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2:綺羅の空間で場違い

 間違いだ…私がここにいることは絶対何かの間違いに違いない。もしくは夢、そう夢だ。だいたい見上げると首が痛くなるような高い天井のある広い居間、ちょっと力を入れれば割れちゃうんじゃないかと持つ手が慎重になるティーカップはブラッドリーさんとの昼食で見たようなもので実家ではめったに出てこないもの、ここは綺羅の空間……やっぱり地方領主と爵位もちの貴族ってこういうところに差が出るよな…

「アメリア、ここは引け目を感じる場所じゃないわよ」

「な、なんで分かるの」

 ジリアンに澄ました顔で指摘され、私は慌ててしまう。

「アメリアはけっこう思ってること顔に出てますわよ。私の家なんだからもっと気楽に過ごしていいのに」

 いや、家と言うのはもっと小さくてシンプルな空間を指すものですよね?ここは屋敷という表現がふさわしい。

 サディが王宮からいなくなってユーグ様と恋人同士のおつきあい、というものを始めたばかりという現在、私はトリクシー様からモーズレイ伯爵家に招かれていた。私が断らないように、とジリアンも一緒という念の入れよう…これで断ったら後々が大変だ。私はちゃんとその場の空気は読む。


「ところでアメリア。ユーグとおつきあいを始めたんでしょ?うふふ、ようやくってところね」

 トリクシー様、率直だ。まあ自分から“私、まわりくどいことが嫌いなんですの。うっとうしい美辞麗句なんて興味ないわ“と言ってるくらいだからなー。でも小説のなかでヒロインに恋人になる男性が甘い言葉をささやくところがお好きなのよね。私も読む分には好きだ…でもユーグさんにそれを言われるのを想像するとベッドの上でうぎゃああと転がりたくなる。

「よ、ようやく…確かに、その、どうも私だけが気づかなかったみたいですし…いろいろすいません」

 私の返事に、2人が顔を見合わせてうふふと笑う…なんだろう、この生贄感。

「そうよ~。周囲はどんだけやきもきしたか!だからアメリア、わかってるわよね?」

「へっ?!ジリアン」

「そうですわ。じっくり聞かせてくださるわよね?」

「ト、トリクシー様…楽しそうですね」

 内心ひええって思っていると、ドアが開き、陽気な声が聞こえてきた。

「トリクシー、素敵なお話をしているようね。ぜひ私たちも混ぜていただける?」

「まあ、お母様!!ステラおばさま!!」

「お邪魔しております。ゼクレス公爵夫人、モーズレイ伯爵夫人」

 2人が立ち上がって挨拶したので、私も一緒にお辞儀をする。モーズレイ伯爵夫人ってことはトリクシー様の母親かな…あ、トリクシー様は夫人によく似ている。で、ゼクレス公爵夫人ってことは…まさか。でもブラッドリーさんて確か31歳よね…母親があんなに若いわけないから、お姉さんか?でも公爵夫人って言ったよね。もしかしてブラッドリーさんって既婚者?あれ、独身って言ってなかったっけ。いやでも隠していたとか。うわー、サディ、不倫しなくてよかったのでは。


「さあトリクシー、そちらの可愛らしい方を私たちにも紹介してちょうだい?」

「ステラおばさまったら…わかりましたわ。アメリア」

 トリクシー様に呼ばれて私はハッとして頭のなかのぐるぐるを懸命に追い出した。

「こちらはゼクレス公爵夫人と私の母、モーズレイ伯爵夫人ですわ。ステラおばさま、お母様。こちらはアメリア・ミルワードです。王宮の図書室で司書として働いておりまして、私の友人ですの。さらにいえば、ユーグの恋人ですわ」

 いやトリクシー様、その情報は言わないでほしかった!!どう考えても“身分違い”とか言われること間違いなし…と少し身構えていると、聞こえてきたのはなぜか歓声だった。

「まああっ!こんな可愛らしい方がユーグの恋人なの?悪い子じゃないのだけど女性に怖がられることが多いから心配していたのよ。ああ、よかったわ」

「本当にね、ステラ様。亡き王妃様もきっと喜びますわね!」

 なんかものすごく喜ばれている?!なんで?!そんな私の戸惑いをよそに、いつの間にかメイドさんたちがお茶の用意を2人分追加し、お茶会が始まってしまった…。



 寮に戻ってきてようやく気が楽になった。お茶会は思ったより楽しめた。でも、やっぱりどこか疲れていたらしい。

 ところでゼクレス公爵夫人って、ブラッドリーさんとスハイツさんの母親だったとは…とても30過ぎの息子がいるようには見えない。ものすごく若いときに結婚したのかも。モーズレイ伯爵夫人だってトリクシー様と姉妹といっても納得しちゃう。

 明日、図書室にユーグさんが来たら今日のことを話したほうがいいのかな…私のことを心配してくれてたし……なんだか眠くなってきた。お茶とケーキでお腹いっぱいで夕飯いらないな。

 私はそのままベッドの上で目を閉じた。

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