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第68話 天国から地獄のソロバン勘定と、アリア不在のワンサイド・デスゲーム

リザさんとの大集落の廊下での『背後絶対許さないマン迎撃戦』のせいで、人間の姿へと擬態した俺が、いつもの馴染みのカフェのテラス席へと大慌てで滑り込んできたのは、予定のデート時間から少し遅刻した頃のことだった。


席では、アリアちゃん(ツッコミ役)の姿はどこにもなく、キアラちゃんが不満げに1人きりで待っていた。


「あ、マモルさん! 遅いですわ! 私、丸一日すっぽかされた昨日に続いて、今夜もまたマモルさんが体内の呪いの熱(※ただの勘違い)で倒れてしまったのかと、本気で心配したのですからねっ! ぷんぷんですわ!」


「ごめんごめんキアラちゃん! ちょっとどうしても外せない急用を泥縄に片付けてたら、遅くなっちゃってさ……!」


「ふふ、それなら……お詫びに、私に『ごめんなさいのキス』を今すぐしてくださったら、遅刻の件は特級免除して許してあげますわ……♡」


キアラちゃんがトロンとした潤んだガチ恋の瞳を輝かせ、テーブルを挟んで顔をじりじりとゼロ距離まで近づけてきた、まさにその瞬間のことだった。


俺の脳細胞(中身高校生)が、その可愛いおねだり唇を直撃で浴びた瞬間に、さっきまで廊下のガレキで素材(髪の毛1本)をペロッと実食して「よっしゃシステムハッキング成功無敵じゃい!」と浮かれていた脳内バフを一瞬にして完全氷結させた。


(……あ、あかん!!! さっきはテンションが上がりすぎてて脳内ソロバンが弾け飛んでたから気づかなかったけど……! ココアの言っていたあの【黒の髪の毛の実食裏技】は、人間の少年の姿のままキスしちゃった世界のシステムエラーを上書きして、あの【トカゲ姿のままキスをすればいつでも人間に完全復活できる仕様】を初期状態に戻しただけだろォォォ!!!


ということは、俺、いま今日最後となる『2回目』の3時間変身タイマーを使って夜デートに来てるけど…… もし今夜、このカフェのテラス席でキアラちゃんに人間の姿のままキスを喰らったら――【またあの完全復活の裏技システムにガチガチの『再ロック』がかかって、明日からまた涙目で『1日目の我慢レース』をやり直しながら、トカゲ村の自室の大穴でメス5頭の『卵100個ローテーション産卵サバト』から朝一番から命がけで逃げ回るハメになる】んじゃねぇのかッ!!!(※天国から地獄へ垂直大落下))


俺は冷や汗をダラダラと滝のように流しながら大慌てで周囲を見渡し、命の命綱(ツッコミ役)を探した。


「あ、アリアちゃんは!? アリアちゃんはどこ!? 俺の横でキアラちゃんの頭を杖でパコーンと叩いてツッコミを入れてくれるアリアちゃんはどこォォォ!!!」


「ふふ、アリア師匠なら、お昼にあの黒の天災(リザ様)に理不尽なバックブローでカフェの天井まで殴り飛ばされてボロボロのミイラ姿になってしまいましたから、念のために今日は治療院に『丸一日ガチの寝たきり入院(面会謝絶)』ですわ。……ですからマモルさん、今夜は邪魔者のいない、正真正銘の【私とマモルさんの2人きりのロマンチックな夜】ですわァァァーーーッ!!!♡」


(アリアちゃん本当にガチ入院しちゃってて夜のカフェに1ミリも存在しねぇぇぇ!!!

今日の夜にキスを喰らって再ロックされたら、明日からのスローライフの難易度がまたジュラシック・パークに戻っちまうんだよバカヤローッ!!!)


