第64話 初めての同郷転生者と、素材ロストの大敗走
修理されてからまだ12時間しか経っていないピカピカの新しいトビラを、隣国から人間砲弾として吹っ飛んできたアリアちゃんの頭で再び跡形もなく粉々に大爆破された早朝。
ガレキの煙の中からぬっと現れた、隣国最強のバトルジャンキーと恐れられる【黒】の属性の超絶美少女は、暗黒破壊魔法の魔力をバチバチと大展開させながら、ベッドの上の俺(大トカゲ姿)へと獰猛な肉食獣の眼光でじりじりと距離を詰めてきていた。
だが、俺の漆黒のトカゲ脳(中身18歳高校生)は、恐怖を遥かに置き去りにして、そのセリフの中にあった【前世の日本】という単語に、つブらなトカゲ眼球をバキバキの丸にフリーズさせた。
「フ、フシュゥゥゥッ!?(ちょ、ちょっと待って!! お前、今、日本って言ったか!? 日本人なのか!?)」
俺がベッドの上で短い前足をパタパタと泥縄に震わせながら大絶叫(重低音フシュゥゥ)をブッ放すると、黒髪ロングのチート美少女は、サバサバとしたこれ以上ないほどお茶目な笑顔を浮かべて、自身の漆黒の瞳をパチパチと輝かせた。
「ああ、私は異世界転生者なんだよ。前世の名前は黒江里紗。今はリザ・ウェカムって名前さ。トカゲ(リザード)ウェルカム!って感じで、私の爬虫類愛にピッタリで最高に気に入ってるよ!
ちなみに、今はピチピチの18歳の若い身体だけど、前世でアラフィフまで生きて、こっちで18年過ごしたから、【中身はもう還暦を超えたおばあちゃん(大人のオバサマ)】だねぇ(笑)。いやぁ、やっぱり若い身体は肩こりも腰痛もなくて最高だねぇ!」
(う、うわあああァァァーーーッ!!! 異世界に転生して以来、ずっと巨大トカゲの体のまま孤独に冷や汗を流し続けてきたけど、ここにきて初めて出会う、俺と同じ日本の同郷の転生者(仲間)キターーーッ!!!
しかも中身は還暦超えのおばあちゃんだけど見た目は国宝級のクールビューティーだし、やっとこのトカゲ娘たちのヤンデレ魔王監禁ハーレムの苦しみを分かち合える、まともな日本語の会話ができる相手が目の前に現れたぞォォォ!!!)
俺は大興奮で覇気を大爆発させ、トカゲの短い前足を「はじめまして!」と握手するように全力で差し出しながら、大感激の自己紹介をキメようとした。
「フシュゥゥ、フシュ、フシュゥゥゥッ!!!(俺も、俺も日本から転生した高校生なんです!! 草壁守って言います!! やっと会えた、同郷の、本当の日本の――)」
――と、俺が涙目で同郷の感動の最初の1文字を口にしようとした、まさにそのコンマ数秒の瞬間だった。
「同郷? あら、そうなの。……でも、そんな些細なお喋りはどうでもいいんだよ」
「フシュ?(え?)」
「ボクは今、目の前の最高にワイルドでカッコいいお前と、今すぐ命がけのタイマンで絡み合ってそのゴツゴツした美しいウロコ肌に全身すりすり(※モフモフ)したいんだよォォォ!!! さあ、殺し合おうじゃないかトカゲの坊やァァァーーーッ!!!♡」
(人の感動の同郷自己紹介をコンマ数秒で120%置き去りにして、中身はおばあちゃんのくせに全力でトカゲ肌にモフモフ抱きついてくんじゃねぇよバカヤローッ!!!(※魂のツッコミ))
「きゃあああ! この背中のゴツゴツと漆黒の筋肉、最高だわァァァ! 抱きしめ心地がガチの怪獣で私の中のおばあちゃん魂(※ただの爬虫類オタク)がゾクゾクしちゃうじゃないのォォォ!♡」
「フシュゥゥゥーーーッ!!!(お前、俺の漆黒のウロコに顔を埋めてハグしながら、周囲に村を更地にするレベルの暗黒破壊魔法をバチバチ大展開させてんじゃねぇよバカヤローーッ!!!(※物理的な命の危機))」
連日の精神的即死拷問(ドブ川潜水・全裸サバト)に加え、やっと出会えた同郷の仲間との感動の対話を泥縄にへし折られた俺の怒りと疲労が、ついに臨界点を完全突破した。
俺は漆黒の黒の王としてのチート筋力をブチ切れ暴発させ、胸元に全霊で抱きついて頬ずりしていたリザ(中身還暦超え)の身体を、両前足でガシッ!!!と力任せに引き剥がした。
便乗し――そのまま壊れたトビラの大穴から、不気味な森の彼方――【隣の国の方向】へと向けて、夜空の流星ばりにドゴォォォォォォンッ!!!と音速の彼方まで豪快に殴り飛ばして完全排除をキメたのだった!!!
キィィィィィィン……!!!(※隣国の空の果てへ消えていくリザの音)
「あ、あははは! さすが魔王の坊や、私を隣国まで一瞬で殴り飛ばすなんて最高にゾクゾクするじゃないのォォォ! また絶対モフモフしにくるねぇぇぇ……♡(※キラリと星になる音)」
「二度と来るなバトルジャンキーババァァァーーーッ!!!(※涙目の特大絶叫)」
隣国最強のチート転生者が空の彼方に完全に見えなくなり、粉砕された自室に静寂が戻った、その数秒後。
俺は大トカゲ姿のまま、ハッと我に返って、背中に滝のような冷や汗を流した。
(……あ、あれ? 待てよ? 俺、あいつをブチ切れて隣の国まで思いっきりホームランしちゃったけど……)
(……あいつ、俺がアリアちゃんに命がけでお買い物発注した、【キアラちゃんとのキスの永久ロックを初期化するための『黒の属性の髪の毛(素材)』の本人】だったよな……?)
俺は、素材を毟り取るのをただの1本すら完全に忘れたまま、素材の本体を国境の向こうまで弾き飛ばしてしまったという「致命的な不手際」に一瞬にして白目を剥いた。
「フ、フシュ、フシュゥゥゥーーーッ!!!(うわあああホームランで物理パージするのに夢中で、一番肝心な『髪の毛』を1本も毟り取ってねぇじゃねぇかバカヤローッ!!!(※床を大号泣で四つん這いで這いつくばる))」
誰がこんな最悪のバグを予想できたか。
俺はトカゲの短い手足で、さっき大乱闘した自室の床のガレキの隙間に、リザの髪の毛や切った爪が1本くらいミラクルで落ちてねぇかよォォォオオオ!!!と、涙目で床のチリを必死に前足で掻きむしりながら大捜索を開始した。
だが、風の属性も真っ青な俺の高速ホームランのせいで、床にはアリアちゃんの白目の泡しか落ちていなかった。
髪の毛(素材)が1本も手に入らなかったということは、俺は今日の昼下がりの人間の村のカフェのデートで、キアラちゃんのおねだり不意打ち唇を前に、また人間の姿のままキスをされてカウントリセット(4日連続1日目ループ)を喰らうしか道が残されていないということだ。
俺の隠密スローライフは、異世界で初めて出会う同郷の転生者をマッハの速度でロストするという最悪のやらかしのなかで、キアラちゃんの「お預け耐久レース・第3日目」の防衛線を死ぬ気で守り抜かなければ一生ガチトカゲのまま飼育監禁されるという、心臓に悪い泥縄へと、容赦なく突き進んでいくのだった。
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(次回更新:本日18時40分!)




