第62話 聖女の生々しすぎる敗北宣言と、お預け3日目のヤケクソスピードリセマラ
(よし、今日の夜の最後の変身枠を使って、昨日丸一日すっぽかしたキアラちゃんとの『埋め合わせ夜デート』へ行くぞ……っ!)
本日分『2回目』の、今日最後となる貴重な3時間擬態枠を発動した俺は、人間の村のいつもの馴染みのカフェのテラス席で、キアラちゃんとテーブルを挟んでディナーの席についていた。
朝一番にトカゲ村の自室のベッドでエルシエラを廊下のガレキへ豪快にブン投げた後、毛布にくるまって特大の不貞寝をキメて体力を回復させたおかげで、俺はなんとか爽やかなイケメン笑顔を作れる程度には泥縄で持ち直している。
「マモルさん、お身体はもう大丈夫なのですか……?(※おもてなし目線の潤んだ瞳)」
キアラちゃんは一昨日の夜の俺のエンドレス麦茶ディフェンスを浴びて以来、「マモルさんは私を泥棒猫どもの呪いから守るための隔離政策の熱のせいで、昨日は自分の部屋のベッドで高熱を出して寝込んでいたんだわ……!」と、その高い知性で最高に筋の通った深い愛の大勘違いを脳内でカチッとロックしている。
「あ、あはは、キアラちゃん! 心配かけて本当にごめんね! あれはキアラちゃんに世界一喜んでもらえる最高級オムレツの食材発注に熱中しすぎてちょっと寝込んじゃっただけだから、俺の身体はもう100%完璧に視界良好だからねっ!涙」
俺は手の甲にトカゲのウロコ(部分エラー)が出るのを必死に抑え込みながら、引きつったイケメン笑顔で大嘘の言い訳を必死に引っ張って泥縄のフォローを口にした。
(ふぅ、ツッコミ・ブレーキ役のアリアちゃん(隣国へ隠密出張中)が不在でキアラちゃんの脳内ブレーキがぶっ壊れてて焦ったけど、なんとか窮地をクリアできたぜ……!と、俺がスープをゴクリと飲んで安心した、まさにその瞬間だった。
「――あら、マモル様。こんなところにいらっしゃいましたのね……♡」
テラス席のすぐ真横の闇から、神聖でおっとりとした、だけど心臓が瞬時に凍り付くような最高に逃げ場のないヤンデレ敬語ボイスが響き渡った。
振り返ると、ガレキの中から這い上がって凄まじい執念で俺をストーキングしてきた、銀髪の超絶美少女姿のエルシエラが、満面の聖女の微笑みを浮かべながら佇んでいたのだった。
エルシエラはルビーの瞳のハイライトを完全に消滅させ、上品でおっとりとした物腰のまま、俺に向かって両手を広げてじりじりと距離を詰めてくる。
「マモル様、早くお家へ帰って、さっき(※今朝のベッド)の続きをベッドの上でたっぷりいたしましょうねぇ……ッ!!♡」
「出たわね泥棒猫ォォォ!!! 今すぐマモルさんにかけたその卑劣な呪い(※ただの大違い熱)を解きなさい、最大出力の地魔法で消し炭にして差し上げますわァァァーーーッ!!!」
マモルが泥棒猫どもの呪いの熱と一人で戦っていると信じ込んでいるキアラちゃんは、ルビーの瞳を怒りで血走らせ、最新の特注杖をシャキーン!と逆手に構えてエルシエラ様を直撃で睨みつけ、更地化重力波の魔法陣をバチバチバチッと大展開させて大絶叫した。
エルシエラ様はそんなキアラちゃんの地魔法陣なんて1ミリも気にする風もなく、首筋を優雅に傾げて俺を見つめた。
「さっきは本当に激しかったですわ。わたくし、あんな風に力任せに(※ラグビーのタックルで)強引に組み伏せられて、手も足も出ずに(※外へブン投げられて)大敗北したのは……生まれてはじめてでしたのよ……♡
では、今夜もベッドの上で、わたくしにその続きの神聖なる卵20個の交尾を全力で執行していただくために、全裸(※確信犯)でお待ちしていますねぇ……ッ!!♡」
エルシエラはそれだけを言い残すと、「ではマモル様の部屋でお待ちしていますわねぇ♡」と優雅に夜の闇へと去っていった。
ピキィィィィィィン……!!!
