第87話 まぼろしネズミの小旅行
やぁやぁ、俺様はまぼろしネズミだよ。赤い帽子に黒マスク、黄色いマフラーがトレードマークのネズミの魔物なのさ。
今俺様は売れに売れている有名人なんだよ。あの凶暴な魔物三人組のデーモンスリーをあごでこきつかっているんだねぇ。
ジルコニア・アイは身体を瞬時に巨大化させられるんだ。人間の町を一瞬で巨大な手の平で潰すんだよ。
七色デビルは七つの属性を自在に操る猿の魔物さ。右手は木・火・太陽を操り、左手は金・水・月を操るんだ。しっぽは大地を支配できるんだよ。
最後に絶交仮面はすごい。こいつの吹く魔法の角笛は血の繋がった家族を、血みどろな殺し合いをさせる絶好の音色を奏でるんだ。
人間が千人いたところで無駄なんだよ。こいつら三人で人間どもは皆殺しさ。
そんなデーモンスリーは俺様の言いなりなのさ。俺様が命じなくても勝手に動いてくれるんだよ。俺様に逆らうやつは死より恐ろしい目に遭わせているんだ。
ジルコニア・アイは人間を手でもみほぐし、七色デビルは男が好きだから、性的ないたずらをする。絶交仮面は相手が好きな女性を嫌わせるように仕向けるんだ。
そう、俺様は世界最強なのさ。あーっはっはっは……。
何? テンションがおかしいって? それは仕方のないことさ。今の俺様は人間の乗る馬車に拉致されているのだから。
ハーゼというバニーガールという魔物の格好をした人間にな。
「あら、まぼろしネズミさん。不機嫌そうですね。何か気に障りましたか?」
向かいに座っているハーゼがいけしゃあしゃあと訊ねてきやがった。てめーが俺様をいきなり拉致したからだろうが!! てめーの嫌味たっぷりな表情をぐーで殴りたいよ!!
ちなみに俺様は人間の子供に抱かれている。俺様をぬいぐるみか何かと勘違いしているようだ。
「申し訳ありませんんまぼろしネズミさん。娘がわがままを言ったせいで……」
人間の女、ツァールトといって、俺様をいじくっているゲッティンの母親が謝った。
いや、あんたに責任はないよ。悪いのは目の前にいるバニーガールのせいさ。まあこいつもバニーガールの格好をしているが、どこか優しげな雰囲気があるね。
「むむぅ、まぼろしネズミさん。ツァールトさんと私との対応が違うじゃないですか。もう嫉妬しちゃいますよ、ぷんぷん」
そういってハーゼは頬を膨らませて、そっぽを向いた。
うん、ちっともかわいくないです。隣にいる人間のガキが「歳を考えてくれ」と肩ひじで突かれたよ。ザマァ!
「失礼ですね。私はハーゼ・ド・ヴァイスシュネー、17歳です!」
おいおい!!
ゲッティン以外が突っ込んだよ。なぜかハーゼが17歳と言ったら、おいおいと突っ込んでしまったね。それを見たハーゼは表情を変えたよ。
「……ふむ。17歳ネタが通用するとはね。魔物の影響が色濃く出ているというわけですか……」
ハーゼは思案に暮れるようになった。どうでもいいけど人間のガキ、アンヘンガーもバニーガールの格好をしているな。女だけでなく、なんで男もバニーガールになっているのかさっぱりだ。ちなみにうさ耳魔女が進化してバニーガールになる。オスの場合はうさ耳魔道で進化するとバニーデーモンという巨体の魔物になるのだ。まあ、どうでもいい話だけどね。
お菓子をもらいつつ、しばらくするとゲッティンがいきなり大人へ変身した。アンヘンガー曰くサキュバスもどきだそうだ。
確かに変身には驚いたが、こいつは魔物ではない。俺様の好みには全く引っかからないな。
「ゆるさんだわさ! さあ外へ出てくるだわさ!!」
突如馬車の外からウサリーの声がした。なんであいつがここにいるのだろう。
馬車は止まり、ハーゼたちは外に出た。俺様はというとゲッティンに抱きかかえられたままである。いい加減放せよ。
外に出るとウサリーが一匹で立っていた。かなり不機嫌である。こいつ生理なのかと訊こうとしたら、ハーゼに止められた。デリカシーがないわよと言われたね。
