第7話 光の聖女の目覚めと、夢の中の共同作業
間欠泉の如き超高圧の水流魔法で地上へと打ち上げられ、タイムリミット数秒前で茂みに転がり込んでなんとか漆黒の大トカゲへと戻った俺はリザードマンの大集落にある『風の区画』の我が家へと帰還し、藁布団に倒れ込み泥のように眠りについていた。
キアラちゃんの中で「マモルの幼馴染=全員トカゲ化け物集団」という偏見が完璧に完成してしまった。
明日から人間の村でどうやって言い訳すればいいんだ……と、夢の中まで頭を抱えていた、その時。
気付けば、俺は見知らぬ場所に立っていた。
ステンドグラスから厳かな光が差し込む、見たこともない真っ白で美しい神殿。
「――ずっと、お待ちしておりました。我が主」
凛とした、だけど心に直接染み渡るような神聖な声に、俺はハッとして振り返る。
そこに立っていたのは、神秘的にきらめく銀髪をなびかせた、本物の天使かエルフにしか見えない超絶美少女だった。
ルビーのように深く澄んだ瞳に、白く透き通るような肌。鱗もなければ、ハエを目で追う気配もない。髪の毛がレンガの壁に溶ける気配すら一切ない。
(うおおおおお! ついにキターーー! 爬虫類要素ゼロの、完璧な銀髪正統派美少女!!)
俺は心の中でスタンディングオベーションを送った。異世界に転生して一週間、ついに俺の求めていたラノベの世界が、夢の中にだけ現れてくれたのだ。
「何百年もの封印の中、あなたが放った気高き漆黒な覇気が、この光の神域まで届きました……。わたくし、光の聖女エルシエラ。あなたに、本能レベルで恋焦がれておりました……」
エルシエラは頬をぽっと赤らめ、俺の手を両手で優しく包み込んできた。
その手のひらの感触は、シルクのように滑らかで、じんわりと温かい神秘的な硬さ――。
(……待て。この感触、どこかで……?)
脳裏をよぎったのは、転生する直前の現実世界。増水した川の真ん中で、子供のペットだと思って必死に助け出した、あの『白い羽のある生き物』の感触。
「さあ、予言の時は満ちました。
わたくしと最高の番の契りを交わし、二人で一緒に、愛の卵をホカホカに温め合いましょう……?」
エルシエラが至近距離で、潤んだルビーの瞳を向けて深く微笑む。
銀髪美少女と二人で、お互いの体温を感じながら、愛を育む共同作業。響きだけなら完全に天国。ラノベの最高潮イベントだ。
しかし、俺の爬虫類アンチの魂が、彼女のセリフの致命的なトカゲ要素を敏感に察知して警報を鳴らした。
(……一緒に、卵を、温める……?)
キチキチキチキチッ……!
突如として、神殿の美しい静寂を破り、生物の骨が軋むような不気味な音が響き渡る。
「ああ……もう、抑えが効きません……!
今すぐあなたの元へ馳せ参じ、熱い契りを交わさねば、わたくしの光の魔力が爆発してしまいます……っ!」
次の瞬間、エルシエラの美しい白い肌から、純白の硬質なウロコがザザザッと一気に出現した。
背中からはスタイリッシュで美しい白竜の翼がバリバリと突き破り、その愛らしかった顔面が、グインと前方へ向かってシャープなトカゲ(竜)の形へと変化する。
一瞬にして、彼女は神々しくも爬虫類嫌いのマモルにとっては圧倒的に恐ろしい『純白の竜形リザードマン』へとその身体を変貌させたのだ。
人間の美少女の時と変わらない、少し小柄でしなやかな等身のまま。
トカゲの顔になったエルシエラが、重低音ボイスを轟かせ、白い尻尾をパタパタと嬉しそうに振りながら、俺をベッドに押し潰すように抱きしめてくる。
「さあ王よ、わたくしに最高の卵を産ませてください……! そして二人で寄り添い、ホカホカに温め合うのです……!」
(ギャァァァアアア! 見た目天使なのに中身はガチの高貴な等身大トカゲかよォォオオ!! 誰がトカゲと密着して卵なんか温めるかバカヤローッ!!)
夢のなかまで迫り来る爬虫類の繁殖本能に、俺は魂の底から絶叫した。
「うわあああああああああああ!!」
ガバッ!!!と、俺は『風の区画』にある我が家の藁布団から、滝のような冷や汗を流しながら跳び起きた。
自分の胸を手で押さえる。漆黒の鱗が恐怖のあまりブツブツと逆立っていた。
「夢……夢か……最悪の悪夢だ。あんな綺麗な銀髪の顔して、中身は一番ヤバいガチ恋トカゲじゃねぇか……」
ハァハァと荒い息を吐きながら、俺は部屋の窓から遠くの夜空を見上げる。
あの光の聖女エルシエラ。夢の中で彼女は「今すぐあなたの元へ馳せ参じる」と言っていた。まさか、本当に俺の元に向かって動き出しているんじゃなかろうな。
同じ頃。
人間の村の静かな書庫では、水を被って風邪気味のキアラちゃんが、防衛隊に伝わる埃を被った古文書をめくっていた。
「……古い予言の書……?『世界の均衡が崩れし時、漆黒の王が目覚める。王の覇気に引き寄せられ、五大属性のトカゲが街に集結し、世界はトカゲの愛に包まれるであろう』……何よこれ、意味が分からないわ……。でも、マモルさんの周りにいるあのトカゲ女たち、まさか……」
キアラちゃんの指先が、古文書の『漆黒の王』という文字の上でピタリと止まる。
光の神域で目覚めた、黒と対になる銀髪の聖女。指定の予言の謎に一歩近づいてしまった、トカゲ大嫌いな人間のヒロイン。
俺の3時間の命をかけた隠密ラブコメは、世界の命運を巻き込んだ、さらにカオスな大嵐へと突入していくのだった。
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(次回更新:本日19時20分!)




