第八話 裁縫ギルドのマスター
私は今馬車に乗っている。裁縫ギルドに向かっているのだ。
エアツェールングの入り口から西側にあるという。
この町には以下のギルドがある。
料理人を管理する料理ギルド。
衣服や靴などを担当する裁縫ギルド。
武器や防具を製造する武具ギルド。
皿や壺を担当する陶器ギルド。
農具や工具を製造する鍛冶ギルド。武具ギルドと違って生活に必要なものを作っている。
家を建て、道路を作る大工ギルド。
以上がこの町にあるギルドだ。他のギルドはそれなりにうまくやっているという。
まあ、前のマスターは豪快過ぎるのが原因か。しかも元将軍という肩書があるから、ろくに意見も言えなかったのだろう。
馬車の中にはマギーもいる。彼女は私の目の前に座っていた。
今日は泊りがけで西にあるレオパルド子爵が収める村へ行くのだ。
子爵は農園を経営しており、エアツェールングの農作物は大抵そちらからきている。
市場で一通り見てみたが、やはり生産者によって作物の出来が違うようだ。
もちろんしなびた野菜より、大きくてみずみずしい方が高く売れる。
私は神の知識で農薬を作ることは可能だ。だが未知の薬品を使いたがる人間はいない。
よって主であるレオパルド子爵を説得し、各農家に農薬と農機具を与えるのである。
もちろん難色を示すだろうが、私にも考えがあるのだ。マギーにも伝えたが、無表情で親指を立てる。賛成という意味だ。
その前に私たちは裁縫ギルドに寄ることにした。それは私が寝る前にコツコツ書いたバニーガールの衣装の設計図だ。
バニースーツはもちろんのこと、うさ耳バンドにカフス、蝶ネクタイに網タイツと製造するために必要なものだ。さらに必要な素材も載せてある。
「だけど意外ですね。あなたのことだから無視すると思っていたのに」
これは意外だった。マギーなら仕事を徹底的に増やし、私の夢など潰すと思っていたからだ。
「そんなことはしません。なぜならあなたを効率よく働かせるには、これが一番だからです」
マギー曰く、彼女は私を抑圧させるより、ある程度息抜きさせた方がよいと判断したのだ。
私は面倒事を嫌うが、いざとなれば責任を持つ性格だと思っているらしい。
だから料理ギルドの仕事を押し付けるが、私の夢もできる限り、叶えるという。
「ハーゼさまは、博識なお方です。その知識は千年の時を得た賢者ですら上回るでしょう。ですが、それ以上に人の事を良く熟知しております。ハーゼさまの武器は未知なる料理や道具よりも、その慈悲深き神のような思想だと思います」
そこまで持ち上げられると照れるな。あと彼女の横にある皮袋はなんだろうか。とても重そうに持っていたが、代わりに持とうとしたら断られたのだ。
馬車は裁縫ギルドの前に止まった。
☆
裁縫ギルドの規模は、うちと同じだった。違うのは多くの人で賑わっているからだ。
裁縫のための糸や生地などを扱っている。この世界では衣服はすべて手作りだ。機織り機は存在するが、大量生産には向かないのだろう。
表にはいないが、ギルドは回収人という屈強な人間を雇っている。彼らが依頼に応じて珍しい素材を回収しに行くのだ。
私たちはギルドマスターの部屋に通された。小奇麗ないかにも事務的な部屋だった。
「むーん、初めまして。わては裁縫ギルドのマスター、ヨルクでござんす。以後よろしゅうおます」
ヨルクという人物は中年親父だ。中肉中背だが、頭はなぜかアフロである。言葉遣いもちと奇妙だ。童話の世界らしくない。
「初めまして、この度料理ギルドのマスターに就任しましたハーゼと申します」
「よかよか。あの筋肉馬鹿が認めるんです、あんさんがどれほどの実力者かは、ばっちりわかりますわ」
マッケンゼンを筋肉馬鹿呼ばわりしているね。この人も元は貴族なのだろうか。
「むふふふふ。あんさん、わてが元貴族と思っておりまんな? 目を見ていれば、ばっちりわかりますわ。こう見えても元は宰相をやっておりましてな、息子に跡を継いでもろうて、今はここのマスターなんですわ」
元宰相かよ!! 元将軍と言い、この国の政治はどうなっているのだろうか?
