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第78話 胃が痛い防衛隊長と、テラス席の勇者くん

大集落の広場で、俺がポケットから何気なく差し出したウロコ1枚――100万ゴールド(日本円で2億円くらい)の価値を持つ漆黒の脱皮ウロコ(フケ素材)を前に、猫耳商人ミーアちゃんが完全に猫かぶりをかなぐり捨てて強欲マネーの瞳をバキバキに大点火させ、「スケイルラッシュニャァァァーーーッ!!!♡」と大絶叫を轟かせた、その日のランチタイム。


俺(人間姿)は、新ルールのおかげで今日1回目の擬態魔法のバッテリー残量がまだ【10時間以上】も余裕たっぷりに残っている無敵のスケジュール管理のなか、まだ包帯ぐるぐる巻きのアリアちゃん(ミイラ姿)を隣に従え、キアラちゃんとのお昼デートのために、人間の村のいつもの馴染みのカフェのテラス席へとやってきていた。


(よし、システム的には完全無敵になったから人間の姿のままいくらキスされても再ロックされる心配は1ミリもねぇし、今日こそはホワイトな常識人としてキアラちゃんをおもてなししてデートを完遂してやる!!!)


俺がスープをこれ以上ないほど晴れやかな気分で口に運んでいた、まさにその瞬間のことだった。俺の隠密スローライフは、1ミリの淀みもなく新たな日常サスペンスのインフレをテラス席にポップアップさせた。


「旦愛様ぁぁぁ!!! ミーアをお買い物専属パートナーにするのですわァァァ!!!♡」


村の街道の向こうから、翡翠のような美しい緑髪に、ぴこぴこと愛らしい猫耳を揺らした【猫の女獣人商人】ミーア・カブリアちゃんが、さっきのウロコ1枚の独占密輸フラグに強欲ソロバンを大爆発させたまま、デレデレの猛ダッシュでストーキング同伴(不法侵入)して現れたのである!


しかも、彼女の華奢な背中には、本来なら大人が十人がかりでも持ち上げられるはずのない、自分の身長を遥かに置き去りにした【全長2.5m級の超特大の行商用巨大リュック(素材の山)】が、これでもかとばかりにガッチリと背負われていた。その巨大なリュックの質量が、彼女の頭上でガタバシと揺れながら街道を爆走してくる光景は、もはやお買い物コメディの重力を100%バグらせていた。


「……っ!?(※包帯の奥の目を丸くしてガタバシッと椅子の上で跳ね上がるアリア)」


俺の隣に座る、人間の100倍強い大魔導師アリアちゃんが、その光景を魔力感知した瞬間にリアルに滝のような冷や汗を流して戦慄のツッコミを漏らした。


「す、凄い魔法使いだ……。ただ力任せにあんな怪獣級の荷物を背負っているんじゃない。独自の【風魔法の応用(魔力反重力)】で、あの巨大リュックの重力を完璧に相殺して背骨への負担を上書きコントロールしているよ……っ! ボクでもあの超精密な反重力風魔法を維持しながら、涼しい顔でマッハで激走してくるのはガチで苦戦するかも……っ!!(※大魔導師としてのガチの戦慄)」


(ミーアちゃん、さっきは大集落の広場の大混乱で『ミンチにされるにゃあ!』って猫かぶりを忘れて素のニャをダラダラ漏らして大パニックを起こしてたのに、一獲千金のウロコ密輸のためなら、大魔導師アリアちゃんをも戦慄させるチート級の風魔法を巨大リュックの力業のまま平然と暴発させてマッハでストーキング追跡してくるの、有能すぎて逆にガチのホラーじゃねぇか!!!)


ミーアちゃんは俺の隣の空いている椅子へと当然のように腰掛けると、「マモル様、さっきはミーアをスマートにお助けしてくださり、本当にありがとうございました♡ 今日からはミーアが24時間体制でお買い物に同伴して差し上げますわ♡」と、完璧なお上品お姉様の丁寧語口調(猫かぶり)のまま俺の右腕にギチギチに密着してきた。


ピキィィィィィィン……!!!


そのデレデレとしたミーアちゃんの強襲を直撃で浴びた瞬間、さっきまでご機嫌笑顔だったキアラちゃんのルビーの瞳から、一瞬にして光が完全消滅した。


「……あら? マモルさん。その不衛生な緑髪の獣人は、一体どこのどなたかしらァァァ……? 私という婚約者がありながら、お昼のテラス席でそんな不順異性交遊を開くだなんて……白状しなさいマモルさん、今すぐ私の地魔法で消し炭に――」


...パコォォォーーーッ!!!(※アリアちゃんの杖がキアラの頭を叩く、乾いた良い音)


「いたたたたっ!? 師匠、何故私の頭を!?」


「コラァァァッッッ!!! キアラ、またお前の悪い癖が出ているぞ!!! マモル様を1ミリも問い詰めるんじゃねぇよバカーッ!!!」


「い、いや違うんだキアラちゃん……! 俺、さっき広場で、この商人さんが困っているところを、ただ普通に常識人として助けただけだよォォォ!!!」


俺が顔面から滝のような冷や汗を流しながら、120%ガチの事実を必死の形相で言い訳すると、アリアちゃんの頼もしすぎる物理ツッコミを脳天に浴びたキアラちゃんは、涙目で両手で頭を押さえながら、ルビーの瞳にキラキラとハイライトを大復活させて猛烈に大反省(赤面)し始めたのだった。


