エピソード18:バズ女子-4
エピソード18:バズ女子-4
――その頃。マンションの階下、街灯のまばらなアスファルトの駐車場。
夜風に黒いフードの裾を揺らしながら、レムは微動だにせず立ち尽くしていた。
頭上の夜空を見上げるレムの硝子玉のような瞳には、常人には見えない禍々しい光景がはっきりと映り込んでいた。
マンションの四階の窓枠を踏み台にして、ビルの外壁をずるずると這い上がり、空を覆うほどに黒々とした不気味な巨体を異様に膨らませている影。
その全身に無数の目がギョロギョロと瞬き、幾重もの視線がマンションの一室
――澪の部屋の窓ガラスへと集中している。
「……増長しすぎたな」
レムは低い声で呟くと、ポケットに突っ込んでいた両手をスッと抜いた。
その手のひらには、幾何学模様が映り、
何匹もの細い境界の糸が蜘蛛の巣のように絡みついている。 上空で、巨大な入道が不気味に首をねじ曲げ、
階下にいるレムの存在に気づいたようにギョロリと無数の目を向けた。
ドロドロとした狂気と羨望の圧力が、重力のように駐車場のアスファルトを押し潰す。
常人であれば、その視線を受けただけで精神が崩壊するほどの悪意の奔流だった。
だが、レムは一歩も引かなかった。 彼は冷徹な瞳で頭上を見据えたまま、一音一音を噛みしめるように、静かに、しかし鮮烈に言い放った。
「――見越したな」
その瞬間、レムの足元から地面を伝い、強烈な緑色の光「拒絶の境界線」が放射状に展開した。
レムは上空の怪異を見据えたまま、ゆっくりと、視線を自分の頭頂部から足元へと撫で下ろすように落とした。
バチッ、と夜空で激しい放電のような音が響いた。 レムの視線の軌跡に沿って、見越し入道の伸びきった首筋から胴体へと、鋭い一筋の白い亀裂走る。
「グアアアアァァ……ッ!!」 人間には聞こえないはずの、おぞましい絶叫が夜空を震わせた。
血のように赤かった禍々しい月光も、窓を埋め尽くしていた無数の目も、すべてが泡のようにパチンと弾け飛ぶ。怪異の巨体は急速にしぼみ、夜の闇へと霧散して消えていった。
静寂が戻った駐車場で、レムは小さく息を吐き、再びポケットにスマートフォンごと手をつっこんだ。
◇
フッ、と。 澪の全身にのしかかっていた鉛のような重圧が、嘘のように消え去った。 血のように赤かった禍々しい月光も、窓を埋め尽くしていた無数の目も、
K-POPの狂った音楽も、すべてが泡のように弾けて消え、いつもの静かな夜の部屋へと回帰していた。
大きく息を吸い込んだのを最後に、澪の意識はそこでプツリと途切れた。




