第43話 バニーガールの魅力
「ただいま~、みなさん、留守中、元気にしておりましたか~?」
私は空から飛び降りた。武具ギルドのマスター、マンフリート・ド・アインデッカー氏が所有する魔法の箱舟で帰ってきたのである。
魔法の箱舟は大型バスほどの大きさで、きらびやかな外観に、室内はソファーやテーブルなど立派な装飾品が飾られている。
食器棚にはグラスや酒瓶が並んでおり、まるで貴族の部屋を思わせるものがあった。
ちなみにマンフリート氏は、あれ以来ぱふぱふを望まなかった。あれは生涯に一度経験するのが吉であり、何度もやるとありがたみが無くなるとのことである。
アインデッカー領から走ってきたが、やはり空を飛んだ方が早い。年甲斐もなく心が躍る気分だ。
そして料理ギルドの本部に到着すると、私は飛び降りたのである。
マンフリート氏は別れを告げようとして、あごが外れた。私は苦笑いしてしまうな。
さて私は新体操選手のように体を丸め、くるくると落下する。そして両手、両足を地につけて着地した。
「マスター、おかえりなさいませ」
本部から数人の職員たちが出てくる。副ギルドマスターのマギー・シュピーゲルを筆頭に、女性職員がぞろぞろと整列したのだ。
しかもマギーたちは私と同じバニーガールの衣装を着ている。マギーは赤色で、他の職員は白に青、黄色にピンクとさまざまである。
マギーは鉄面皮のように無表情だが、背後の職員たちは恥ずかしそうに、もじもじしていた。
「ただいま、マギー。これはいったいどういうことかしら?」
「はい。これらは裁縫ギルドが作ってくれました。ハーゼさまが身に付けているものと比べると、はるかに質は落ちますが、それでも再現度は高いはずです」
そういってマギーはぽんぽんと胸を叩く。私が来ているバニースーツと比べると、少々荒いものだが、遠目では区別がつかない。
うさ耳も質はよろしくなく、網タイツも粗めであった。だが問題はない。一般人には私の物と区別はつかないだろう。
私は女性職員の方を見る。特に黄色いバニースーツに身を固めたミルドレッドは恥ずかしそうであった。
視線を下に向け、きょろきょろしている。
「うう、恥ずかしい……。マスターはよくこんな格好をしてられますね」
ミルドレッドはぶつぶつ不満を漏らしていた。すると遠くからかける音が聴こえた。
それは回収人の少年、補佐師のアンヘンガーである。
「ちがーう! 君たちは間違っていない! むしろマスターが異端なのだ!!」
うわっ! いきなりやってきて、こいつは何を言っているんだ?
「そもそもその衣装に必要なのは恥じらいなのだ! マスターのプロポーションは最高で、素晴らしいエロスがある!! しかし恥じらいがないのでその魅力が半減しているのだ!! 大空でおっぱいを晒してもまったく興奮しないのがその証拠である!!」
アンヘンガーは主張する。まったく彼の言う通りであった。
そもそもバニーガールになっても、違和感があったのだ。
それに周りの人間は私の事を魔物だと思われており、正直不満がないといえばうそになる。
ちなみにパソコンの美少女ゲームでは、バニーが敵として登場することもあった。なので魔物扱いされてもおかしくはない。
私は女性職員たちを見る。恥ずかしそうに胸元や股間を隠していた。
そう、これこそがバニーガールの魅力なのだ。そもそもバニーガールとは普段の生活には無縁の存在である。
キャバクラやガールズバー、特殊な場所ならカジノという異質の空間のみに存在するのだ。
それなのに私は普段着として身に着けていたのだ。もっとも某国民的ゲームでも、バニースーツを装備すれば、バニーの格好になるけどね。
それ以上に私には恥じらいがない。中身が男だからバニーガールになっても平気なのである。
好奇の目で見られるが、慣れると平気なものだ。
「そうだよ、アンヘンガー。君の言う通りです。本来この衣装に必要なのは、これに似合うスタイルではなく、恥じらいなのです。私にはそれがない。あなたは私に気づかせてくれました。ありがとう!!」
私はアンヘンガーの手を取り、涙を流す。頬に熱いものが伝わった。
この世界で初めて感動を覚えたのである。
「そうでしたか! 私も何か物足りないと思ったけど、マギーさまたちがその衣装を着て恥じらったとき、足りないものがわかりました! それを伝えられて満足です!!」