そしてその直後のことだった。テラス席の外から、松明の煤と書類の山に塗れ、目の下に真っ黒なクマを作ったアイスブルーの長い髪を後ろで無造作に結んだ女性魔法剣士が、胸ポケットから胃薬を取り出してバリバリと噛み砕きながら、疲れ果てた足取りで入ってきた。


「はぁ……。ウチの守備隊の特級エリート騎士キアラが、朝から『マモルさんのために頭を冷やしにお花畑へ行ってきますわ!♡』とか言って、一昨日の夜間警備バリケード封鎖の後処理報告書の提出書類を全部アタシにぶん投げて、カフェでサボってると思えば……これだよ。マジで胃に穴が空きかけて徹夜だよ胃が痛てぇ……」


現れたのは、人間の村の防衛隊長にして、キアラちゃんの狂ったヤンデレ大暴走を毎日特等席で浴びてリアルに胃に穴が空きかけている、最大の苦労人お姉様――タイア・イガイルだった。


タイア隊長は、テラス席の真ん中で繰り広げられている【包帯姿のミイラ大賢者 ✕ 俺の腕にギチギチに抱きつく猫耳商人 ✕ それを見て地魔法陣を大点火させようと殺気立っているキアラ】という、カオスなすれ違い大修羅場の光景を網膜に直撃させ、胃薬のボトルごと口の中にインをキメたのだった。


「――って、うわあああ大修羅場じゃねぇか胃が痛てぇええ!!! ウチの堅物令嬢キアラ、お花畑どころか脳内が完全にハッキング大暴走をキメて猫獣人と戦火を開こうとしてるぞおい!!」


タイア隊長は、その修羅場の中心で冷や汗をダラダラ流して震えている俺の存在に気づくと、ハッと合点がいったように引きつった苦笑いを浮かべ、俺の肩をポンと力強く叩いた。


「……あ、あはは、君が、ウチの守備隊の防衛線の間で『あの暴走堅物令嬢の彼氏になれるのは世界を救うレベルの男だけだ』と噂されている……伝説の【勇者くん】かい?アタシ、同じ女性の防衛隊長として、あいつの手綱を握れる男(生贄)がこの世に存在するなんて本気で信じられなかったよ。君マジで歴史に名が残るレベルの勇者チャレンジャーだね! ようこそ、胃に穴が空く世界へ♡」


俺が(からかってんじゃねぇよ胃が痛い美人女隊長!!!(※秒速の心の中のツッコミ)俺は勇者くんなんかじゃなくて、ただ普通のチェリー高校生なんだよォォォ!!!お願いだからタイア隊長、からかう暇があるならその胃薬を俺にも1万粒分けてくれェェェ!!!)と人間の姿のまま胃を抑えてガチの絶望(精神的即死)をキメている、まさにその瞬間だった。


タイア隊長は「ガハハ!」と豪快に笑い飛ばすと、これ以上ないほど鋭い眼光を大点火させ、未だに地魔法をバチチバチさせているキアラちゃんの襟元を、防衛隊の強靭なチート腕力でガシッ!!!と力任せに鷲掴みにした。


「ほら、お喋りはそこまでだバカキアラ!! お前は朝からアタシに書類残業をぶん投げて何をテラス席でサボってやがる!ほら、大人しく兵舎の隔離執務室に戻って、一昨日の夜間調査報告書の続きを泣きながら終わらせるよッッッ!!!(※不眠不休の書類仕事の恨みパワーでの連行)」


「あーーーっ!? 待ってくださいタイア隊長!! 離してくださいまし!! 私は今すぐその緑髪の泥棒猫を水路に沈めて、マモルさんの一途な純潔を守らなければいけないのですわァァァーーーッ!!!(※じたばたと足をバタつかせながら夜の街道の闇へズルズル引きずられていくキアラ)」


タイア隊長は「はいはい、また今度ねー」と冷たくあしらいながら、大暴れするキアラちゃんを物理的にズルズルと兵舎の方向へ強制パージして去っていってしまったのだった。


「…………(シ――ン……)」


キアラちゃんの大絶叫の悲鳴が街道の闇へと消え去り、静まり返ったカフェのテラス席。


「――ふふっ♡ 旦那様、お堅い令嬢の邪魔者がいなくなりましたわね♡さて、これからはミーアと旦那様の2人きりのロマンチックな【ウロコの永久独占密輸契約】を濃厚に始めましょうかニャ……♡」


(キアラちゃんはいなくなったけど、隣の席にはまだ『旦那様、密輸の契約をするにゃぁ♡』って強欲マネーの瞳をバキバキに大点火させてる猫耳ミーアが、巨大リュックを背負ったままガッツリ密着して残ってるんだけどォォォオオオ!!!)


俺のお買い物隠密スローライフは、キアラちゃんを兵舎へパージした瞬間、女猫獣人商人ミーアちゃんによる『脱皮ウロコ強欲密輸デスゲーム』という、もはや誰もコントロールできない新たなるステージの荒波へと、容赦なく突き進んでいくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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(次回更新:明日18時40分!)

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