「今日はどのような用で来たん?」
「はい、これです」
マギーがヨルクに設計図を渡す。私が望むバニーガールの衣装の設計図と説明した。
ヨルクは設計図を見て、感心している。きめ細かく、文字や数字が記入されており、わかりやすいとほめてくれた。
「むっ、むむむ?」
ヨルクは設計図をぐっと顔に近づけた。するとぷるぷると震えだす。
「む――――ん!! こっ、こりゃあ、いったいどういうシロモンなんですじゃい!!」
言葉遣いがおかしくなった。どうやら必要な素材に問題があるようだ。
うさ耳バンド:くまかぶとと殻。
バニースーツ:ブラックローズの葉っぱ。
網タイツ:フライスパイダーの糸。
ハイヒール:てつとかげの皮。
これらの材料はどれもランクAの危険な魔物から採れるのだ。
くまかぶとはカブトムシのコスプレをした熊だ。
ブラックローズは巨大な植物の魔物で、熊を生きたまま蔓で捕らえて食べるらしい。
フライスパイダーは空飛ぶ蜘蛛だ。トンボのような羽を持ち、目も複眼で動きに隙がないそうだ。
最後にてつとかげは巨大なトカゲでその名の通り鉄の皮を持っている。
「あっ、あんさん、こいつはとんでもないだっせ! くまかぶとの殻は兜にすると聴覚が研ぎ澄まされるシロモンや! ブラックローズの葉っぱはたかが葉っぱと思うなかれ、丈夫な魔法を吸収する魔法使いのローブができる!! フライスパイダーの糸はいかずちの力を集める性質がある!! 戦士が電撃を使う魔物相手に装備するもんだ!! 最後にてつとかげだが、こいつは魔力を注ぐことで強弱を変化させられるんだ!! あんさんは魔王を相手にするんでっか!!」
ヨルクは興奮している。そりゃそうだ。マギーも言っていたが、これらの素材はとても貴重であり、回収する方も、製造する方も大変なのだ。
それを意味の分からないバニースーツに回されるなど、信じられないのだろう。
「マスターヨルク。この衣装はハーゼさまの夢であり、命なのです。時間はかかっても構いません。報酬も前払いいたします」
そう言ってマギーはヨルクの前に皮袋を置いた。中身は金貨だった。
金貨は一枚一万円ほどの価値がある。それが千枚もあるのだ。一千万円を彼女は持ち歩いていたのである。
「ねえ、マギー。そのお金はどこから調達したのかな?」
「私の財産を処分しました。住んでいた屋敷と装飾品をすべて処理したのです」
ええ!? 自分の財産を処分したって!! なんでそこまでやるんだ!?
「これは私の夢です。あなたという偉大なマスターの元で働き、見た事のない世界を見たいのです。あなたの夢は私の夢。これは私たちの願いなのです」
鉄面皮で表情は変わらないが、彼女の熱意が伝わってくる。
「むーん、むーん!! そこまで言われたらわても男や!! 時間はかかるが、絶対仕事をやりとげまっさ!! 待ってておくれやす!!」
ヨルクも約束してくれた。私は契約書を交わすと、裁縫ギルドを出た。
次はレオパルド子爵の領地へ向かうのであった。
この世界の魔物はなんとなくドラ〇エっぽさを目指してます。
それとギルドもありがちな冒険者ギルドを出さないのも、ド〇クエ10の影響ですね。
無効も西洋風の世界観に、バニーガールを平気で入れているから。
ヨルクはヨルク代艦級巡洋戦艦が元ネタです。ドイツ帝国海軍が、第一次世界大戦中に計画しましたが、戦況の悪化で未完になったそうです。




