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異世界転生してバニーガールを流行らせます  作者: 江保場狂壱
第13章 マッケンゼン領の冒険
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第86話 ゲッティンの異変

「わたしを、ですか?」


 ギルドのマスターの部屋に、ツァールトを呼び出した。彼女はバニーメイドの格好で、仕事をしていた最中であった。

 私は彼女を呼び出し、マッケンゼン領への出張に同行してもらうよう頼んだのだ。

 

「なぜ、わたしなのでしょうか。他にもふさわしいお方がいるはずですが……」

「ええ、これはアンヘンガーの意見なのですよ。なんでもあなたがいないと困るそうです」


 私も詳しくは訊かされていない。ただツァールトはサキュバスの力を持っている。夢の中だけの限定だ。無意識に男たちを欲情させるという。もっとも一晩寝てしまえば彼女が精を抜くため、それ以降は無関心になるのだ。


「ですがわたしは庶民ですよ。マスターと同行するのはどうかと思いますが」

「問題ないですよ。わたしがよいと言っているのです。文句を言うやつがいれば、わたしが解決しますから」


 私が力強く答えると、ツァールトは安心したようである。だがもう一方で問題があった。


「あなたがマッケンゼン領に同行するとき、ゲッティンちゃんを誰に預けましょうか?」

「そうですね。ギルドの方々に預かってもらいましょう。保育室は親の都合で泊まれますし、そちらがいいでしょう」


 話はついた。そのはずだった。


 ☆


「やらやら、や~~~ら!!」

 

 ゲッティンが泣き喚いた。母親からしばらく旅に出ると言ったら、彼女は泣き出したのである。

 保育室では大勢の子供たちが遊んでいた。ギルドの職員たちが面倒を見ていたのである。

 部屋には遊具やぬいぐるみなどが並んであった。ゲッティンは他の子供たちと手と繋ぎながら。歌を歌っていたのである。

 赤毛のおさげで、そばかすが目立つ少女だ。オーバーオールのスカートを身に付けている。


「ゲッティン、わがままはいけませんよ。お母さんはマスターと大事な旅に行かなくてはなりませんからね」

「やらやら、や~~~ら!!」


 ゲッティンは舌足らずな口調で泣き叫ぶ。地団太を踏み、暴れまくった。

 泣く子には勝てないというが、どうしたものか。そこにマギーがやってきた。


「別にゲッティンさんを置いていく理由はないでしょう。一緒に連れて行っても大丈夫ではないですか」


 確かにそうである。遊びに行くわけではないが、親子を引き離す必要はないな。

 どのタイミングで彼女が必要になるかわからないが、この辺はアンヘンガーと相談しよう。


「だけどゲッティンの遊び相手はいませんよ。いくらなんでも他の子供たちを連れて行くわけにはいきませんからね」


 私が懸念したのはそちらなのだ。いくら母親と一緒でも育ちざかりのゲッティンは退屈を持て余すだろう。だから最初は彼女を置いていこうと思ったのだ。


「ゲッティンさんは何か希望はありますか? おもちゃでもぬいぐるみでもできる範囲で答えられますよ」


 マギーはしゃがみこみ、ゲッティンの目線に合わせた。普段はクールビューティ―な彼女もアルカイックスマイルを浮かべることは可能なのである。


「えーっとね……」


 ゲッティンは悩むと、意外な言葉を発した。


「まぼろしネズミちゃんと一緒にいたい!!」


 ☆


「なぜ俺様がここにいるんだ?」


 巨大なネズミが答えた。赤い帽子に黒マスク、黄色いマフラーをなびかせた魔物だ。

 名前はまぼろしネズミである。小物だが憎めない魔物なのだ。

 今、私は馬車に乗っている。馬車の中には私とアンヘンガー、向こう側にはツァールトとゲッティンが仲良く座っていた。まぼろしネズミはゲッティンに抱きかかえられている。まるでぬいぐるみを扱うようであった。

 ちなみにツァールトは旅装束用のバニースーツを身に着けていた。裁縫ギルドのマスター、ヨルクが製作したらしい。アンヘンガーも同じようなものを着ている。もっともアンヘンガーの場合は燕尾服で、上質な生地を使われており、貴族用のバニースーツだ。

 今の社交界では特性バニースーツを着るのが流行だという。グレーテルが勧めているようだが、私の望む酒場経営は夢と消えた。別に四六時中バニーガールを見たかったわけではないんだけどな。


