第21話 うさ耳バンドが完成しました
「ハーゼさま、ご注文の品が届きました」
料理ギルドに帰ってきた私を迎えたのは、副ギルドマスターのマギーだ。
相変わらず無表情で、フィクションに出てくるキャリアウーマン風だが、ベッドの上では献身的なことを私は知っている。
まあ、彼女の秘密をしゃべったところで誰も信じないだろう。逆に口を滑らしたら身の破滅だ。
暴力ではなく、あらゆる手段で社会的に抹殺されそうな感じがする
「ご注文の品だって?」
私が訊ねると、マギーは首を縦に振る。そして首だけ右を向き、パチンと指を弾く。
すると女性職員が目を瞑りながら、恭しく大き目な紙の箱を持ってきた。
「裁縫ギルドからです。うさ耳バンドが完成したとのことです」
再びマギーが頭を下げる。私はそれを聞いて胸が躍った。
しかし素材のくまかぶとは手強いと聞いたが、大丈夫なのだろうか?
「マスター。彼らは依頼者の要望を達成したにすぎません。例え体と心に傷が付こうとも、ギルドの看板に比べれば些細なことですわ」
私の目を見ながら、マギーは言った。まるで私の甘い部分を見透かしているようである。
「マギーどん、うさ耳バンドとはなんでゴワスか?」
背後で声がした。回収人のコッホだ。彼らと一緒にいたことを忘れていた。補佐師のアンヘンガーだけいない。彼は獲物を倉庫に置いていったのだ。
ヘルゴートは倉庫に運ばれ、解体するという。肉や内臓はうちのものだが、皮や骨は他のギルドに売るらしい。
あれ一体で金貨300枚の価値があるそうだ。ちなみに金貨一枚で一万円。銀貨一枚で千円。銅貨一枚で百円だそうだ。他に骨貨という獣の骨で作られた貨幣もあり、こちらは十円単位である。
「そうですね。説明するよりもハーゼさまが着替えていただければよろしいかと」
マギーがとんでもないことを言った。それは私にバニーガールになれというのかい?
いくらなんでもギルドの中で、職員や一般人もいるのに、それは恥ずかしいな。
「マスターのすばらしさを理解していただくのに、あの衣装ほど最適なものはありません。着替えは用意しておりますので、さっそくまいりましょう」
そう言ってマギーは私の両肩を掴む。逃げようとする私をがっしりとつかんで離さない。
一見、インテリ系に見えて、なかなかの武闘派だ。
目を見るとどこかうっとりしたものが含まれている。私のバニースーツを見たいのだろうか?
私は強引に個室へ連れて行かれた。マギーは素早い手つきで、私の衣服を脱がしていく。
あっという間の早着替えだ。私もびっくりしているよ。
網タイツを履かせ、バニースーツを着させる。カフスと蝶ネクタイは風が吹いたと思ったら、あっという間に身に着けていた。
ハイヒールもいつの間にか履いている。
「あれ? このバニースーツと網タイツ。前に屋敷で着たのと違うね」
私は着替えさせられて、初めて気づいた。前のバニースーツはスカイサーモンの皮だったはずだ。
網タイツも前はパンティストッキングに近かったが、少々網目の荒いタイツになっている。
「バニースーツは吸血蝶の羽根と、鋼草を使ったとのことです。網タイツは綿坊主という魔物の綿と、自然に生息する黒茂の糸を使ったそうです」
吸血蝶は文字通り血を吸う蝶々で、猫並みに大きいという。鋼草は文字通り鋼のように硬い草だが、丈夫な衣服ができるらしい。
綿坊主は二本足で歩く羊の魔物だが、植物系だそうな。黒茂の糸は洞窟などの天井に生える黒茂から採れるという。
「この間のはあくまで試作品です。すべてが終わった後、バニースーツを大量生産するめどを立てているようですわ」
「いや、私が提示した素材を使えばいいだけでしょう?」
「……ハーゼさま。一度うさ耳バンドをつけてごらんなさい。それはあなた以外身に付けることは不可能なのです」
マギーは真面目な顔で訴える。私はうさ耳バンドを手に取った。テレビ番組で見る憧れのうさ耳バンドだ。黒を基調としており、長い耳が特徴である。
光沢も艶々して高級感があった。もっとも私は風俗でしかバニーガールを見た事がない。
生きている間にバニーガールがいるガールズバーに行きたかったなと、それだけが心残りであった。
さてさっそくうさ耳バンドを頭につけてみた。
一瞬、頭の中に耳鳴りがする。景色がぐにゃりと歪み、声が大洪水のように押し寄せてきた。
生前、とある人気ロックバンドのライブ動画を見たが、それに近いものがある。
「なっ、なんですかこれは!?」
「これがくまかぶとの殻の力です。くまかぶとは周囲の音を拾い、それを溜めて攻撃することができるのです。よってその殻を利用した装飾品は、周囲の音を無差別に集めてしまうのです」
マギーが説明してくれた。なるほど、これは私以外装備不可能のようだ。
「ふん!!」
私は気合を入れる。耳を澄ませ、集中した。すると声は収まっていき、普通に聴こえてくる。
「ふぅ、なんとか調整できました。もう大丈夫です」
「……いったいどうやったのかわかりませんが、やはりハーゼさまは最強ですね」
マギーが褒める。私は照れてしまうが、どこか目付きが怪しい。屋敷の時に渡しをベッドに誘ったときの目だ。
私はすぐに部屋を出る。マギーが暴走しないためにである。
「じゃじゃ~ん! おまたせしました~♪」
私は部屋を出た。半分ヤケクソ気味なのは、察してください。
コッホを始めとした職員たちも、私の衣装に目をくぎ付けにされていた。
男性職員は煽情的な衣装に目を奪われ、女性職員は手で目を隠すも、ちらちらとのぞき見していた。
「!? なんでゴワスか、その衣装は!!」
(―――耳が長い! 先ほどと身長がまるっきり違うでゴワス! これは暗殺のための衣装でゴワスか!!)
「なんともハレンチな恰好だミャー。そんなに身体を見せつけるなんてどうかしているミャー」
(スタイルがまるわかりだミャー! これは他国からの来客に最適だミャー。なんたって暗器を隠す場所がないからミャー)
「ぶほっ、あんまり奇天烈な装いだべ、吹き出しちまったべ」
(あの耳はくまかぶとの殻を使っているべ。おそらく周囲の声を自然に聞ける魔法具だべな。おそらくオラの心の声も聴こえているにちがいねえだよ)
コッホたちは言葉と本音がまるっきり違っていた。暗殺用だの、結構物騒なことを言っている。さすがは前のマスターの部下であるな。
というか心の声が聴こえてくるのはまずいな。下手に扱うと疑心暗鬼になりそうだ。
「マスター。お似合いです」
(ああ、なんてかわいいのかしら! 最初はあの耳はいるのかと思ったけど、あれがなくては物足りませんわ!! ああ、早く夜が来ないかしら、あの衣装で思いっきり可愛がってあげたい! というより私も着て、一緒に楽しみたい!! ねえ、いいでしょう!?)
マギーの本音は欲望まみれだ。しかもうさ耳バンドの力を知っているから、心の中で同意を求めているよ。
そうこうするうちにアンヘンガーがやってきた。彼は私を見て、目を大きくして興奮している。
「すげぇ! こんなエロくて、かっこいい衣装は初めてだ!! こいつのメインは尻と脚だ、なでなでさせてください!!」
彼の声と心は一致していたのは、言うまでもない。なんというかまったくぶれないのがすごいな。




