第44話 ヘンゼル陛下との謁見
私はお城に連れてこられた。見た目は童話に出てきそうな、真っ白い立派な造りだ。
迎えの馬車は上質なもので、乗り心地はよく、同乗していたメイドは私の世話を折り目正しい態度であった。
さらに話術もうまく、退屈な馬車の中も眠らずに済んだ。
城の入り口は商人たちが荷物を馬車で運んでいる。衛兵たちが中身を検閲していた。
中身を置いて空の馬車が戻っていく。
さて私はお城の中に入ると、従者に案内される。城の中は大理石でできており、どれも真っ白でピカピカだ。
装飾品は素人目でもすばらしいものに映っている。城の衛兵も礼儀正しく、きっちりと自分の仕事をこなしていた。
そんな中で私だけバニーガールの衣装を着て、闊歩しているのだ。場違いにもほどがあるが、城にいるものは、決して私に奇異の目を向けることがなかった。
そして私は王の間に案内された。学校の体育館ほどの広さで、衛兵が赤いマントに全身甲冑で身を固め、十数人ほど横に控えていた。
王座には少年が座っている。立派な王冠に赤いマントを羽織っていた。年齢は十代後半のようで、美少年というより、美少女に近い気がする。
その右に鎧とマントを着た二十代の精悍な男性と、メガネをかけた知的そうな二十代の男性が立っていた。
「初めてお目にかかります。私は料理ギルドのマスター、ハーゼと申します。お噂はかねがねうかがっておりました。ご一緒できて光栄でございます」
私は脳内で神の知識を検索し、挨拶をする。
「うむ、余はエアツェールング王国国王、ヘンゼル・ド・エアツェールング三世である。今日は余のわがままを受け入れてくれて、嬉しく思うぞ」
「もったいなきお言葉でございます」
初めて聞くヘンゼル陛下の声は、女性声優が男の子を演じているような声だった。
そして眼鏡をかけた男性が数歩、前に出る。よく見るとさらさらヘアーに頭が小さく、鋭い目つきに、長いまつげ。すらっとした長身に気品がにじみ出ている。
心の声は聞こえない。くまかぶとの殻で作られたうさ耳バンドでも一切声が聴こえないのだ。
代わりに相手が私にどのような感情を向けているかはわかる。彼は少しだけ私に興味を抱いている様子だった。
「私は宰相フローリアン・ド・ヨルクです。本日はあなたに爵位を授けるために呼ばせていただきました」
そう言って宰相フローリアンは慇懃な態度で答える。あの人が最掘るギルドのマスターの息子か。父親とあまり似ていないな。母親似かもしれない。
「容姿は母親似ですが、中身は父親似と言われていますね」
フローリアンが答える。まるで心を読まれた気分だ。もしかしたら表情に出ていたのかもしれない。
右に控えている鎧を着た男性はくすりと笑った。それを見て、フローリアンはこほんと咳払いする。
「あなたの身元不明ですが、数々の功績をあげております。様々な料理を作り、ギルド内の規則を作り上げた。おかげで領民の生活は潤い、他のギルドも参考にしております。税収が上がり、犯罪率も減りました。よって男爵位を授けます。謹んで受け取るように」
そう言って従者の少年がトレイを持ってきた。その上に勲章が載っている。
私は右脇腹につけてもらうようにした。バニーガールにとってその位置は重要なのだ。
しかし私が貴族か。男爵は領地がない、一番下の地位だと言われている。まあ、貴族は貴族だ。それに各ギルドマスターたちは元貴族で、私だけ庶民というわけにもいかないのだろう。
「さて堅苦しい話はこれで終わりだ。余はそなたを直に見たいと思っておったのだぞ」
「ああ、そうだな。前に大空いっぱいで広がっていたこいつの胸に興奮したんだよな?」
「トビーアス! 余は彼女の胸に興奮などしておらん! むしろ憧れを抱いておるわ!!」
