1:アメリアの髪型
お待たせして申し訳ありません。
いつものように図書室に来たユーグさんが目を見張った。
「アメリア、その髪は?」
「今日はちょっと寝過ごしてしまいまして」
基本、仕事をするときには髪は後頭部でシニヨンにしてまとめている。でも今日はうっかり寝過ごしてしまいおろしたままで仕事をしているのだ。
「肩甲骨のあたりまで長さがあるんだな、知らなかった」
「す、すいません。慌てて出てきたのでリボンや髪留めも用意はしてきたのですがまとめる時間がなくて」
私はユーグさんのそばでワゴンに乗せてある本を棚に戻す。なんか視線を感じるなあ、やっぱり邪魔よね…お昼を急いで食べて寮に戻ってまとめてくるか…
「……邪魔だと思わないが、やっぱり図書室ではいつもみたいにまとめていたほうがいいな」
「…ですよね」
確かに髪の毛をおろしていると、いちいち耳にかけないといけないし気になるもの。昼休みといわず仕事が一段落したら、ちゃんとまとめよう。
「そういえばモーズレイ伯爵令嬢からアメリアを屋敷に招いたと聞いたが、本当か?」
「はい…明日なんですけど、ジリアンも一緒に行くからと言われてしまい断れなくて」
「緊張するせずに普段のアメリアでいいんだ、と私に言われても気休めにもならないか?」
ユーグさんが微笑む。堅物で無表情だと言われている騎士団副団長が笑うのはそうそうめったにないらしい。でも私の前ではいつもユーグさんは優しい顔をしている。
「ユーグさんに言われたら、少し落ち着いてきました」
「それはよかった」
私の顔がぽんっと赤くなったのが分かったらしいユーグさんの笑顔に胸がキュンとしてしまう。
<それを目撃していたジリアンと室長>
「……ここって図書室ですよね、室長。あそこだけなんか違う空気がでてませんか」
そう、色に例えるならピンク色の。それもケーキのアイシングにつかわれるような甘そうなやつ。
「まあ、あそこはちょっと特別なのかもしれないよ。あの堅物無表情なユーグのゆるんだ表情をのぞけるだけでも貴重だと思おうじゃないか。今日はそんなに忙しくないし」
まあ確かに騎士団副団長で堅物としても有名なユーグさんがあんなふうに微笑むことが出来るなんて意外な発見ではある。だがしかし!ここは図書室だから!!
「だいたいジリアン、きみだって実家の本屋で婚約者の彼と仕事してるときはあんな感じですよ」
「なっ、何をおっしゃってるんですか!そんなわけありませんよ」
室長ってさ、なにげに爆弾を落とすよな。それに確かに私と婚約者は実家では一緒に仕事をしてるけど、断じてあんなに空気は甘くはないっ!小さい頃から知ってるから互いにすっかり隠居夫婦みたいなものだ。
でも私の反論に室長は肩をすくめてやれやれと首をふる。なんかその態度、すごく引っかかる。
「まあそういうことにしておいてあげますよ。ほらアメリアが戻ってきますから、素知らぬフリをしなくては」
確かに、アメリアは恥ずかしがりやだから素知らぬふりをするのが親切というものだ。
アメリアはワゴンを片付けると、ちょっと席を外しますとそのまま出て行き戻ってきたときにはいつものお団子頭になっていた。
「アメリア、どうしていつもの髪型にしたの?おろしてても大丈夫だし、かわいかったのに」
「んー、やっぱりサイドから髪の毛落ちてくるのがじゃまだし、ユーグさんもいつもみたいにまとめておいたほうがいいって言うし私もそう思ったの」
アメリア…たぶん、ユーグさんがまとめておいたほうがいいって言ったのはアメリアが考えてる意味で言ったんじゃないわ。
つい最近まで、なかなか思いを告げられなかったヘタレのくせに両思いになったとたんに独占欲ですか。他の男性に自分の彼女の可愛い一面を見られたくないと。さらにつっこんでいうなら、彼女の髪をほどくのは自分って考えてるとか。
うわー、さすがにこれはトリクシー様の前では披露できない仮説だわ。とはいえ、目の前の親友にも言えないわね…私はによによしそうになるのを書類仕事をしながら必死にこらえた。




