第37話 網タイツが完成したよ
「まあ、なんと不思議な衣装でございましょうか」
朝方、私こと、ハーゼは料理ギルドのマスターである。ギルド内では、朝早く裁縫ギルドから届け物があったのだ。
私が待ち望んでいた網タイツである。網タイツはパンティストッキングに近いものだ。
下着であるパンティと長靴下であるストッキングと一体化したものである。
1963年にアメリカで世界初のパンティストッキングが開発されたのだ。よって歴史はかなり浅いと言える。
ここは異世界なので、網タイツもなんとか作れたのだ。素材もフライスパイダーの糸で、かなりのレアものらしい。
やっぱりきめ細かい網タイツはよいな。そして姿見でチェックしたが、バックシームもある。
これがないとお尻が丸く見えないのだ。いらない縦線と思われがちだが、絶対の必需品である。
うさ耳バンドにバニースーツ、網タイツにハイヒールとすべてそろった。ハイヒールはてつとかげの皮で作った物で、網タイツと一緒に届けられた。
「うわー、おねえちゃん。うさぎの魔物みたーい! びっくりー!」
幼女のゲッティンが私を指さして驚いている。まるで珍しい見世物を見ているかのようだ。
その横には母親のツァールトが立っている。私の姿を見て、感心していた。
ちなみに男性職員たちはツァールトに対して、普通である。一日かけて夢の中で男性職員のいのちの精を抜いたのだ。
おかげで女性職員たちのイライラも収まっている。一件落着だ。
しかし私は彼女にムラムラしている。ツァールトにもバニーガールになってもらいたいな。
「むーん。わてらが作ったもんでござんすが、ハーゼ殿が熱を入れる理由がわかったでござんす。これらはすべてそろうことで、こうも神々しさを増すとは思いやせんでした」
そう言っているのは裁縫ギルドのマスター、トリステン・ド・ヨルクである。
見た目はアフロヘアの中年親父だが、元宰相というから驚きだ。しゃべり方がなんか個性的だが、顔つきは凛々しく知的な色がにじみ出ているのに気づいた。
「ありがとうございますヨルク様。私の理想をはるかに上回った出来でございます」
「いやいや、わてらも大変な勉強になりましたわ。このバニーガールの衣装はすばらしいでござんすな。この長いうさ耳バンドは、自分より体を大きく見せられるし、バニースーツは身体がはっきりわかるから、暗器を隠すこともできない。逆に客人に安心感を与えるでござんす。お尻にあるウサギの尻尾は相手に油断を誘うでござんすな。そして網タイツ! これはよい。履いた者の脚をすらっと長く見せるから、相手の間合いを狂わせるでござんすよ! 最後にハイヒールも、一見歩くのに不自由するが、逆になれれば揺れる船や綱一本も走って渡れる優れものでござんすよ。うちのものにためさせたから間違いないでござんす」
試したのか! というかバニーガールは戦闘服じゃないんだけどな。
「確かに素晴らしいですわ。肌の露出は抑え目ですが、女性の身体をこうも美しく魅せられるとは思いもしませんでした。ふふふ、今晩はさらに盛り上がりますわよ」
副ギルドマスターのマギー・シュピーゲルがつぶやいた。怪しい目つきですごく怖い。
「これでヘンゼル陛下を認めさせる旅に行けるでござんすよ」
はあ? ヨルクさんは何を言っているんだろうか。
「これからハーゼ殿は三つの品物を取りに行ってもらうでござんす。ひとつは東のアインデッカー領にある、フォッカー砂漠のピラミッドにあるミラクルシュガーを持ってきてもらうでござんす。こいつは十年に一度しか採れない貴重な砂糖でござんす」
「いやいや、なんで私が行かなくてはならないのですか? 私はヘンゼル陛下の正室になどなれませんよ。身分も違いますしね」
そう私はギルドマスターだが所詮は庶民だ。王様の妻になれるわけがないのである。
「別に正室になる必要はないでござんす。ヘンゼル陛下が自分の信じる世界をぶち壊す必要があるのでござんす。もう陛下は疑心暗鬼に駆られ、トビーアス将軍やフローリアン宰相の言葉も耳に届かなくなっているでござんす。ハーゼ殿の常識を超えた力でぜひともヘンゼル陛下を救ってほしいのでござんすよ」
ヨルクが説明する。結婚を強要する気はないようだ。あくまで王様を助けたいようである。
次にマギーが説明した。
「ちなみにミラクルシュガーはここ百年、アインデッカー家の歴戦の戦士でも取れなくなっております。ルドルフ元将軍とトビーアス将軍ですらたどり着けなかったのですから」
マッケンゼン氏ですらできなかったのか。この私にできるか不安である。
「まずはアインデッカー家に行ってピラミッドに入る許可をもらいます。基本的にキングシュガーは一般人でも採りに行けますが、ミラクルシュガーは危険な場所にあるのですよ」
「すっごーい! おねえちゃん、そんなところにいくんだー! かえってきたらあたしもたべてみたーい!!」
ゲッティンが無邪気に叫ぶ。ツァールトは娘をたしなめていた。
うむ、ゲッティンにも少し分けてやりたいな。それにいろいろお菓子も作りたいしね。
「ところで砂漠の装備はどうしますか? 直射日光除けに厚手のマントが必要だと思いますが……」
「いりませんわ。ハーゼ殿のバニーガールなら難なく突破できるでござんす」
ヨルクの言葉に私は疑問を抱く。いくらなんでもバニーガールで砂漠を超えられないだろう。私がチートだから無茶ぶりをしているのか?
「実はそのバニースーツは魔力だけでなく、直射日光や水分を吸収し、魔力として放出する性質があるのでござんす。さらにその網タイツは魔力を効率よく放出することができるのでござんすよ。フライスパイダーは魔力を自在に放出する魔法使いでもあるでござんすので」
つまり砂漠の熱をバニースーツが吸収し、網タイツがそれを魔力として放出するそうだ。
それにうさ耳も熱を逃がす手伝いをするという。そういえばスナネコやフェネックなど耳が大きな生き物も、熱を逃がすといってたな。
さすがに日焼けや髪の手入れは必要になるが、その装備なら私でなくても回収人なら大丈夫だという。
私が作らせたバニーガールの衣装がそんな大層な装備になるとは思わなかった。
本当はテレビで見たバニーガールの衣装を再現したかったのだが、私自身バニースーツを知らないため、想像の力が補佐したためだろう。
正直、男のために動きたくはないのだが、そうしないと国が崩壊しかねないのだろう。
ヘンゼル陛下は若くして王様になったから、ありもしない妄想に憑りつかれているのだ。
それを打ち砕くには、私のチートを見せつけなくてはならないのである。
「ハーゼさま、ご無事をお祈りしております。帰宅したら私もバニーガールになりたいと思います」
ツァールトの言葉に、私はやる気が起きた。ヨルクは個人で私の着ているバニースーツに近いものを製作しているという。
酒場を作らなくても、バニーガールが増えてくれることは嬉しい。
しかし、バニーにふさわしい場所を作らなくてはならないのだ。まだまだ難関が待ち構えているのである。




