第18話:バズ女子 -1
エピソード18:バズ女子 -1
『境界探偵レム』:『バズ女子』
水城澪が学校を昼からサボってその雑居ビルを訪ねたのは、自分のスマートフォンがもはや「自分のもの」ではないような気がしたからだった。
始まりは半年前。親友の理央、夏帆と一緒に、TICKTACKとオンスタ(ONSTAGLUM)でダンス動画の投稿を始めたことだった。
「三人でフォロワー一万人増やして、インフルエンサーになろう!」 そんな軽い約束で始めたアカウントに、異変が起きたのはひと月前の深夜だ。
誰も起きていないはずの午前三時。自分たちのアカウントに、
見覚えのない動画が勝手にアップロードされていた。
しかもそれは、いつも使っている三脚の定点カメラの映像ではなかった。
明らかに「誰かの手持ちカメラ」特有の生々しい手ブレと、呼吸に合わせて上下する視線のパン(移動)がある。
その日、三人ともそれぞれの自宅のベッドで眠っていたはずなのに――画面の中では、真夜中の校舎や見たこともない不気味な廃墟で、澪たち三人が楽しそうに笑いながらポーズを取っていたのだ。
『じゃあ、この動画を撮っているのは誰?』 『映っている私たちは、誰?』
グループ通話で震え上がった理央と夏帆は、「もしかして呪われてるのかも……気味が悪いから、もうチックタックもオンスタも辞めよう!」と言い出した。
だが、澪だけはやめられなかった。
なぜならその不気味な動画と前後して、澪のソロのダンス動画が爆発的に伸び始めていたからだ。
〈誰? この子!〉〈色白すぎ!〉〈顔ちっちゃ! 可愛い……〉
画面を埋め尽くす称賛のコメントが、脳の奥をチリチリと甘く痺れさせた。その快感が忘れられず、澪は一人でライブ配信やダンス披露を続けた。当然、二人との距離はどんどん開いていった。
「ねぇ聞いてよ! この前さ、プロフに貼ってた欲しい物リストから
ガチで新作のコスメ届いたんだけど!マジでうれしすぎー!!」
教室で澪がスマホを見せてはしゃいでも、理央と夏帆の視線は氷のように冷たかった。
「へ,へぇ……あー、そう。てか澪、まだやってんだ」
「マジでやばいよ、あれ。いい加減辞めた方がいいんじゃない?」
二人の言う通り、異変は確実に悪化していた。
夜中に一人で配信テストをしていると、誰もいない真っ暗な部屋の隅の空間に、
顔認識の「小顔エフェクト」や「猫耳フィルター」がピタッと反応し、見えない何かを追従して揺れるのだ。
それだけではない。楽しげなK-POPのBGMの裏で、人間の耳には聞こえない微かな環境音から、AIの自動文字起こし機能が勝手に『タスけて』『後ろ』『もうすぐ死ぬ』という不気味なテロップを生成して画面に張り付けてしまう。
極めつけに、最近の澪の「おすすめ欄」に流れてくる他人のショート動画は、どれも少しずつ「澪の部屋の前の廊下」や「通学路を歩く澪たちの背後」を盗撮したようなアカウントばかりに侵食されていた。
それでも、澪のフォロワーは最初の三人から、あと三百人で一万人に届こうとしていた。 せめて一万人。
これだけでも達成してから辞めたかった。三人で交わした約束を、自分の手で果たしたかった。それに、本当に一万人のインフルエンサーになれば、
今自分を避けている理央と夏帆も「すごいじゃん」と認めてくれて、
あの頃の態度に戻るかもしれない――そんな淡い期待に、澪はすがりついていていた。




