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第9話 神様のありがた迷惑な追試と、新たな二部制シフト

「待つっすマモル〜! 聖女様から1時間チャージしてもらったから、夜の部もアタシの愛を語り尽くすっすよ〜!」

「待ちなさいガルダ! マモルの夜の余暇を独占するなんて風の部族が許さないわ!」

「ふふ、夜風は冷え始めますからね、アタシの特製スープで温まりましょう……」


夕暮れから、すっかり夜のとばりが下りた大通りにかけて、人間の村は完全に修羅場の鬼ごっこ会場と化していた。

俺は人間姿のまま全力でダッシュし、5人の等身大トカゲ美少女たちの包囲網を死に物狂いで掻い潜っていた。1時間チャージされた彼女たちの執念は凄まじく、暗くなり始めた路地裏を縦横無尽に追い回される。


(クソっ、足が、足がガクガクする……! っていうか、やべぇよ!!)


他の4人はエルシエラとのキスで擬態時間を1時間ずつ残業チャージしてもらったが、肝心の俺はエルシエラとキスをしていない。つまり、俺の残り時間はあのカフェの時から「10分」しか残っていないのだ。


あと数分で、この人間の村のど真んで『漆黒の大トカゲ』に戻ってしまう。

体力の限界と正体露見の恐怖がマックスに達した俺は、からくも追跡を振り切り、広場の隅にある給水塔の狭い隙間に滑り込んだ。

座り込んだ瞬間、あまりの疲労に一瞬で視界が暗転し――俺の意識は深い泥の中へと沈んでいった。



気付けば、俺は見知らぬ場所に立っていた。

現実世界の川で溺れたときとも、今の異世界とも違う、シュールで怪しい光が広がる雲の上の神殿のような場所だ。


『ほう、現世でもヤモリと呼ばれ、今や我が眷属の頂点【黒の王】となった男よ。なかなかに熱烈な夜を過ごしているようではないか』


上空から、脳内に直接響く威厳があるのにどこかウザい「謎の声」が降ってきた。


「だ、誰だお前!? っていうか、ここはどこだよ!」

俺は周囲を見回しながら、地響きのような声に叫び返す。


『私はトカゲの神。お前をこの世界へと転生させた大いなる存在だ。お前が川で命をかけて救った白い生き物……あれは光の神域の最高神の申し子【白竜ココア】。お前はトカゲ嫌いでありながら、爬虫類一族の未来を救った最大級の英雄なのだ。ゆえに、お前の名前の因縁を汲み取り、我が眷属の最高峰の肉体を与えてやったのだぞ』


「お前が元凶かトカゲの神ぃぃぃ! 誰がヤモリの名前の因縁を汲み取れって言った! ふざけるな、こんな鱗まみれのトカゲの体は真っ平御免だ! いいから今すぐ俺を人間の姿に戻せェェェエエエ!!」


全ての真相を知った俺は、神に向かって全力で胸ぐらを掴みかかる勢いで激怒した。


『まぁそう怒るな。完全に人間に戻すのは世界の理的にまだ無理だが、人間の女子と昼も夜もハッスルしたいのに、1日1回、太陽が出ている間のたった3時間しか人間に戻れないのは不便であろう? そこで、お前のなかに眠る『ココアの加護』を完全覚醒させ、我が神聖なる恩寵として【1日2回、クールタイム付きで変身できる能力】を授けてやろう! さあ、受け取るが良い!』


神殿がまばゆい光に包まれ、俺の体にすさまじい魔力が優しく流れ込んでくる。


「1日2回変身……!? マ、マジで!? 1日に2回も人間に戻れるのかよ!!」


俺は感動のあまり、神殿の床に両膝をついて天を仰いだ。

大嫌いなトカゲの体のままじゃなく、人間の姿でいられる時間が更に増える。人間に少しでも近づける。それこそ、この世界に転生してから俺が毎日、夜空を見上げながら願っていた本音だった。


「ありがとう神様! 人間の姿に戻れる時間を増やしてくれて最高だ! お前、実はめちゃくちゃ話のわかる良い神様だったんだな……!」


涙を流して感謝し、これでキアラちゃんともっとたくさん一緒にいられると大歓喜した、その直後。

恐ろしすぎる『もう一つの現実』を計算して、脳内に冷水をぶっかけた。


(……待てよ。回数が増えたのは嬉しいけど、これって……3時間のタイムリミットの恐怖はそのまま残ってんじゃねぇかよバカヤローッ!!)