(お前、よりによってキアラちゃんの目の前に人間の姿でフライング不法侵入してきて、【今日の朝一番から、自分の部屋のベッドの上で、銀髪美少女を力ずくで組み伏せて初めての激しい朝チュンをキメていた】にしか聞こえねぇ最悪の誤解大爆弾発言をゲロるんじゃねぇよヤンデレ白竜バカヤローッ!!!(※魂のツッコミ))
エルシエラが去った瞬間、テーブルの対面にいたお堅い令嬢キアラちゃんのルビーの瞳から、一瞬にして光が完全消滅した。
キアラちゃんが静かに杖を床にコツンと突いた瞬間――俺たちのいるテーブルの直下のレンガの地面が、地盤沈下などという生易しいレベルではなく、直径2メートルにわたって綺麗にクレーター状にドゴォォォンと強烈に陥没した。
それと同時に、局所的な高重力エラーバグが発生し、夜のテーブルの上にあったカボチャスープの鉄製スプーンが飴細工のようにグニャリとひん曲がり、皿の横に添えられていた不憫なパセリたちがペシャンコに圧縮され、俺が握っていた麦茶のガラスグラスが、暗黒のヤンデレ重力波の風圧によって『パキィィィン!』と真空大破して粉々に爆発散乱したのである。
「……あら? マモルさん、今、何とおっしゃいましたの……?私のために高熱で寝込んでいたはずのマモルさんが、何故あの銀髪泥棒猫お姉さまと昼間から、ベッドの上で一体どんな激しい不倫で『初めての敗北』を味合わせていらっしゃるのかしらァァァ……?説明を求めますわ(※髪を逆立たせた殺意の眼光)」
キアラちゃんは杖の先端から人間の村を丸ごと焦土に変えるレベルの暗黒重力球をバチバチと練り上げながら、俺の鼻面を完全にロックオンし、ガチの殺意の重力波を放ち始めた。
(あかん、言い訳の限界だ!!! ベッドの上で力ずくで組み伏せて初めての激しい敗北を味合わせた疑惑をどうやってイケメンな大嘘で上書きしろって言うんだよバカヤローーッ!!!)
俺はキアラちゃんの誤解による物理的消滅の恐怖で一瞬にして白目を剥くなかで、前世高校生としての脳細胞をフル回転させ、これ以上ないほど必死にホワイトな泥縄大嘘(大賢者リスペクト言い訳)をブッ放した。
「ち、違うんだキアラちゃん!! あれはさっきのオムレツの食材発注の続きなんだけど……! 実はエルシエラは、キアラちゃんの『大魔導師の愛弟子』としての素晴らしい武力や身のこなしを、物凄く尊敬して、日頃から羨ましがっていたんだ!!
だから今朝、エルシエラに『キアラ様のような一流の魔導師に近づくための、突進の受け流し武術(※ただのタックル)を教えてほしい』と涙目で懇願されて、俺、ベッドの横のスペースで【武術の稽古】をつけてあげていただけんだよ!!
