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第85話 アリアのガチ新調3点セットと、試運転おばあちゃんのズルズル連行

人間の村の防衛隊長にしてアイスブルーの髪を結んだ格好いい苦労人お姉様であるタイア隊長が、不眠不休の書類残業の恨みパワー全開で大脱走してきたキアラちゃんの首根っこをガシッと掴み、兵舎の隔離執務室へとズルズルと強制連行していった、今日のお昼時のカフェのテラス席。


キアラちゃんの凄まじい悲鳴が街道の向こうへ消え去り、嵐の後のようにしんと静まり返ったテーブルの上で、俺(人間姿)は隣にいる包帯ぐるぐる巻きの満身創痍姿のアリアちゃん(ミイラ姿)へと視線を向けたのだった。


キアラちゃんはいなくなってしまったが、一晩中寝ずに俺の脱皮ウロコ(素材)をカンカンキンキン加工して特注装備を届けてくれた彼女をこのまま帰すわけにはいかない。俺は爽やかな笑顔でお礼の声をかけた。


「アリアちゃん、とりあえずランチにしようか! 俺が何でも好きなものを奢るよ!」


アリアちゃんの本音は、食事なんかより一刻も早く自室のベッドにダイブして特大の睡眠を貪りたい過労死寸前の状態だったが、黒の王(魔王様)である俺への恐怖のせいで「ここで魔王様の誘いを断ったら、今度こそピクルスのミンチにされるぅぅぅ!!」と脳内大違い大パニックをカチッとロック。 涙目をダラダラ流しながら「は、はい、喜んで付き合わさせていただきますぅぅぅ……」とガクブル震えながら席に座り直した。


そこで俺は、アリアちゃんが身にまとっている【漆黒のとんがり帽子、漆黒の魔導ローブ、漆黒の魔導杖の3点セット】に改めて気づいた。


「あれ、そういえばアリアちゃんの装備も、なんだか高級ブランドの新作みたいに新しくなっているね?」


「あ、はい、マモル様! もらった5枚のウロコのうち3枚を贅沢に消費して装備をフル新調しました!これだけの魔導スペックが無いと、装備を新調したあの暴走ヤンデレ令嬢キアラの地魔法の更地大暴走を物理的に食い止める防衛線が張れませんので……っ!」


アリアちゃんの新装備にも俺の脱皮ウロコが使われているが、さっきキアラちゃんの胸当てを見た時のような「うわ、俺のウロコをまとった美少女にムラッときて、変な新性癖のトビラが開きそう……!」というチェリー高校生としてのリアルなバグ感情は、ミイラ姿のアリアちゃんを前にしては1ミリも沸き起こらないので安心する。


「あぁ、そっか、キアラちゃんのヤンデレ大暴走を止めるために…… 」


俺がのんきに納得してスープを口に運ぼうと言いかけた、まさにそのコンマ数秒の瞬間のことだった。俺の元高校生としての脳内ソロバンが、ある残忍な世界の仕様(ゲームバランスの真実)を看破して、一瞬にして白目を剥いてガチフリーズした!


(……待てよ? 防具はディフェンスだからまだしも、俺、アリアちゃんに【黒の王のウロコを精密加工した、攻撃魔力伝導率が世界最強の国宝級の漆黒の杖】を、あの始まった瞬間に全てを更地消毒する暴走令嬢キアラに笑顔でプレゼントしちゃったよな……!?)


俺は人間姿の額から滝のような冷や汗を流しながら、ガタバシッと立ち上がって大絶叫のツッコミをブッ放した。


「あ、アリアちゃん!! 一体なんて物を作ってくれたんだ!!あのただでさえ理性の防衛線が吹き飛んでるキアラちゃんに、そんな国宝級の特級破壊兵器の杖なんて手渡したら、このカフェどころか人間の村ごと文字通り一瞬で更地にされる未来しか見えないよ!?」


「えええええええッ!?!? 言った!!! ボク、昨日の昼に『あんな暴走令嬢にそんなの渡したらパワーバランスが崩壊して手がつけられなくなるぞ!』って、ガクブルマッハで絶対に言ったよぉぉぉォォォッ!!!(※必死の反論)」


「ええっ!? 言った!? ごめん、俺ミーアちゃんの猫耳おねだりを静止するのに必死で1ミリも覚えてないわ!!!(※ただのスケジュール破綻)」


2人でテラス席の真ん中で「どうしよう村が更地にされるぅぅぅ!!!」とパニック戦を開いているなか、アリアちゃんが自分の特注漆黒新装備を握りしめ、過労死寸前の脳細胞で苦し紛れの防衛大嘘を提案してきた。