「ゲッティンがお前を所望していたのです。だから連れてきた。問題ありますか?」

「あるよ! いきなり連れてこなれて、むかついているよ!!」


 まぼろしネズミは抗議をしていた。まあ、当然だろうな。こいつがマネギンたちと遊んでいる最中にむりやり連れてきたのだ。不機嫌になるのも無理はない。


 ゲッティンはニコニコ笑っていた。希望通りにまぼろしネズミと一緒になれたから、嬉しいのだろう。

見た目はぬいぐるみに近いからな。中身は擦れているけど。


「う~ん、ふかふか~。やわらか~い」


 ゲッティンはもふもふとまぼろしネズミを触っていた。ちなみにこいつは一度風呂に入れて、石鹸でごしごし洗っておいた。さすがに不衛生なこいつを抱かせるのはよくないと思ったからだ。


 まぼろしネズミは不機嫌そうであった。ぬいぐるみ扱いされたらそうなるよな。だからお菓子を与えた。胸元から紙の包みを取り出す。


「ほらまぼろしネズミくん。バターで作ったバタークッキーだよ。お食べなさい」

「ふん、食べ物で俺様を釣ろうなんて、浅はかな女だな。俺様をちょろい奴と思っているのかよ。ボリボリ……、うめぇ、もっとくれ!!」


 まぼろしネズミはクッキーを平らげた。口元はクッキーの食べかすがついている。ちょろいな、簡単に釣られたよ。ゲッティンもクッキーを欲しがったので、まずツァールトに渡した。そこで彼女は少しだけゲッティンにクッキーを渡している。


「そういえばアンヘンガーは大人しいね。わたしが胸元からお菓子を取り出したのに」

「目の前にゲッティンさんがいますからね。僕は空気を読む人間なのですよ。もっとも今までの経緯からして信用されてはいないでしょうが」


 アンヘンガーはさらっとしている。これが本来のアンヘンガーなのだろう。身内だから素に戻っているのだろうな。面倒臭いやり方だが、お家騒動はそれほど熾烈なのだろう。  仲の良い兄弟でも家臣たちが暴走することもある。貴族は自分たちの感情で動くことはできないのだ。


「もうゲッティンったら……。まぼろしネズミさんが嫌がっているでしょう」

「え~、そんなことないよ~。まぼろしネズミちゃんはたのしそうだよ~」


 母親が注意しても娘は無視していた。まだ子供だから空気が読めないのだろう。まぼろしネズミはますます不機嫌そうであった。はてさて今度はまんじゅうか、どら焼きでも与えるかな。


「ゲッティンね~。おおきくなったらまぼろしネズミちゃんのおよめさんになるの~」

「いや、無理だろ。魔物と人間は結婚できないぞ」


 まぼろしネズミは冷めた口調で答えた。しかしゲッティンはまったく気にも留めていない。


「え~、だいじょうぶだよ~。だってゲッティンはまぼろしネズミちゃんがだいすきなんだもの~」


 ゲッティンはますますまぼろしネズミを強く抱きしめる。するとゲッティンの身体が大きくなっていた。

 最初は目の錯覚かと思ったが、違う。彼女の身体はどんどん成長していったのだ。

 髪の毛は伸びてゆき、そばかすも消えていった。頭に黒い角が生えてきた。見た目は神の色が違うツァールトそっくりである。


「わぁ、からだがすごくおおきくなっちゃったよ。すごーい!」


 ゲッティンは無邪気に笑っている。自分の身に起きたことを楽観視していた。

 ツァールトは目を丸くしている。娘の身に起きたことが理解できないのだ。

 そこにアンヘンガーが声をかける。


「これはサキュバスもどきですね」

「サキュバスもどき、ですか?」

「はい。サキュバスの娘によくある症状です。身体が成長するだけで能力はまったくないのですよ」


 あと見えないが背中には蝙蝠の羽根が、臀部には黒い尻尾が生えているという。あくまで幼少時に成人女性に成長し、年老いたら幼女へ変化するそうだ。誰得だろうか。

 あくまで外見が変化するだけで、魔物ではないそうな。もっとも知らない人から見れば、魔物扱いされるので、気を付けた方がいいだろう。

 もっとも魔法少女が変身するみたいなものだろうね。顔が明かされても別人だと思われるのが鉄板だ。


「ところで元に戻るのでしょうか?」

「大丈夫です。一度変身したら三分後に元に戻りますよ」


 アンヘンガーがあっさりと答えた。さすがは補佐師故に知識が豊富なようだ。

ツァールトは安堵したようである。娘が元に戻らなければ、どうなるか心配していただろう。自分がサキュバスなので子供も遺伝したと思ったのだ。

 そこに馬車の外から声がかかった。ヒステリー気味の女の子の声だった。


「ゆるさんだわさ! さあ外へ出てくるだわさ!!」

いわゆる魔法少女のように成長するのも予想外だと思いました。

そこにまぼろしネズミを入れたのは、意味なく力を発揮するのは突飛すぎるからです。

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