ベースが格闘技の完敗の感想だから、エルシエラは頭がちょっとおバカなポンコツ白竜だから最悪に生々しい言い間違いをしちゃっただけなんだよォォォッ!!!(※必死のドヤ顔)」
「……そ、そういうことですの……っ!? エルシエラ様が、私の魔導師としての美しさに憧れて、マモル様に秘密の特訓を……っ!♡」
守のそのあまりにも必死な「武術の稽古説」を浴びたキアラちゃん。
自分の一流の魔導師としての武力をエルシエラ様が尊敬していたという部分、 そしてマモルが自分への一途な愛を汚さずににオムレツと武術の話をしていた(浮気は1ミリもしていない)という整合性に、最高にチョロインな脳内超理論バフが大爆発し、ルビーの瞳に光がキラキラと大復活して一瞬で大感動してくれた。
「私、マモルさんがその泥棒猫と朝から破廉恥な行為をしていたなんて一瞬でも疑ってしまって、本当に不覚でしたわっ、ごめんなさいマモルさん……っ!」
(……ふぅゥゥ!!! 信じたァァァ!!! 格闘技のスパーリングでの完敗として脳内上書きして大納得してくれたァァァ!!! 俺の命がけの泥縄大嘘ディフェンス、100%完璧に大勝利じゃねぇかバカヤローッ!!!涙)
ホッと胸を撫で下ろし、今夜こそホワイトに夜デートを解散して「お預け」を守り抜けると確信した、まさにその時だった。キアラちゃんはルビーの瞳をトロンと潤ませ、恥ずかしそうに耳を赤く染めながら、じりじりと顔をゼロ距離まで近づけてきた。
「マモルさん、不順異性交遊は結婚するまで絶対にお預けですけれど……その、私の魔導師としてのプライドとマモルさんの誠実さへのご褒美に、おやすみなさいの甘酸っぱい『おやすみなさいの口づけ』を……おねだりしてもよろしいかしら……♡」
俺の人間姿の脳細胞が、恐怖と絶望で一瞬にして白目を剥いた。
「キ、キアラちゃん!! キスはね、その、健康のために1日1回までって決まっているんだよ!! ほら、それ以上しちゃうと、お互いのピュアな魔力が暴走して、キスで物理的に溺れちゃうからさ!! だから今夜はお預けということで――」
俺の人生で過去最も苦し紛れでイカれたイケメン笑顔の大嘘(言い訳)をブッ放した、まさにそのコンマ数秒の瞬間だった。
「――なら、溺れましょうよ、マモルさん……♡」
「ふぇ? むぐ――」
キアラちゃんはトロンとしたガチ恋覇気の目のまま、俺の苦しい言い訳を最上級のロマンチックな愛の言葉として脳内バフで強制変換し、俺の唇に向けてフライング不意打ちの『おやすみ口づけ』を直撃で強奪してきたのだ。
柔らかくて甘い、女の子の唇の感触。
(……あ、あかん、もう全てを諦めたわ。言い訳の言葉も全部キアラちゃんのガチ恋覇気で『溺れましょうよ♡』にハッキングされたから、物理ガードする武器が何もねぇ……ッ!!!
もうこうなったら3日連続でも何でも好きなだけ溺れてやるわァァァアア!!!)
俺は引きつったイケメン笑顔のまま、腹を括って、俺の唇を貪るようにジリジリと迫るキアラちゃんの手をガッチリとホールドし返し、夜のテラス席の真っ正面から濃厚な『再度のフライング口づけ』を真っ向から交わしてしまうのだった。
キアラちゃんが「はふぅ……♡ マモルさん、最高の愛のおやすみ溺愛証明(ちゅっ♡)ですわ……♡」と幸せそうに抱きついてくるのをなんとか送り届け、本日最後となる2回目の擬態制限時間をすべて使い果たし、元の漆黒の巨大トカゲ姿へと強制定時退社した俺は、魂の抜け殻のようになって大集落の我が家の自室へと逃げ帰ってきたのだった。
「はぁ……はぁ……、散々な3日連続のリセマラだったわ。……あ、そういえばエルシエラのやつ、今夜もベッドの上で全裸でお待ちしていますねとかほざいてたな。まぁどうせトビラがないから入られて――」
俺が大集落の自室の前にたどり着いた、その瞬間だった。
「……あれ? 穴が、塞がってる……?」
見ると、アリアちゃんに粉々に大爆破され、ポッカリと大穴が空いていたはずの俺の部屋の入り口に、手先が致命的に不器用なはずのリザードマンの一族の大工たちが、王(俺)のために汗を流して必死に直してくれた出来立てホヤホヤのピカピカの新しいトビラが、不格好ながらもバチッと健気にハメ込まれていたのだった。
(おおおっ……! トカゲ大工たち、不器用なのに俺のためにトビラを直してくれたのか……ッ! ありがとう、リザードマン一族、持つべきものは優しい家臣たちだわ……!涙)
俺がトカゲの短い前足を震わせて大感動しながら、新調されたばかりの新しいトビラをノブを握って「カチャッ」と静かに開けた、その瞬間だった。
「すぅ……すぅ……(※スースーと優雅で可愛らしい人間の寝息)」
見ると、俺のベッドの上には、まだ12時間の変身魔力の寿命が残ったままの、衣服の大きく緩んだ『銀髪の超絶美少女姿』のエルシエラが、本当に有言実行で俺のベッドの真ん中を完全占拠して爆睡していた。
(本当に人間の姿(全裸寸前)のままベッドの上で待ち構えてんじゃねぇよバカヤローッ!!!)
