第70話 魔王のガチ土下座と、死体からの髪の毛剥ぎ取りデスマッチ
人間の村のカフェのテラス席。
アリアちゃんが2日連続で全く同じ天井の板にズボッと大根のように直撃して気絶した、今日の昼下がり。
キアラちゃんが「フンヌッ!!(※ガチの兵士の筋力)」とアリアちゃんの足を引っ張って天井から泥縄に引っこ抜こうと大騒ぎしている横で、俺(人間姿)は、アリアちゃんに無茶振りして素材を剥ぎ取らせるのはもう物理的に無理ゲーのインフレだと悟り、呆然と立ち尽くしていた。
だが、今日1回目の擬態制限時間タイマーは、今この瞬間もカチカチと無慈悲に減り続けている。
今夜のキアラちゃんとの「おやすみ濃厚キスおねだりガード戦(再ロックの危機)」を迎える前に、どうしても【黒】の属性の髪の毛(素材)を手に入れなければ、明日からの俺の人生が完全にバグる。
(――あかん、もうアリアちゃんを盾にしてお使いを頼むのは限界だ!
ここはキアラちゃんにアリアちゃんの介抱を任せて……俺が、自分自身の手で直接あの戦闘狂からお買い物(素材剥ぎ取り)を成立させるしかねぇ!!!)
俺は腹を括ると、アイスコーヒーを片手にのんきに席を立ってカフェを出ていこうとするリザさんの黒髪ロングの背中に向けて、これ以上ないほど爽やかなイケメン笑顔を作って大声で呼びかけた。
「リザさん! 待ってください!! さっきの握手だけじゃ物足りません! 私と、今からガチの『手合わせ』をしてくれませんか!?」
その言葉が鼓膜に届いた瞬間、のんきに歩いていたリザさんの漆黒の瞳が、ピキィィィン!と完全なバトルジャンキー特有のハイライト消滅をキメて振り返った。
「おや……? 面白いじゃないの。私を正面から力ずくでホールドしてきたその筋力、タダモノじゃないとは思っていたけれど……。いいねぇ、黒の属性同士、今すぐここで決闘をしようじゃないか!」
「待って待って! ここは人間の村のカフェだから思い切り戦えないよ! 村の外の【リザードマンの森】の奥なら、どんなに大爆破しても誰にも怒られないから、そこまで移動して決着をつけよう!」
「へぇ、場所の気遣いまでしてくれるなんて、お利口な坊やだねぇ。いいよ、案内しなさいな」
俺は戦闘狂の最大の大好物を泥縄にぶら下げることで、リザさんを人間の村から大急ぎで大集落の奥の不気味な森へと完璧に誘導することに成功したのだった。
ズガガガガガガッ!!!
マッハの速度で不気味な森の最奥、周囲に誰もいないひらけたガレキの広場へと移動した、その直後。
リザさんが「さあ、どっちの魔力が上書きされるか、始めよう――」と暗黒破壊魔法の構えをとった、まさにそのコンマ数秒の瞬間だった。
ドサァァァッ!!!!!
「――リザさん、お願いですからあなたのその『黒髪の髪の毛を1本だけ』俺にください!!!(※地面に両手と額を直撃させたガチの光速スライディング土下座)」
「……は?」
戦闘モード全開だったリザさんは、目の前で黒髪のイケメン青年(俺)が、なりふり構わずガレキの泥まみれになりながら100%降伏の美しい土下座をキメてきた絵面に、還暦超えの人生経験のすべてを置き去りにして完全に面食らってフリーズした。
「ちょっと待ちなさいよ坊や……。私はてっきり命がけの殺し合いができると思ってワクワクしてカフェから追いかけてきたのに、なんでいきなりそんな見事な日本の伝統芸能をブッ放してんのさ。……っていうか、ボクの髪の毛なんて毟り取って、一体どうするおつもりだい?」
俺は額を泥に擦り付けたまま、高校生としての真実を泥縄に絶叫した。
「食べます!!!」
ピキィィィィィィン……!!!