「で、でも安心してくださいマモル様!! ボクだってこうやって漆黒の大賢者装備をフル新調したんです!この最強の魔導スペックなら、あの隣国の戦闘狂リザ(中身還暦おばあちゃん)にだって、今度こそガチのタイマンで勝てる気がするよぉぉぉ!!!♡(※寝不足と新装備の全能感による、久々のイキり)」


(おお……! いつも天井のゴミにされてるツッコミ役のアリアちゃんがそこまで豪語するなら、一応はキアラ要塞への防衛線として安心――)


「へぇ? 治療院のベッドから病み上がりのミイラ(アリア)が、何だか最高に面白そうな話をしてるじゃないのぉ♡ 一体、誰に勝てるってぇ?♡」


お昼のテラス席の背後から、これ以上ないほどワイルドな笑顔を浮かべた還暦おばあちゃんリザさんの乱入を直撃で網膜に浴び、アリアちゃんは顔面からそれこそカフェのクレーターを埋め尽くすレベルの特大の滝汗を噴き出した。


「い、い、いやっ! リ、リザさん違うんですよォォォ!!!今のはその、新装備を手に入れて嬉しくなっちゃった言葉のあやっていうか、ボクの睡眠不足のバグメッセージでしてひぃぃぃ!!!」


リザさんはアリアちゃんの新調した漆黒大賢者3点セットを見て、漆黒の瞳をキラキラと大点火させた。


「おぉ〜、アリアァァァ!!! あんた、そんな最高にタイマンし甲斐のありそうな漆黒の神話特注装備をフル新調したんだねぇ♡ ちょうどいいからさぁ、今から2人で村の外の境界線の森まで行って、アタシの暗黒拳でそのカチカチローブの【試運転(※サンドバッグ訓練)】といこうじゃないのぉォォォ!!!♡」


「い、嫌だァァァ!!! 誰が暗黒拳の試運転なんかするかバカーッ!!!助けてマモル様ァァァ!!! 天井のゴミどころか、今度こそボクが世界の更地へ消し炭ロストされるぅゥゥ!!!涙(※じたばたと足をバタつかせながら村の外の森の闇へズルズル引きずられていくアリア)」


リザさんは豪快に笑い飛ばしながら、大暴れして大号泣しているアリアちゃんを強靭なチート腕力でガシッ!!!と鷲掴みにし、そのままズルズルと村の外の薄暗い不気味な森の闇へと強制連行して去っていってしまったのだった。


「…………(シ――ン……)」


キアラちゃんに続いてアリアちゃんまでが人間の村の闇へ強制連行され、静まり返ったカフェのテラス席の陥没したクレーターの真ん中には、俺(人間姿)がポツンと1人だけで呆然と取り残された。


――チリーン(※お店の人がご機嫌に運んでくる、湯気の立つ美味しそうな2人分の極上パスタ大皿ランチ)。


俺はテーブルの上に並べられた、誰もいないアリアちゃんの席の分のほかほかパスタを見つめながら、引きつった笑顔のまま、前世高校生としての常識的な脳を虚しく回転させた。


(俺、リザさんの黒髪を実食して完全無敵の仕様に成功し、今度こそ人間の姿のままキアラちゃんと合法的にめちゃくちゃイチャイチャして、最高の甘いおやすみ唇を堪能しようとしていた大歓喜の予定が……、キアラちゃんは残業部屋へ連行され、アリアちゃんはおばあちゃんの試運転サンドバッグへズルズル強制連行されて、なんで俺、昼間からカフェのテラス席で1人で2人分のパスタを見つめて完全なるぼっちをキメてんだよぉ!!!)


っていうか、この残ったアリアちゃんの分のパスタ、前世の日本のコンビニみたいなプラスチックの『持ち帰り用のパック容器』とか、ジップロックみたいな便利な保存オブジェクト、この異世界のカフェには絶対に存在しねぇよなぁ……。


俺の隠密スローライフは、大集落のドアは直ったものの、キアラちゃんが歩くヤンデレ完全要塞に上書きされ、カフェのテラス席で1人で2人分のパスタと格闘するという、もはや誰もコントロールできない新ステージの荒波(ぼっちパスタフードファイト戦)へと、容赦なく突き進んでいくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日18時40分!)

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