絵面がラノベのご褒美ハーレムすぎて、大の爬虫類嫌いの俺の脳細胞が逆方向へブチ切れた。
昼間のように黒の王としてのチート筋力を暴発させてそのまま部屋からブン投げるところだが、俺はハッと我に返って短い前足を止めた。
(待て、待てよ俺……! 今ここで暴れてコイツを力任せにブン投げたら、トカゲ大工たちが必死の思いで直してくれたばかりのこのピカピカの新しいトビラが、衝撃でまた跡形もなく粉々に大爆破されちまうじゃねぇか!!! 家臣たちの涙の努力を2秒でゴミにするわけにはいかねぇ!!!)
俺は極限の知略をフル回転させ、ベッドの上で優雅に眠っている人間姿のエルシエラの身体を、起こさないように両前足でズルズル、ズルズルと細心の注意を払って床へと引きずり下ろした。
そして、新調されたばかりのトビラを傷つけないように「カチャッ」と優しく自分の前足でドアを開け放ち、エルシエラを部屋の外へとズルズル引きずり出すと――。
「フシュゥゥゥーーーーーッッッ!!!!(※外のガレキの山へ、トビラに当たらないように細心の角度で、物理パージィィィ!!!)」
ブォォォンッ!!! ドササササッ!!!
「きゃあっ!? あら……また人間の姿のままガレキにブン投げられてしまいましたわ……♡ でも、トビラを労わる優しさと、わたくしへの2度目の野生の男らしさ、最高にときめいてしまいますわァァァ……っ!!♡(※ガレキの中で驚きのあまり変身が解けて白いトカゲ(白竜)に戻りながら悶絶するエルシエラ)」
(ガレキの中で白竜に戻りながら熱いガチ恋バフを這わせて覗き込んでくんじゃねぇよ!!! 丁寧に外へパージしたんだから、今夜は大人しく野宿してろォォォッ!!!)
俺は新調されたトビラをカチャッと静かに閉めて鍵をロックすると、そのままドスンとベッドへダイブし、布団の中に頭まで深くくるまって、3日連続でキスを我慢できなかった激しい自己嫌悪の涙を流しながら、心の中で大号泣の絶叫を上げるのだった。
(うわあああ大歓喜だけど、3日連続で初日の夜にスピードリセマラをキメる俺のこの意志の弱さ不甲斐なさよォォォオオオ!!!
こんなの100日間連続で我慢するなんて絶対に無理だよコンチクショー!!! 始まって3日とも初日の夜に速攻でリセットされてんじゃねぇかバカヤローッ!!!
アリアちゃん!! お前が隣の国から3倍チート怪物の髪の毛を毟り取って帰ってきてくれねぇと、俺、明日からも毎日キアラちゃんに怪しまれるたびに『溺れましょうよ♡』って押し切られて、一生永遠に『1日目』をループするハメになって永遠にガチトカゲのまま飼育監禁されるぞォォォオオオ!!!涙)
キアラちゃんのおねだり不意打ち溺愛キスのせいで、明日からまた「1日目」の麦茶ガードをやり直すハメになった絶望の布団の中で、俺の隠密スローライフは、アリアちゃんが隣国で命がけのお使いを完遂させて帰還する、次なる新章への最強のロケットスタートフラグをガチガチにロックしながら、容赦なく突き進んでいくのだった。
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(次回更新:本日18時40分!)




