第53話 お預け1日目の夜間ディフェンスと、エンドレス麦茶おもてなし
「マモルさん……♡ 最高の2人きりのロマンチックなディナーになりましたわね……♡ さあ、お昼のサプライズキスの続きを……今夜はもっと濃厚に、私にたくさんおねだりしてくださいましーッ!!!♡」
夜のカフェのテラス席。アリアちゃんが「隣国の歩く天災怪物の髪の毛を毟り取ってくる!」と涙目で夜の市場の闇へと音速のスピードで消え去った、まさにその直後のことだった。
テーブルの対面では、トロンとしたガチ恋の目をギランギランに輝かせたキアラちゃんが、テーブルの下から俺の手をガッチリと恋人繋ぎでホールドし、じりじりとその可愛い唇を近づけてきていた。
俺の人間姿の脳細胞が、恐怖と絶命のプレッシャーで一瞬にして白目を剥く。
(さっそく『キス大拒絶ディフェンス(お預け100日)』の極限のデスゲームが始まっちまったじゃねぇか!!!
今ここでうっかり人間の姿のまま2回目の不意打ちキスを喰らったら、アリアちゃんがお使いに行ってくれてる隣の国の髪の毛を試す前に、俺、本当にオスとしての尊厳が消し炭になるだろォォォオオオ!!!)
本日『2回目』となる今日最後の変身タイマーは、俺の完璧なスケジュール管理のおかげで、まだ【残り2時間以上】もたっぷり残っている。時間の猶予はたっぷりある。なのに、この目の前のチョロイン分隊長のガチ恋暴走のせいで、俺の命の灯火は始まって数分で完全に消灯の危機を迎えていた。
(あああ、あかん!!! カフェのお昼の修羅場の時もそうだったけど、あのガクブル大魔導師がツッコミ役としてその場にいてくれないと、このエリート分隊長はブレーキが完全に壊れてすぐに一人で斜め上に大暴走しやがるんだよォォォ!!!誰か、誰か俺と一緒にこの最強のチョロインを止めるツッコミ役をここに連れてきてくれェェェエエエ!!!)
だが、始まったばかりのお預け100日耐久レースをこんな一瞬でゲームオーバーにされてたまるか!
キアラちゃんの可愛い唇が、俺の唇に触れる数ミリ手前の瞬間――俺は前世の高校生としての超人的な防衛本能で脳細胞をフル回転させ、テーブルの上の【冷たい麦茶のガラスコップ】をガッと掴むと、2人の顔面の間のデッドスペースにガシッ!!!と力任せに差し挟んだ。
ポフッ……チキィィィン(※ガラスの冷たさがキアラの鼻頭を直撃した音)。
「あ、あははは! キアラちゃん、お、お花畑から戻ってきたばっかりで、喉が渇いてると思ってさ!! ほら、この冷たい麦茶、一気にゴクゴク飲むと健康に最高に良いからさ、まずは水分補給をしようねっ!♡(※顔面汗ダラダラ)」
「ふぇ? むぐ、ごく……ぷはっ!? あ、ありがとうございますマモルさん、私の喉の渇きをそこまで気遣ってくださるなんて、やっぱり本当にお優しいですわ……っ♡」
唇を突き出したセクシーな体勢のままガラスコップの冷たさを鼻面に浴び、ズズズッと麦茶を強制的に喉奥へ流し込まれたキアラちゃんは、チョロインバフにより一度は大人しくイスへと引き下がってくれた。
だが、愛のボルテージが最大風速に達しているエリート分隊長はこれくらいでは諦めない。
「ふぅ、潤いましたわ。さあマモルさん、今度こそ――♡」
キアラちゃんは再びテーブルの下で手を繋いだまま、さらに情熱的に、獲物を狙うトカゲのような眼光で唇を「むぅ……♡」と突き出してじりじりと近づいてくる。
(また来たァァァ!!! 麦茶のピッチャー(おかわり)はどこだァァァ!!!)