キアラちゃんからすれば、お堅い令嬢としての純潔ルールはあるものの、すでにキスを交わしている公認の両想い期だと思い込んでいるため、キスを我慢する理由が1ミリも存在しない。彼女はテーブルの下で俺の手を恋人繋ぎでホールドしたまま、じりじりと顔を突き出してくる。


「と、とりあえず食事にしようよ!!! 俺、もうお腹がペコペコで限界なんだよォォォ!!! 水分とお肉の補給が先だよォォォ!!!」


「むう……マモルさんの意地悪。私の唇よりも、カフェのハンバーグやスープのほうが優先されるだなんて、やっぱりまだ呪いの拒絶熱が残っている証拠ですわね……っ(※おこ口調)」


ここから、俺の一世一代の【おもてなし物理ガード(フード盾)攻防戦】がカフェのテラス席で最高潮にインフレした。

俺はテーブルに料理が運ばれてくるたびに、キアラちゃんの可愛い顔の数ミリ手前のデッドスペースへ、神速の速度でフォークで掴んだ「ブロッコリー」や「ポテト」、はたまた「冷たい麦茶コップ」を力任せにブチ差し挟んで、キアラちゃんのおねだり唇を物理的にせき止めまくった。


「ほらブロッコリー食べる!?」「あ、お水おかわり飲む!?」「このスープもスプーンで口にイン!!!」

「ふぇ!? むぐ、ごく、はふっ!? マモルさん、美味しいですけど、だからテンポが早いですわっ!? 食事のおもてなしが防衛隊の突撃訓練並みに過酷ですわァァァーーーッ!!!」


料理や麦茶ピッチャーの在庫をすべて使い果たし、お腹がタプタプのパンパンに膨れ上がってイスにヘナヘナと座り直したキアラちゃんは、ルビーの瞳をトロンと熱く潤ませながら、「……はふぅ、潤いましたわ。でもマモルさん、私の情熱は、麦茶の水分ごときでは1ミリも冷まされませんわァァァ……♡」と、夜デートの帰り際、ついに限界突破したおねだり覇気を大点火して立ち上がった。


テラス席の出口。引きつったイケメン笑顔で冷や汗を流している俺の胸元へと、キアラちゃんはしなやかにガシッ!!!とハグして飛びかかってきた。

俺が(しまっ……! 料理の盾も麦茶の在庫も全部キアラちゃんのお腹の中に消し炭にされたから、物理ガードする武器がもう何もねぇ……ッ!!!)と白目を剥いた、まさにそのコンマ数秒の瞬間だった。


「――今夜もキスに溺れましょうよ、マモルさん……♡」


「ふぇ? むぐ――」


キアラちゃんはお堅い理性を最高のロマンチック愛の暴走バフで上書きハッキングし、俺の唇に向けて、逃げ場のない不意打ちの『おやすみ口づけ』を真っ真っ正面からガチッと強奪してきたのだった!


柔らかくて甘い、最高の女の子のキスの感触(ちゅっ♡)。


「ふぇ……♡ おやすみなさい、私の誠実で照れ屋なマモルさん♡」

キアラちゃんは大満足の極上のご機嫌笑顔を浮かべると、夜の村の街道をステップを踏むようにして可愛らしく実舎へと帰っていった。


カフェのテラス席の出口に、ポツンと1人きりで残された俺。

俺は、キアラちゃんを見送った体勢のまま、人間眼球から光を完全に消滅させ、ガタガタとリアルに痙攣しだしてその場に絶望の血涙を流して崩れ落ちた。


(うわあああ大歓喜だけど、ラッキースケベだけど、リザさんの髪の毛をペロッと食べて世界のシステムロックを初期状態にハッキング成功したまさにその初日の夜に――

始まった瞬間にアリアちゃん不在のせいで秒速でキアラちゃんに押し切られて、【またあの完全復活の裏技システムにガチガチの『再ロック』がかかって、明日からまた涙目で『1日目の我慢レース』をやり直しながらトカゲ村で卵100個のサバト残業から敗走するハメに大再起動しちまったじゃねぇかァァァ!!!(※魂の完全大号泣絶叫)】


(アリアちゃん本当に早く病院から帰ってきてくれぇぇぇ!!! お前が治療院で呑気に包帯巻いて寝込んでるせいで、俺、明日からも毎日キアラちゃんに押し切られて永遠に『1日目』と『卵100個』のループを彷徨うハメになるぞォォォオオオ!!!)


キアラちゃんのおねだり不意打ち溺愛キスのせいで、明日からまた「1日目」の麦茶ガードをやり直すハメになった絶望のテラス席の床の上で、俺の隠密スローライフは、アリアちゃん不在という防衛線崩壊のなかで、次なる『お預け1日目の泥縄仕切り直し戦』という、もはや神様でも誰もコントロールできない超泥縄ループの日常へと、容赦なく突き進んでいくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:明日12時20分!)

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