと破壊活動は行っています。それは因習の破壊です。今まで凝り固まっていた思考を粉々に砕いたのです。その後の経過はあなたもご存じのはずです」

「……確かに。変化を苦痛と感じて自殺した者もいたな。さらには家族を巻き添えにして心中しようとしたものもいたな、嘆かわしいことだ」


 アドルフは遠い目をした。転生して28年経っている。ヘルシャフトの手伝いで、今の地位にあるのだ。さらに彼女のおかげで生まれ故郷の沖縄料理を再現できた。食事は大切である。


「ベツァオバントはたくらみごとをしているな。エアツェールング王国で元帝国民が好き放題に暴れるのも、あいつのせいだと言われているが」

「その通りですね。王国に逃げた若者たち全員ではありませんが、一部には努力を嫌い、弱い者いじめを愛する者がいます。そういった連中に吹き込んでエアツェールング王国が戦争を吹きかけるように仕向けているのでしょう。浅はかなことです」

「戦争、か。我の世代では戦争とは忌むべきものと教えられてきた。特に我が故郷は戦火がひどく、長年異国の支配を甘んじてきたのだ。まったく戦争を好む人間の気持ちは理解できないな」


 彼は嘆く。戦争を体験したことはないが、戦争経験者が語る話をよく聞いていた。自分の祖父も、家族を戦争で亡くしひとりぼっちになったと、幼い自分に言い聞かせていたのだ。

 ベツァオバントの場合、アドルフの復讐のために、エアツェールング王国が戦争をするように工作しているのである。彼女は最初に征服した村の村長の娘だ。家族はアドルフによって皆殺しにされた。そして力づくで物にされたのである。

 彼女の他にもアドルフを憎むものはいた。しかしアドルフの圧倒的な力に加え、彼の忠臣たちが目を光らせており、復讐を諦めてしまったのだ。

 かといって何も起きなかったわけではない。第2夫人はアドルフを殺そうとして返り討ちに遭い、第4夫人はアドルフの目の前で子供と一緒に心中して見せたのだ。


 それでもアドルフは百人の妻の事を忘れたことはない。いつも彼の心に彼女たちは生きているのだ。


「もうじきすべては解決します。ハーゼがエアツェールング王国を支配すれば、決着はつきますよ」

「ハーゼ、ねぇ……」


 ヘルシャフトの言葉に、アドルフはつぶやいた。自分と同じ転生者にどのような気持ちを抱いているのか。それは本人にしかわからない。

ヘルシャフトの容姿は北アイルランドの戦いの女神、モリガンです。

対戦格闘アクションのヴァンパイアに出てくるモリガンのモデルでもあります。

 ちなみにヘルシャフトはドイツ語で支配という意味です。

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