第92話 オヤジ包囲網の逃亡失敗と、掟破りの重婚ドレスチャージ
朝一番に一族の怪獣美少女4頭に直りたての美しいドアの前で唇を次々と蹂躙され、毛布の中で人間の姿のまま大粒の悔し涙をボロボロと流しながら現実逃避の不貞寝をきめこんでいた、昼前のことだ。
俺(人間姿)は、全身の細胞から放たれる「酷く嫌な予感」を敏感に察知し、お昼に人間の村のカフェで控えている本命の婚約者キアラちゃんとのお昼デートへ向けて、大急ぎでこの大集集落の部屋から隠密に抜け出そうとしていたのだった。
だが、俺が愛おしそうに新調されたピカピカのトビラをバチッと開けた、その瞬間のことだった。俺の人間姿の網膜の前に、最悪の物理的完全包囲がポップアップした。
「――フシュゥゥウウウ!!! マモル様!!! 本日の『一族総出の婚礼の儀』へ、新郎入場の時間でございますぞォォォ!!!ガハハハハ!!!」
廊下に壁のように仁王立ちして退路を100%完全封鎖していたのは、牙や魔獣の骨でできた巨大な首飾りや、めったに拝めないおめでたい時にしか着ないという極彩色の伝統的なリザードマンの部族衣装を、ゴツゴツした本来の巨大なトカゲの身体にパツパツに引き裂きそうに着こなした、ゼフィラ、ガルダ、デメト、ネレイダの親父たち――各部族の最強の戦士長たち幹部どもだったのだった。
「ちょ、親父さんたち、何その厳粛なお祭り正装!? 腕力がチートすぎてガードが上がらねぇぇぇ」
俺の必死の抵抗も虚しく、タニシのゴミを分別する感覚で左右の退路を完全に回り込まれてガシッ!!!と力任せに鷲掴みにされ、逃げ場を失った俺は人間の姿のまま宙に浮かせられ、大集落の広場のクレーターの真ん中へとズルズル強制連行されてしまったのだった。
特設結婚式場と化した広場へと連行させられると、そこには一族のトカゲの長老が、これ以上ないほどおめでたい満面の笑顔で待機していた。
「マモル様、この度は誠におめでとうございますじゃ!ガハハ!」
「な、何がおめでとうなんだよ長老……!?」
「何って、あの最高幹部の一族の娘たち5頭と、ご結婚なさったのでしょう?」
「し、してない!!! してないよ!?!?(※秒速の全否定)」
「おかしゅうございますな。マモル様、昨日から今朝にかけて、あの娘たち全員と【ウロコの交換】をされましたのじゃろ?」
「ウロコの交換はしたけどさぁ!!! それと結婚(重婚)と、一体何の関係があるんだよ!?」
「はて? リザードマン一族の絶対の伝統ルールではな、マモル様。オスが、自分のウロコを特定のメスに手渡し、メスからお返しのウロコを受け取り、さらに婚姻を確定する『口づけ』を正面からお互いに交わし合った瞬間、それは婚姻確定を意味するのじゃ! マモル様はもう、名実ともにあの5頭の『愛の旦那様』ですぞォォォ!!!」
――バガァァァンッ!!!(俺の脳内ソロバンが木っ端微塵に大破するエラー音)
う、うわあああァァァーーーッ!!! あの5頭が朝一番から俺のドアの前に大集結して、ウロコを毟り取って大興奮で大喜びしてたのは、日本円で1枚100万ゴールドの換金価値に喜んでたんじゃなくて、俺からの【結婚指輪(結納の儀)】を受け取ったことによる、本物のヤンデレガチ恋バフ限界突破の喜びだったのかよォォォォオオオ!!!