俺はパニックになり、キアラちゃんが顔を近づけてくるたびに、テーブルの上の飲食料を次々と盾にして顔の間に差し挟み続ける、最高に必死な高速おもてなしディフェンスをキメまくった。
「あ、麦茶おかわりあるよ! はい一気飲み!」「あ、このカボチャスープも飲む!? ほらスプーンを口にイン!」「あ、こっちのサンドイッチのパセリ食べる!? ビタミンCが豊富だよ!!」
「ふぇ!? むぐ、ごく、はふっ!? マモルさん、美味しいですけど、テンポが早いですわ!?」
度重なる食べ物・飲み物での物理ガードを浴び続け、お腹がタプタプのパンパンに膨れ上がったキアラちゃんは、イスごとガタバシッと立ち上がると、ルビーの瞳をギランギランに血走らせて猛烈に身悶えし始めた。
もちろんキアラちゃんは、俺が1日2回の変身制限ルールを持っていることなんて1ミリも知らない。だからこそ、彼女の持つエリート防衛隊員としての高い知性が、この状況に対して【最高に筋の通った最悪のヤンデレ大勘違い】を弾き出した。
「……マモルさん、何故……何故、私があなたと唇を重ね合わせようと情熱的に近づくたびに、そんな恐ろしい速度で冷たい麦茶のエンドレスおおもてなしを顔の間に差し挟んでくるのですかァァァ……っ!?
――はっ!! そうですか、全てが繋がりましたわ!!
あの泥棒猫どもに去り際にかけられた卑劣な呪いのせいで、今夜再び私と口づけを交わしようとすると、マモルさんの肉体に恐ろしい拒絶反応(拒絶の呪い魔法)が出てしまうのですわね……っ!? だから、マモルさんは必死にその体内の呪いの熱を、冷たい麦茶の水分で抑え込もうとしてくださっているんだわァァァーーーッ!!♡」
(呪いじゃなくてシステムルール(ロック)だし熱を冷ましてるわけじゃねぇよキアラちゃん!!! あと『必死の愛のディフェンス』じゃなくて、俺のオスとしての尊厳と人間の肉体を死守するためのただの生存戦略なんだよ!!!)
「マモルさんの深い愛は分かりましたわ! でも、泥棒猫の呪いなんて私の地魔法で全部吹き飛ばして差し上げますわァァァーーーッ!!!♡」
キアラちゃんがついに防衛隊エリートの武力を暴発させ、テーブルをガタガタと魔力で震わせながら、俺の胸元へとガシッ!とダイブし、俺の麦茶の盾(物理ガード)を強引にへし折って唇を奪おうとゼロ距離まで強襲してきた、まさにその瞬間だった。
「――あら、マモル様。夜のテラス席でそんなに情熱的な不純異性交遊をしていらっしゃいましたのね……♡」
カフェのテラス席のすぐ真横の闇から、神聖で上品な、だけど心臓が瞬時に凍り付くような最高に逃げ場のないヤンデレ敬語ボイスが響き渡った。
振り返ると、そこには昼間の光の神殿での「卵100個の絶倫夜間残業予告」を有言実行するべく、銀髪の超絶美少女姿のエルシエラが、満面の聖女の微笑みを浮かべながら佇んでいたのだった。
「出たわね、泥棒猫ォォォ!!! マモルさんから離れなさい、今すぐ私の地魔法で消し炭にして差し上げますわァァァーーーッ!!!」
(俺の変身制限時間は完璧に余裕が残ってるのに、お前ら2人のヤンデレ最高潮の物理的な挟み撃ちのせいで、始まって数分で世界滅亡クラスのハルマゲドン修羅場が来てんじゃねぇか!!!エルシエラ、お前なんで12時間の変身バッテリーをそんなストーキングのために無駄遣いして村まで先回りしてんだよ!!! あとキアラちゃん、そいつを地魔法で挑発するんじゃねぇ!! こいつ今、俺に【卵を100個産まされる気(※特大の勘違い)】でやる気ギガマックスでここに仁王立ちしてんだよォォォオオオ!!!)
キアラちゃんのおねだり強襲と、エルシエラの卵100個のやる気、そして2人のヤンデレによるテラス席での全面戦争勃発の危機。
俺の隠密スローライフは、変身時間に1ミリの焦りもないはずの初日の夜にして、キスによる永久ロックか、2人の激突によるカフェの物理的消滅かという、逃げ場のない究極の『ヤンデレ全面戦争・挟み撃ちデスゲーム』の荒波へと、容赦なく叩き込まれるのだった。
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(次回更新:本日21時20分!)