トビーアスと呼ばれた男性はヘンゼル陛下をからかって笑っていた。見れば髪を短く刈り上げ、精悍な顔つきである。スポーツマンのような爽やかさと逞しさを兼ね備えていた。
彼はルドルフ氏の息子なのだ。以前ヘルゴートを退治したときに見かけたが、こちらに対しては含むものはないようで安心した。確か手柄を焦っていると聞いたが、あくまで噂なのかもね。
ヘンゼル陛下にため口を聞いており、フローリアンは苦い顔になる。
この三名は幼馴染という話だから、気さくなのだろう。
「ところでそなたは堂々としておるな。まったく恥じらう様子がない。そのような煽情的な衣装を着て、赫々《かっかく》たる態度だな」
ヘンゼル陛下に言われて、私は気づいた。まずい。バニーガールに必要なのは恥じらいなのだ。アンヘンガーが指摘してくれたのに、私はそれを忘れてしまっていたのである。
城に呼ばれて緊張したためだろう。
「はっ、はい……。本当は恥ずかしいのですよ。男性に自分の胸部と臀部を眺められるのは、顔から火が出る思いですわ……」
私は右手を握り胸元に当てる。左手はお尻の方を隠した。くねくねとしなをつくる。自分でも気持ち悪いと思っているが。
「今更恥じらっても意味がないだろう。あんたが普段からそいつを普段着にしていることは、すでに調べがついているんだよ」
トビーアスに突っ込まれた。しかしヘンゼル陛下は顔を赤くしている。まるで初心な少女のようだ。
「しかし先ほどの仕草はよかったぞ。最初に出会ったときは、バニーガールという魔物と思ったが、恥じらう姿を見て、人間だと決断したのだ」
私は魔物と勘違いされていたのか! というかバニーガールを魔物扱いされて悲しくなった。恥じらうことで人間と決定されるとは皮肉である。
「そなたはいったい何者なのだ? 珍しい料理を作り、見た事のない素晴らしいものを発明する。まるで神の使いのようだな」
「はぁ……。確かに神様の知識をいただいておりますので、あながち間違ってはおりません」
ヘンゼル陛下が絶賛するが、私は苦い顔になる。自分がゼロから考えたわけじゃないから、居心地が悪い。
「……やはり、そなたは異世界から来た元男なのだな」
「―――!? なぜ、それを?」
「簡単なことだ。そなたは余が絶賛しても顔を曇らせていた。それは知識としては知っているが、自分が作ったわけではないのだ。誇る様子がないのは、その世界には当たり前のようにあるものだろう。後ろめたさもあったからな。そして元男とわかったのは、恥じらいがまったくなかった。こちらは大魔女が大空でそなたの乳房を晒されたときだ。そなたはまったく動揺しておらん。それで気づいたのだ」
ヘンゼル陛下は真顔で答えた。フローリアンとトビーアスは少し動揺している。どうやらヘンゼル陛下が独自でたどり着いたようだ。
若いがなかなか知恵のあるお方のようだな。
「……ところでグレーテルはどうした? あの好奇心旺盛なおてんば娘がなぜハーゼに会いに来ない?」
ヘンゼル陛下が唐突に口を開いた。そこにフローリアンが口を挟む。
「グレーテルさまはご病気でお部屋にて休んでおります。それとゴッルも病気で休みを取り、実家に戻っております」
「ゴッルがだと!! 毒キノコを拾い食いしても平然としているあいつが、わざわざ休むとは思えん!!」
トビーアスが叫ぶ。ゴッルというのはトビーアスの妹らしい。しかし毒キノコを食べてもへっちゃらなのか。どんな胃袋なのだろうか。
「……なるほどな。トビーアスよ、もし実家に戻ることがあれば、一週間は許すと申すがよい。それ以上は許さんとな」
「は? 俺は戻るつもりはないぞ。それにゴッルとは一緒に暮らしていないし」
トビーアスは不審そうに答えた。首を傾げている。フローリアンだけ唇で薄く笑っていた。
こうして謁見は終わり、私は帰宅した。