「あらウサリーさん。おひさしぶりですね。元気そうで何よりです」
「元気そうじゃないだわさ! あんたはどういうつもりなんだわさ!!」
ウサリーは俺様を睨んでいる。なんで俺様なんだ、俺様は被害者なんだぞ。
いや、正確には俺様を抱きかかえているゲッティンを見据えていたようだ。
「うーんと、はじめまして! あたしはゲッティンです!!」
「うう、はじめまして。あたちはうさ耳魔女のウサリーだわさ。あんたはいったい何のつもりでそいつを抱いているんだわさ!!」
「うーんとね。まぼろしネズミさんがかわいいからだいているんだよ。まえはおもくてもちあがらなかったけど、いまはとってもらくちんなんだ!」
ゲッティンが無邪気に答えるので、ウサリーは毒気を抜かれたようだ。そこにツァールトが前に出る。
「ウサリーさん。初めましてツァールトと申します。ゲッティンの母親です。ウサリーさんに申し上げますが、うちの娘がまぼろしネズミさんに抱いている感情はラブではなく、ライクなのです。あなたが心配することはまったくないのですよ」
「そうなんだわさ? でもそいつ奇妙な魔力を感じるだわさ。そいつも魔物じゃないんだわさ?」
「違いますよ。ゲッティンさんの場合はサキュバスもどきです。人間が持つ特殊能力のひとつですよ。ただ先天性の人が多いので力をコントロールできないのが難点です」
アンヘンガーが答えた。人間でも魔法を使うやつはいる。魔力を感じても魔物とは違うのだ。
ウサリーはどこか安堵した様子である。先ほどまで激高していたのに、不思議な奴だ。
「おお~、うさぎさんだ~。ふわふわしてやわらかそう~♪ だいてもいい?」
そういってゲッティンは許可も取らずに、ウサリーを抱きかかえた。ウサリーは突如の事で慌てるが、ゲッティンは柔らかい白い毛をもふもふしている。
「う~ん、ふかふか~♪ クロっぽいまぼろしネズミさんに、シロっぽいウサリーちゃん。ねえ、おかあさん、ウサリーちゃんもいっしょにつれてっていい?」
とんでもないことを言い出した。というかウサリーをぬいぐるみと勘違いしているのか? 母親は困った顔になっているぞ。
「ウサリーさん。まぼろしネズミさんはしばらく私たちと旅をすることにしたの。だからあなたも一緒に付いてきても大丈夫よ」
ハーゼの提案にウサリーは二つ返事で答えた。なんでだ!! 俺様は頭を抱えた。
「ふん! フィアンセがいながら浮気旅行に行く、あんたが悪いんだわさ!!」
いつお前のフィアンセになったんだよ。浮気旅行ってなんだ!! そのくせウサリーは真っ赤になってもじもじしている。小便に行きたいのかと訊いたら、裏拳で鼻を殴られた。理不尽だ。
「ほう、ウサリーさんとまぼろしネズミさんは結婚するのですか。それはいつでしょうか?」
「つっ、次の満月の夜だわさ。ズンブフ村の近くにある丘でたんぽぽを耳に刺して、魔物の仲間とダンスを踊るんだわさ」
「ふむ、まるでウサギの結婚式ですね。特にタンポポの部分は酷似しています。あなたは黒いウサギとこれからもずっと一緒にいられますようにと願わなかったのですか?」
「うーん、確かに黒いうさ耳魔道も気になっただわさ。でも、あたちはまぼろしネズミの方と一緒にいたいのだわさ」
「なるほどね。ちなみにちょっと考え事をしていたのはあなたのほうですか? まぼろしネズミさんは逆に何を考えているか尋ねる立場だったとか」
「よくわかっているだわさね。見ていたんだわさ?」
「いいえ、私の故郷にある絵本と内容が似ていると思っただけですよ」
ハーゼとウサリーの会話が続く。ツァールトは苦笑いを浮かべ、アンヘンガーは無表情だ。どうでもいいけど前に見た時と比べて大人しいな。何か悪いものでも食べて腹を壊したのか?
「わーい、まぼろしネズミさんだけでなく、ウサリーちゃんといっしょだよ~」
ゲッティンは無邪気に喜んでいた。正直俺様げんなりしている。




