第20話 回収人たちと日常会話
「あれでよかったのでしょうか?」
私は空を見上げながら、つぶやいた。周りは木に囲まれており、ピクニック気分になる。
とても先ほどヘルゴートという、巨大な魔物が徘徊したとは思えなかった。
「問題ないでゴワスよ」
後ろから声がした。丸顔の巨漢、コッホである。大岩のような体格だが、どこか純朴そうに見えた。気は優しくて、力持ちという感じである。
コッホは父親が子供に教えるように話す。
「トビーアス将軍は賢いお方でゴワス。ハーゼどんの圧倒的な力は、唯一無二のものでゴワス。それ故に次回は自分たちの力で、ヘルゴートを倒す策略を組むでゴワスよ」
「これはルドルフ将軍の教えだミャー。あの方はものごっつつえーお方なんだわ。ニャからこそ、軍が自分を頼らないように、厳しく教えとるんだがね」
コッホの言葉を継いだのは、シュナイダーという人だ。身体ががりがりに痩せており、まるで槍に手足が生えて歩いているようであった。
その一方で眼光も鋭かった。迂闊に触れれば肌を切ってしまいそうになる。
「んだんだ。オラだつはルドルフ将軍の元できびしーく、鍛えられたんだぁ。だから、トビーアス様も同じなんだべさ」
答えたのは子供のように小さい男だ。名前はアールツトといい、声は少し甲高い。
顔はマスクで覆われて見えない。烏のようなくちばしに、目はレンズがハマっていた。
中世ヨーロッパで有名なガスマスクに近いものだ。
「僕はハーゼさんのお尻を撫でたいです! ついでに太ももを頬ずりさせてくれると嬉しいです!!」
彼はアンヘンガーといい、一番若い。まだあどけない少年だが、一番スケベだ。
一見活発そうで健康そうな少年が、口からエロい言葉を並べるので、辟易している。
彼は補佐師という役職で、現在先ほど倒したヘルゴートの身体を風船魔法で浮かせていた。まるで気球のようである。
コッホは彼の頭にゲンコツを食らわせた。頭を押さえ、目から星が出たようである。
彼らは回収人と呼ばれ、料理ギルドの精鋭だという。
「正直、私の力を頼るようなことはしたくありません。今はいいかもしれませんが、私は不老不死ではない、いつかは死ぬのです。その時、私なしでギルドが成り立つとは思えません」
「その通りでゴワス。オイドンたちもハーゼどんを頼るつもりはないでゴワス。もっともハーゼどんには教育と訓練をお願いするでゴワス」
私もそれには賛成である。個人の力に頼り切ると、その人が死ねば、終わってしまう。
かつて古代ギリシャ文明は天才ひとりに頼った故に、その人の死後、衰退していったのだ。
逆に古代ローマ文明は、法律を重要視し、誰が頭になっても問題ない体制を作り上げたのである。
私にできることは、回収人見習いたちを鍛え上げることだ。それを引き継ぎさせるのだ。
料理の件は問題ない。レシピと整理整頓を義務づかせればいいのである。
「……私が初めてルドルフ将軍、マスターマッケンゼンさんに出会いましたが、そこまで優秀な人とは思えませんでしたね」
私は目をつむり、思い出す。筋肉ムキムキで日焼けしており、なんとなくアッチ系を連想した。ガチムチパンツレスリングをしていそうな感じである。
料理ギルドのマスターにしては、豪快に焼くしか芸のない人だった。
一応、珍しい食材を使っているようだが、ひたすら焼くだけだったことを思い出す。
コッホたちは、前のマスターを尊敬しており、私の発言に腹を立てると思ったが、おとなしいものだ。
こくこくと、首を縦に振って肯定している。
将軍としては有能で尊敬できる人物だが、料理ギルドに関しては凡人以下というわけだろう。
「それにしてもマッケンゼンさんは、なぜ料理ギルドのマスターになったのでしょうか?」
これは私も不思議に思っていた。神様の神託とはいえ、畑違いのギルドマスターをやれと言われて、納得するものだろうか。
いや、神託を重要視する世界であろうが、それでも受け入れられるものであろうか。
「将軍は奥様を亡くされたからでゴワス。病気でやせ細り、食事もろくに通らなかったと言われているでゴワス」
それは今から数年前の事らしい。魔法のある世界でも病気は簡単に治らない。
金のない一般人はおろか、王族や貴族でも病気は無縁でないのだ。
その奥さんの最後の言葉は「あなたの手料理が食べたい」だったそうな。マッケンゼン氏は今まで家庭を顧みなかったという。
なるほど、それでマッケンゼン氏は後悔したのだろう。妻の最後の願いをかなえることができず、さぞかし無念であろう。
もっとも料理ができるわけではないから、めちゃくちゃなものしかできなかったろうが。
「そうでしたか。それにしても息子のトビーアス様は大変でしょうね」
何しろ偉大な父親の跡を継ぐのだ。周りに何を言われるかわからないだろう。
二世タレントが不祥事を起こし、覚せい剤に手を染めるのは、周囲のプレッシャーが原因だ。
期待が大きすぎて、押しつぶされる可能性がある。
「!? だからコッホさんは私にヘルゴートを倒させたのですね? トビーアス様に圧倒的な実力を見せつけ、上には上がいることを教えるために」
コッホは静かに頷いた。一見愚鈍そうなハゲ男であるが、気遣いが上手である。
癖はあるが、なかなか人のできた人たちだ。もっともアンヘンガーは別だけどな。
「ああ、眼福、眼福。ぴっちりしたお尻をプリプリさせながら歩く姿を、眺められるなんて!! もう、たまりませんな!!」
まったくアンヘンガーは懲りないのであった。なんで彼がここにいるのか不思議である。
これは補佐師の腕の良さが買われており、人格は無視されているのだろう。
この辺も教育しないといけないな。もっともアンヘンガーはどうにもならない気がするね。