一瞬にして、リザさんの漆黒の瞳から全ての感情が消し炭になり、本物のホラー映画の天災のような、ガチのドン引きの覇気が森の中にドバドバと噴き出し始めた。
「……いや、私の中身はもう還暦を超えたおばあちゃんだよ?いくらこの身体がピチピチの18歳の黒髪ロングだからって、さすがにそんな特殊すぎる性癖のストーキング変態行為を真っ正面から向けられると、私の魂の奥底から寒気がするねぇ……(※ありのままのガチドン引き)」
「いや違うんだリザさん!!! 特殊な性癖じゃねぇよ!!!(※秒速の土下座ツッコミ) 髪の毛は俺が【人間に戻るロックをハッキング解除するための、世界のシステム上どうしても必要な絶対の『進化素材』】なんだってばァァァ!!!」
「はぁ? あんた、どこからどう見ても2足歩行の完璧な人間の男の姿じゃん。何をバカな言い訳を言ってるのさ」
「くっ、あかん、人間の姿のままだと大嘘(変態)だと思われて1ミリも話が成立しねぇ!!! ――フシュゥゥゥッ(擬態魔法解除!!!)」
シュゥゥゥゥウウウ……ドカン!!!
俺が意を決して擬態魔力の出力をゼロに戻した瞬間、まばゆい純白の光が森の奥で大爆発した。光が晴れたガレキの真ん中に出現したのは、シャツとズボンの衣服のオブジェクトをその場にパージし、全長2.5mの漆黒のウロコ肌に逞しいツノを蓄えた、本物の『黒の王(巨大リザードマン本体)』のゴツゴツした怪獣姿だった!!!
それを見たリザさんは、驚きで黒い瞳をパチパチさせたかと思えば、すぐに「へえ……?」と、これ以上ないほど不敵でお茶目なバトルジャンキーとしての笑みをそのトカゲ面に浮かべた。
「俺は、前世は日本の普通の高校生だったんだよ!!!でもこの世界に転生したら、大嫌いなトカゲの王になっちまって、人間の姿を取り戻すためには、同じ【黒】の属性を持った転生者である、リザさんの髪の毛の素材ハッキングがどうしても必要なんだよォォォ!!!だから同じ日本人(同郷)の情に免じて、頼むからおばあちゃん、髪の毛を1本お裾分けしてくれぇぇぇ!!!涙(※トカゲの短い前足で涙目の必死の説得)」
俺の魂の泥縄大号泣の同郷説得を聞いたリザさんは、ふふっ♡とサバサバした口調で、あっさりと頷いて見せた。
「あはは、なるほどねぇ! 全ての連立方程式がカチッと繋がったよ。いいよぉ、私と同じ日本の同郷の坊やの困り事だ、髪の毛くらいお安い御用さ!」
「フシュ、フシュゥゥゥッ!?(え!? マジで!? やったァァァ!!! さすが日本のオバサマ、話が早くて世界一最高のおもてなしだぜリザさん――)」
俺が素材チャージ(大勝利)の喜びにトカゲ眼球を輝かせた、まさにその数秒の瞬間だった。
リザさんは首筋をパキパキと鳴らしながら、その場に村を更地にするレベルの最大出力の暗黒破壊魔法の魔法陣をバチバチバチッと大展開させ、これまでの人生で一度も体感したことのないガチの殺意の重力波を放ち始めた。
「だけどさぁ、マモルくん。あんたとは、昨日の朝の自室でのホームラン(ボクの負け)と、昨日の夜のカウンター(ボクの勝ち)で、これでちょうど【1勝1敗のイーブン】だったよねぇ?
だったらさぁ……ここいらで、お互いの魔力のすべてを賭けて、ガチの白黒つける【3戦目の決着】といこうじゃないかァァァ!!!
ルールは簡単! あんたが私とのタイマンに勝ったら、【ボクの死体から】何本でも、何万本でも、好きなだけ好きな性癖で髪の毛(素材)を毟り取って実食ハッキングするがいいさァァァーーーッ!!!♡」
(何でそうなるんだよこの還暦バトルジャンキー!!!(※涙目の特大フシュゥゥツッコミ))
「フシュゥゥゥーーーーーッッッ!!!(素材を1本お裾分けしてくれって頼んだだけなのに、なんで同郷のよしみで【本人を物理的にブチ殺して死体から素材を剥ぎ取る暗黒デスマッチ】に強制アップデートされてんだよ!!!同じ日本人なら普通に助け合ってシェアしろよォォォオオオ!!!)」
中身が還暦を過ぎてブレーキの完全にぶっ壊れたリザさんは、サバサバとした戦闘狂ハイライト消滅笑顔のまま、「さあ、ボクを満足させておくれよ魔王の坊やァァァ!!!♡」と、逃げ場のない最強の暗黒重力弾を両手に練り上げて俺に突撃してきたのだった。
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(次回更新:本日21時20分!)