結局、正体がバレる恐怖の回数が増えただけだった。俺は最高のプレゼントをくれたはずの神様に向かって、「やっぱり撤回しろ!」と心の中で盛大にツッコミを入れ、その衝撃のあまり意識が現実へと引き戻されていった。



「はっ……!!!」

俺はガバッと跳び起きた。

冷たい夜風が頬を打つ。給水塔の隙間。

人間の村の、現実の夜だ。


「夢……トカゲの神の初顔合わせか……? っていうか、やべぇ! 体がトカゲに戻りかけてる!?」


慌てて自分の体をチェックした瞬間、俺は血の気が引いた。手の甲から首元にかけて、ゴツゴツとした漆黒のウロコが『ザザザッ』と完全に浮き出てきており、爪も鋭く伸びかけている。とっくに10分なんて過ぎ、まさに今、人間の姿が完全に崩壊しようとしていた。


(終わった! 給水塔から一歩も出られないまま、ここで本物のトカゲに戻っちまう――!)


絶望に目を瞑りかけたその瞬間、俺の脳内に、さっき神から授かったばかりの【新しい能力のステータス】がカチリと鳴り響いた。



【能力:1日2回変身(インターバル擬態)】


⚫︎1回の変身時間は、これまで通り【きっちり3時間】。


⚫︎この3時間を完全に使い切るか、一度トカゲの姿に戻った瞬間から、「クールタイム(インターバル3時間)」のカウントダウンが始まる。


⚫︎2回目の変身魔力を消費することで、消費した時間の2倍クールタイムを短縮できる。(例:1時間分を消費すれば2時間短縮。1.5時間分を消費すれば3時間すべてを短縮し、【クールタイム0時間で即時再変身】が可能となる)



「……待てよ。魔力を前払いすれば、クールタイムを短縮できる……!? 1.5時間分を今ここで前払い消費すれば、クールタイムを3時間すべて相殺して、【今すぐ2回目の再変身】ができるってことか……っ!」


ウロコが顔にまで侵食してくる極限状態のなか、俺は自分の意志で、体内の奥底にある2回目の魔力へと意識を集中させた。


「クソっ、背に腹は代えられねぇ! 2回目の魔力を半分消費して、即時再変身だァァァッ!!」


シュゥゥゥゥウウウ……。


「は、戻って、いく……!」


驚愕した。俺の肌に浮き出ていた漆黒のウロコが、まるで時間を巻き戻すかのように、スゥッと肌の奥へと吸い込まれて消えていく。鋭くなりかけていた爪も、健康的な人間の爪へと綺麗に戻っていった。


自分の機転によって、1回目の限界のタイムリミットを踏み倒し、俺は人間の姿を維持することに成功したのだ!


「よっしゃあ! ざまぁみろトカゲの呪い! 俺の頭脳の勝利だ!」

給水塔の隙間で大喜びし、これでトカゲたちの包囲網を完全に巻いて、明日からのキアラちゃんとのデートに繋げられると勝ち誇った――その直後だった。


俺の現代人としての冷徹な計算式が、この裏技の『最悪のペナルティ』を弾き出した。


「って、おい!! 魔力を半分消費して即時再変身したら、その2回目の変身時間は『1時間30分』に減るじゃねぇか!! 結局、めちゃくちゃタイムリミットが早く来るペナルティ付きじゃねぇよバカヤローッ!!」


便利なんだか不便なんだか分からない、どこまでもありがた迷惑な神の恩寵。

だが、この魔力のやりくりさえマスターすれば、昼にキアラちゃんとカフェでランチをして、完全にトカゲに戻って数時間のクールタイムを消化した後、夜に人間の村へ再び行くという、夢の二部制シフトが可能になるのは間違いない!


「よし! 明日からはこの能力を使って、トカゲたちの包囲網を完全に巻いて、キアラちゃんとの甘酸っぱいスローライフを取り戻せるぞ!」


新能力の万能感に浸り、俺が不敵な笑みを浮かべた、その時だった。


『――みーつけた……♡ マモル、こんな狭いところで、一体何をしておいでですか……?』


給水塔の細い隙間の真上から、ねっとりとしたヤンデレボイスが降ってきた。

見上げると、青いロングヘアを濡らした水のネレイダが、首をグインと横に傾け、横にシャッと動く瞬膜トカゲのまぶたをパチパチさせながら、暗闇の中から俺をじっと見下ろしていた。


「ギャァァァアアア! 忘れてた! 1時間チャージされたトカゲたちがまだ村を徘徊してるんだったァァァアア!!」


手に入れた最強の新能力。だが、それを使う前に、まずはこの終わらない夜の鬼ごっこを生き延びなければならない。

俺の3時間の命をかけた(しかも1日2回に増えた)隠密ラブコメは、夜の闇に紛れるトカゲたちの執念によって、さらに混沌とした追走劇へと加速していくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:本日21時20分!)

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