第七話 まぼろしネズミ再び!
「くっくっく、もうじき、俺様の復讐が始まるのだ……」
俺様はまぼろしネズミ。このエアツェールング地方を縄張りとする悪の化身だ。
赤い帽子に黒マスク、黄色いマフラーがトレードマーク。
今日も子分のマネギンたちが、俺様を慕って集まってくる。
今は深夜で、あたりは真っ暗だ。何も見えない。
「ピゴー! まぼろしネズミさん、今日はどんなことをするのかな~?」
「きっとぼくらが思いつかない、すごいことをするんだよ!」
「だってまぼろしネズミさんは王様だもんね!!」
マネギンたちは俺様を持ち上げる。よせよ、照れるじゃないか。
だが俺様はおだてに乗らない。本当の悪はクールに決めるのさ。
「落ち着きなボーヤども。今回はあの町に忍び込み、ある女に復讐するのさ」
そう、その女とはハーゼというやつだ。あの女は生意気にも卑怯な手を使い、俺様を気絶させようとした。騎士道精神などあの女には皆無に違いない。
「復讐!? まぼろしネズミさんは勉強熱心なんだね!!」
「そうそう、今日の授業で習ったことを……、そりゃ復習だ!!」
俺様はツッコミを入れた。子供のたわ言など無視してもいいが、俺様は寛大なのだ。
「まあいい。俺様は町に忍び込む。そしてあの女の家に……」
「いっ、家に?」
「家の壁に落書きをする!」
「ピゴー!」
「それもお前の母ちゃんでべそと書いてやるんだ!!」
「ピゴー! ひどい、ひどすぎるよ!!」
「さらに音を鳴らして、安眠を妨害してやるんだ!!」
「ピゴゴゴゴ!! 悪だ、まぼろしネズミさんは稀代の悪人だよ!!」
ああ、マネギンたちのまなざしが熱い!! なんて気持ちがいいのだろう。俺様はさっそく行動するぜ!!
☆
人間どもの作る町は一見固く見えるが、実際は穴だらけだ。
町には下水道なる穴があり、俺様の体格ならすんなり入れるのである。
俺様はすぐにあの女を探し当てた。俺様の鼻は天下一で、臭いで分かるのだよ。
あの女はでかい屋敷に住んでいた。ひとりでこんな家に住むなんて、人間は効率が悪すぎるね。
深夜だから牛乳配達は来ていないだろう。今回は勘弁してやるぜ。
さて、家の壁に落書きをしてやるかな。お前の母ちゃんでべそってな。ついでに大声を出してやるよ。安眠を妨害された恐怖に恐れおののくがいい!!
さっそく紅泥で溶かした絵の具で落書きをしてやるか。くっくっく、これぞ悪の魅力よ。自分で自分が怖くなるな。
ちょんちょん。
おや、誰かが俺の背中を突いているぞ? そんなもの無視してやる。
「うるさいな、今俺様は忙しいんだ。用事なら後にしろ」
ちょんちょんちょん。
まだしつこく突いてやがる。いい加減にしろと怒鳴ってやる!!
「おい、いい加減にし……」
「おひさしぶりね」
そこにはハーゼ。人間の女が立っていやがった!! なぜだ、この俺様の完璧な隠密行動が筒抜けだと!?
「この屋敷はね、防犯の魔法がかけられているの。だからあなたみたいな侵入者はすぐに発見されるというわけ」
なんだと! 人間どもめ、そのような魔法を作っていたのか!! この卑怯者め、罠など貼らず正々堂々と勝負できないのか!!
「貴様ぁ! このひきょう……」
俺が叫ぼうとしたけど、止められてしまった。
あの女が片手で俺様の口をふさいだのだ。
「確かまぼろしネズミさんでしたね。いったい何しに来たのかしら?」
もごもご!
いや、しゃべれねーよ! 口をふさがれてたらしゃべれねーだろうが!!
「ふぅん、話す気はないんだ。人間如きに語る言葉なんかないと言いたいわけね?」
言ってない、言ってねーよ!! 何その笑顔、怖い、すごく怖い。
「明日は農村へ視察に行くから、寝ようと思っていたのにね。突然あなたが来訪してきたから、わざわざ起きたのよ。ふふふ」
笑っているけど、目が冷たい! 魔法を使ってないのに、背筋が凍るよ!!
すると女は俺様をぶんぶんと振り回した。まるで犬に棒を投げるみたいにだ!!
俺様の身体はすごい勢いで飛ばされた。女はにやりと笑っていたのが見えた。
その後、俺様の意識は途絶える。
「まぼろしネズミさん大丈夫?」
俺様が目覚めると、マネギンたちがいた。俺様はいったい何をしていたんだ?
「まぼろしネズミさん、お空から飛んできたよ。いったいどうしたの?」
マネギンが言った。そうだ、俺様はあの女に投げ飛ばされたのだ。
というかここまで投げ飛ばされて、まだ生きていたから驚きだよ。
「ふは、ふははははは!! あの女俺様にびびって泣いて土下座しやがった!! だから俺様はダイナミックに帰宅したのだよ、ふはははは!!」
とりあえず高笑いして誤魔化そう。大丈夫、マネギンは幼いからなんとかなる!!
「……帰宅したにしては、気絶していたのはなぜですか?」
一匹のマネギンが痛いところを突いてきた。こいつはネームドモンスターのマネビンだ。頭がよく、炎を吐く特技を持っている。
うう、痛いところ突きやがるな!!
「ああ、きっとうっかり間違えたのでしょう。猿も木から落ちるといいますからね。まぼろしネズミさんも失敗することがあってもおかしくないです。むしろ親しみを持てますね」
すぐにマネビンは俺様を持ち上げた。その通りだよ、つい着地を間違えてしまったのだ。あっはっは!!
「そうなんだ、ぼくもマネビンの意見に賛成だよ」
「うん、まぼろしネズミさんは強いだけでなく、親しみやすいね」
「さすがはぼくたちのリーダーだよ!!」
他のマネギンたちは喜んでいた。そう、俺様は偉いんだ! さあ、もっと俺様を褒めたたえろ!!
「ふはははははははは!!」
「まあ、大人を立てるのが、大人だよね」
マネビンのつぶやきは俺様の耳に届かなかった。




