第10話 完璧な二部制シフトと、インターバルの危機
神様から授かった新能力――『1日2回、クールタイム付きで人間に変身できる能力』。
1回の変身時間は3時間。それを完全に使い切って一度トカゲに戻ると、次の変身まで3時間のクールタイムが必要になる。だが、2回目の魔力を『前払い』して消費すれば、その2倍の時間を短縮できるという、デタラメだけど画期的なシステムだ。
何より最高のルールは、この『1日2回変身』を使えるリザードマンは、世界で俺ただ一人だけという事実だった。
「ふふ、マモルさん、今日のランチは私が焼いた特製の小麦パンですよ。たくさん食べてくださいね」
「うおおお……! 美味しい! 美味しすぎるよキアラちゃん! 芋虫がのたうち回ってないスープがこんなに胃に優しいなんて……!」
午前中の人間の村。
俺は人化擬態魔法の1回目を発動し、人間の姿になってキアラちゃんと念願のランチデートを楽しんでいた。これまでは時間切れを気にして早歩きだったが、今日は夜にもう1回変身できるため、心に絶大な余裕がある。これぞ本物のスローライフだ!
「あーっ! マモルみーつけたっ! こんなところで人間のメスと何を食べてるっすかぁ!?」
……まぁ、いつものように、俺の黒の魔力を嗅ぎつけたガルダ(火)やゼフィラ(風)たちが、人間の姿になって乱入してくるお約束は発生したのだが。
だが、今日の俺は一味違う。フッと鼻で笑い、優雅にコーヒーを啜ってみせる。
(フッ……焦る必要はまったくない。なぜなら、お前らトカゲたちの擬態魔法は『1日1回・日中の3時間だけ』。お前らが村を出てから、もうすぐ3時間が経過する……!)
「あ、あれ……? なんか、アタシの体が急にカサカサしてきたっす……」
ガルダが赤髪を揺らしながら、自分の手元を見て慌て出す。ツインテールのゼフィラも、皮膚から緑のウロコがザザザッと浮き出てきて顔を真っ赤にした。
「嘘……もう時間切れ!? 待ちなさいよ人間メス、アタシたちの時間はまだ……うわあああ、尻尾が出てきたぁぁあ!」
トカゲヒロインたちの変身時間が完全にゼロになったのだ。
彼女たちは「夜が明けて太陽が昇るまで、絶対に再変身できない」というトカゲの限界ルールに縛られている。つまり、一度時間切れになれば、今夜のデートには100%乱入してこられないのだ!
「マモル、後ろ髪を引かれる思いっすけど、強制送還っすー!」
「マモル、また明日ねぇぇぇ!」
ボロが出まくる前に、慌てて路地裏へダッシュしてトカゲの村へと消えていくトカゲヒロインたち。「……マモルさん、あなたの幼馴染たち、本当に門限だけはキッチリしてるんですね」とキアラちゃんが呆れている。
「あはは、厳しい親たちだからね……。じゃあキアラちゃん、俺もちょっと急用があるから、また今日の『夜のランタン祭り』の時間に、広場で待ち合わせしよう!」
「はい! 夜にまたマモルさんに会えるなんて嬉しいです。待っていますね!」
キアラちゃんの最高に可愛い笑顔を見届け、俺も3時間のタイムリミットを迎えて路地裏へ。真っ黒な大トカゲに戻り、ウキウキ気分でトカゲの集落へと一時帰還した。
◇
(よし、次の2回目の変身ができるようになるまで、あと3時間のクールタイムだな。部屋で大人しく昼寝でもして待つか)
自分の部屋の藁布団にゴロリと横たわり、夜の夏祭りデートに胸を躍らせていた、その時だった。
ドンバババババァン!!!
「マモル! お昼のパトロールご苦労さまっす! 悔しいからトカゲ姿のまま夜這いに来たっすよォォォ!!」
部屋の頑丈な木扉を丸ごとブチ破り、目をハートマークにしたガルダ(赤トカゲ姿)が、爆乳をウロコごと揺らしながら突撃してきた。
「マモル、お昼にあの人間メスに浮気した分、アタシの風の鱗をたっぷりと擦り付けてあげるわ!」
ゼフィラ(緑トカゲ姿)も、鋭い爪をギチギチと鳴らしながら背後からベッドへダイブしてくる。さらに琥珀色のデメト、水幽霊のネレイダまでが、トカゲ姿のまま「卵を温めましょう!」と部屋へ殺到した。
「ギャァァァアアア! 忘れてた! 擬態時間が終わったアイツらは、トカゲの集落の中なら、トカゲ姿のままいくらでも俺を追い回せるんだったァァァアア!!」
夜までのクールタイム、3時間。
俺は人間の姿に戻れない等身大トカゲの姿のまま、部屋の中でメスたちからの熱烈な求愛を全身に喰らい、必死の防衛戦を戦うハメになった。体力と精神がゴリゴリと削られていく。
(ハァ……ハァ……クソっ、2回目の魔力を半分『前払い』して、クールタイムを0時間にして今すぐ人間の村へ逃げ出すべきか!? いや、それだと夜の変身時間が1時間半に減っちまう……! 耐えろ、キアラちゃんとの3時間フルデートのために、このトカゲ地獄を耐え抜くんだ俺……!)
時計の針が、無慈悲に夕刻を指していく。
トカゲたちの愛が重すぎるブラックインターバルと、命をかけた時間のやりくり。
ボロボロになりながらも、俺はキアラちゃんとの最高の夜を勝ち取るため、ついに2回目の変身タイマーへと手を伸ばすのだった。
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(次回更新:明日7時20分!)