アンヘンガーも感動している。私と彼はこの時点で気持ちが通じ合ったのだ。
いうなればネットで同じ趣向の者同士に出会えた感動に似ている。
もっとも女性職員たちは首を傾げていた。流した涙の意味はさっぱりわからないだろうな。
「そういえば王都で私が胸を晒したことは、ご存知でしたね。いったいどういう状況だったのですか?」
私は思い出したように質問した。それをミルドレッドが答える。
「ある昼下がりに大空一杯映像が広がったのです。そこではマスターが魔物を倒し、胸を晒された姿を映されたのです」
そう言って水晶玉を取り出した。そこには大空に映し出された映像が見えた。
それは私がフォッカー砂漠で魔物を倒し、まぼろしネズミに胸元をがばっと下げられたシーンが映されている。
それを見た私はある違和感が湧いた。水晶玉には私の大きな胸が目の前に広がっているのだが、そいつはまぼろしネズミの視点なのだ。
つまり当時まぼろしネズミが目にしていたものを、王都いっぱいに広められたのである。
あの時のまぼろしネズミは自分の意思で動いているように見えなかった。まるで何かに操られた感じだった。
「そういえば私に何か罪はあるのでしょうか?」
意図したわけではないが、王都におっぱいを晒したのだ。この世界に公然わいせつ罪があるかは不明だが、ただではすまないだろう。
「問題はないですよ。そもそもあれは大魔女エヴァンジェリンの犯行と判明しております。ハーゼさまは自分で胸を晒したわけでもなく、見せつけているという故意もありませんからね。知り合いに尋ねましたが、むしろハーゼさまは被害者ということになってます」
こちらはマギーが淡々と答えた。よかった。私だけが捕まるならともかく、ギルドに迷惑はかけられないからね。
「しかーし、あの事件の後、マスターの人気はうなぎ登りです!! なぜならバニーガールという魔物が、皮を剥がされても内臓が見えなかったのですからね! コロッケ女王は普通の人間だと証明されたのです!!」
アンヘンガーは興奮気味に答えた。ミルドレッドを含めた女性職員の胸元や、太ももをスケベな目で眺めている。鼻息を荒くし、べろべろと舌を犬が息をするように出していた。
あまりのひどさにマギーが頭にゲンコツを食らわせ、アンヘンガーは大きなたんこぶを作って倒れた。
というかバニーガールは魔物扱いされていたのか。なんとも悲しいことだ。
まあ、うさ耳魔女のウサリーがいたから、そう思われても仕方あるまい。
「もしかしたらお城にいる国王さまが、マスターの素晴らしい乳房に見惚れて、馬車で迎えに来るかもしれません」
ミルドレッドがつぶやいた。するとマギーが即座に否定する。
「それはありえません。ヘンゼル陛下が女性の胸に興味を抱くなどありえません」
「そうでしょうか? 私は女性ですが、ハーゼさまの胸にきゅんとなりました」
「私もです! どうせならいますぐマスターのぱいおつをもみもみしたいです!!」
ミルドレッドはちらりと私の胸を見る。なんとも怪しい視線だ。
アンヘンガーはすぐに復活して、わきゃわきゃと両手を蜘蛛のように動かす。
マギーの裏拳が顔面に当たり、再び気絶した。
「よろしいでしょうか?」
背後から声がした。それは身なりの良い貴族のような中年男性であった。
まったく近づく気配がなかったので驚いた。きりっと立っており、高貴な雰囲気がある。
「わたくしはエアツェールング王国国王、ヘンゼル・ド・エアツェールング陛下の命により参りました。料理ギルドマスター、ハーゼ殿に登城するよう命じます。陛下と謁見してもらうためです」
懐から紙を取り出し、読み上げる。
「すでに迎えの馬車を用意したしました。どうぞ」
さらに立派な馬車がすでにあった。数頭の白馬に牽かれたものである。いったいいつの間に来たのか、さっぱりだ。
チート能力を持っても、なんでも察知できるわけではないようだな。
「いきなりですね。この衣装では不敬になるので着替えてよろしいでしょうか?」
「いいえ、陛下はそのままで構わないとのことです。むしろその衣装でなければいけないのです」
使者の男性はそうきっぱり言い切った。
バニーガールのママで、登城を求めるなど、どういうわけだろうか。
マギーを見たが、眉をぴくりと動いた。驚いているようである。
そういえばマギーとヘンゼル陛下は幼馴染とのことだ。私と謁見することがそれほど意外なのだろうか。