「いやあ、一気に5頭同時に番になるとは、マモル様、最高にお盛んでおめでたいですなぁ!」
「そんなリザードマンの風習なんて1ミリも知らねぇよバカヤローッ!!!取り消し! 取り消しだァァァ!!!」
俺が涙目で取り消しを叫びかけた、まさにそのコンマ数秒の瞬間のことだった。
「――お待たせいたしましたわ、旦那様♡(※一斉にお堅く凜とした美少女ボイスのポップアップ)」
特設ひな壇の向こうから、人間の美少女姿のまま、一族の国宝級の素材を贅沢に加工した【これ以上ないほどお色気マックスの純白の美しいウェディングドレス】を完璧にギチギチに着こなした、エルシエラ、ゼフィラ、ガルダ、デメト、ネレイダの5頭が笑顔で登場したのである。
(……うわ、っ。……綺麗、だ(※一瞬、前世高校生としてのピュアな心で見惚れてしまうマモル))
だが、すぐに(あかんッ!!! 騙されるな俺!!! あいつらの本体姿は全員が全長2.5mのゴツゴツした、ガチの怪獣じゃねぇか!!!)と戦慄して正気に戻る。
ヒロインたちが純白のドレスを揺らしながら、口々にヤンデレガチ恋セリフをブッ放した。
「アタシのこと、大事にしないと絶対に許さないんだからねッッッ!!!♡」
「ウチ、本当に嬉しいっすゥゥゥ!!! マモル、結婚指輪(黒ウロコ)、本当にありがとうっすゥゥゥ!!!♡」
「ふふ♡ マモルの3食のお世話は、ぜーんぶお姉ちゃんに甘えて任せてねぇ〜♡」
「マモル……もう一生……この水の粘膜から……1ミリも、離しません……♡」
「お前ら卑怯だぞ!!!(※涙目の大号泣) 俺の常識人としてのピュアな優しさを利用して、完全に騙しやがってェェェ!!!取り消しだ取り消し!!! 誰がこんなトカゲ娘どもなんかと結婚するかバカヤローッ!!!」
俺がブチ切れて絶叫すると、序列第1位の本妻(側近)エルシエラが、これ以上ないほどお堅い側近の最もらしい理詰めドヤ顔で冷徹に告げてきたのだった。
「マモル様、何を常識のないことをおっしゃっていますの。我が一族の絶対の掟ではね、オスが自分のウロコをメスに授け、さらにそのメスたち全員から『大好き!♡』と、正式な婚姻確定の口づけを真っ正面から直撃でされて承認された瞬間――全資産と全繁殖の権利(一生)を決定する、永久抹消不可能な重婚入籍が完全ロックされるのですわ♡ 騙したなどと心外な不忠を言わないでくださいまし。マモル様はご自分の意思で、わたくしたちのウロコを受け取って、口づけを承認されたではありませんこと♡」
「いや違うんだエルシエラァァァ!!! ガルダの赤いウロコは涙目で無理やり押し付けられただけだし、キスだって不意打ちでされただけなんだ!それに今朝の4連撃キスにいたっては、お前らが強引に口づけをブッ放していっただけじゃねぇかァァァ!!!なんでそれが一族の法律の連立方程式で『5頭同時重婚の指印(入籍完了)』としてシステムハッキングされてんだよ!!!」
俺は常識人の理性の防衛線をインフレ大爆発させて白目を剥いた。
「取り消しは、リザードマン一族の鉄の掟ルールにより絶対に不可能ですわ♡
――と、その前に、みなさん……! 変身魔法の魔力が切れかけてウロコが出始めていますわよ!旦那様の正面の結婚式場で、本来の姿に戻ってドレスをバリバリ引き裂く不忠を働くわけにはまいりません! 今すぐわたくしを承認して、魔力をチャージしなさいッ!!!♡」
「え? 魔力チャージって――」
プシュゥゥゥンッ!!!(※ドレス姿のメス同士による、濃厚な百合間接キスの開幕)
なんと、純白のウェディングドレスを完璧にギチギチに着こなした国宝級の美少女4頭(ゼフィラ、ガルダ、デメト、ネレイダ)が、本妻エルシエラ様の唇を囲むように、純白のウエディングドレス姿のまま、お互いの唇をギチギチに濃厚に重ね合って、ありのままのウエディングドレス姿のトカゲ娘同士の間接キス魔力チャージ大騒ぎを、新郎(俺)の真っ正面から全力で執行し始めたのである。
あかん!!! 俺の中身は健康な18歳のチェリー高校生だから……自分の結婚式をブッチしようとして包囲された極限状態なのに、美少女同士のドレス濃厚口移しをゼロ距離で直撃で浴びたら、何だか俺、脳内のソロバンに変な斜め上の新しい変態性癖のトビラが承認されちまいそうじゃねぇかァァァ!!!
「お前ら、純白のウエディングドレス姿の美少女姿のまま、仮にも新郎の俺の目の前で、一体全体何て濃厚でスパイシーなレズ間接キスチャージを真っ正面から執行してんだよォォォオオオ!!!(※特大絶叫ツッコミ)」
俺の叫びは虚しく結婚式場に響き渡るのであった。
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(次回更新:来週土曜日18時40分!)




