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第52話 夜のテラスのガクブル土下座と、隣国のチート人間お使いミッション

あの地獄の宿屋のトビラ大爆破フライング不意打ちキス事件によって、人間の青年の肉体を取り戻すための愛の裏技解除条件が、世界のシステムレベルで【永久確定ロック】されてしまった、今日の昼下がり。

絶望のどん底のなかで現実の光の神殿のトビラを粉砕してココアを涙目で締め上げた俺は、 「ロックを上書き初期化するには、隣の国にいる俺と同じ【黒】の魔力を持つ人間の髪の毛か切った爪をペロッと食べるか、ロックの原因となったキアラちゃんとのキスを100日間我慢する」という究極の裏技を教えてもらっていた。


そして、太陽が完全に沈みきった、今日の夜。


日付が変わってストックされた、本日分『2回目』の、今日最後となる貴重な3時間擬態枠を発動した俺(人間姿)は、人間の村のいつもの馴染みのカフェのテラス席で、キアラちゃん、そしてアリアちゃんとテーブルを囲んでディナーの席についていた。


だが、そのテーブルを包む空気は、これ以上ないほどに奇妙に引き裂かれていた。


「マモルさん、お肉を綺麗に切り分けましたわ♡ あ、私、ちょっとお花畑トイレへ席を外してきますわね♡」


昼間に「マモルさんとの初めての真実の愛の口づけ(※エルシエラは完全ノーカウント)」を強奪して完全なハッピーエンドの両想い期に突入したと思い込んでいるキアラちゃんだけが、顔面を真っ赤にさせた極上の幸せ笑顔で席を立つ。

だが、キアラちゃんが席を外して1秒。残された俺の脳内は(一生ガチトカゲ化確定……ここから100日間、人間の姿のまま絶対にキスをしないお預け地獄レーススタート……涙)とお通夜の抜け殻状態。


さらにお隣のアリアちゃんにいたっては、昼間に自身が立てた完璧な時間差トリック作戦をキアラの大暴走のせいで100%大失敗に終わらせてしまった恐怖から、「ボクのせいで魔王様のお怒りに触れてしまった、逆らったら即座にミンチにされる……っ!」とガチで絶望しており、お互いに目が血走ったバキバキの死んだ魚の顔をしてサンドイッチを咀嚼していた。


すると突然、アリアちゃんがイスからガタバシッと滑り落ち、テラス席の床で俺に向けて全力の五体投地(土下座)をブチかましてきた。


「マモル様ァァァ!!! 昼間はボクの立てた時間差ハッキング作戦のせいでキアラがテンポを暴走させて人間のままキスを強奪しちゃって本当にすみませんでしたァァァーーーッ!!! 貢いだ高級ウロコは全部ボクの命のカバンに入ってますから、ボクの首をへし折って人間の国を滅ぼすのだけは勘弁してぇぇぇ!!!涙」


(声がデカいデカいデカいアリアちゃん!!! 周りの村人に目撃されたら、俺がただの金髪のロリ美少女大魔導師を裏路地に連れ込んで物理的に脅迫してる最悪の変態の不審者だと思われるだろォォォ!!!)


「いいから、謝らなくていいから! ほら、大急ぎでイスに座り直して!」

俺は背中に滝のような冷や汗を流しながら、大慌てでアリアちゃんの華奢な腕を引っ張り上げてイスに座らせ直した。


そして、ココアから聞いた「ロックを外すための等価交換素材(髪の毛)」のことを思い出した俺は、いつもの爽やかな笑顔で、コンビニへアイスの買い出しでも頼むような、最高に軽いお使いのノリでアリアちゃんに尋ねた。


「あ、そうだアリアちゃん。謝らなくていいからさ。……そういえば、隣の国に俺と同じ『黒髪(黒の属性)』の人間がいるらしいんだけど、アリアちゃんって知ってる?

もし知り合いならさ、キアラちゃんとのキスを初期化するためにその子の髪の毛とか切った爪が必要んだよね。何でもいいから何本か極秘で毟り取って回収してきてくれないかな?」


俺のそのあまりにも軽い「ついでに髪の毛毟ってきて」というお買い物発注を浴びた瞬間、アリアちゃんのルビーの瞳がこれ以上ないほどバキバキに丸く点になり、ガクブルとマッハの速度で激しく痙攣しだした。


「し、知ってる、知ってるよマモル様ァァァ!!! 隣の国のあの【黒】の属性の人間って……近づくだけで周囲の空間の魔力がボロボロに消滅して、一国家の精鋭軍隊が近づいただけで跡形もなく消し炭にされる、この世界のバランスを完全崩壊させてるチート級の最強のバケモノ(歩く天災)だよぉぉぉ!!!(涙目の大絶叫)」


(へぇ〜。何だかよく分からんけど、アリアちゃんより凄いんだね。さすが大魔導師、相変わらず顔が広くて頼りになるなぁ)


「あ、知ってるんだ? さすがアリアちゃん、じゃあその子と知り合いなら、何とか上手いことお願いして回収してきてよ。よろしくね!」

俺が呑気にスープをゴクリと飲みながらドヤ顔でウインク(※アリアちゃん視点では無慈悲な魔王の暗殺命令)をキメると、アリアちゃんは涙目をダラダラと流しながら、杖を抱きしめてガタガタと立ち上がった。


(……ひ、ひぃぃぃ!!! 魔王様、隣の国のあの『ボクより遙かに恐ろしい世界最高峰の怪物』に目をつけ、呪いのワラ人形の触媒にするために髪の毛を毟り取って暗殺しろって笑顔で宣告してるんだわァァァ!!! 失敗したらボクが真っ先に噛み砕かれて更地にされる、今すぐ行って死ぬ気で毟り取ってこなきゃ世界が滅ぼされるぅゥゥ!!!涙)


「わ、わかりましたマモル様ァァァ!!! ボク、世界平和のために、今から国境を越えて命がけで隣の国へ行って、あの怪物の素材を毟り取ってきますからァァァーーーッ!!!」


アリアちゃんは涙目を流したまま、恐ろしいフットワークの軽さ(※ガチの命乞い)で、夜の村の市場の闇の中へと音速のスピードでバサバサ立ち去ってしまった。


「へぇ〜。アリアちゃん、ずいぶんノリノリで引き受けてくれたな。さすが大魔導師、フットワーク軽くてお使いにピッタリだわ。これで人間に戻る第二のチャンスの目処も立ったし、一安心だな!」


俺が完璧に視界良好な笑顔でサンドイッチを口に運んでいると、「お待たせしましたわマモルさん♡」と、お花畑から帰ってきたキアラちゃんが席に戻ってきた。

キアラちゃんはガラ空きになった隣の席を見渡し、「あれ? 師匠はどちらへ行かれたのですか?」と不思議そう尋ねた。


「あ、あはは、アリアちゃんは何か急用を思い出したみたいで、大急ぎで帰っちゃったよ」

「まあ……っ♡」


俺が引きつった笑顔で泥縄のフォローを口にした瞬間、邪魔者の大魔導師がいなくなって完全な2人きりになった夜のカフェのテラス席で、キアラちゃんのルビーの瞳口がトロンと潤んだ。彼女はテーブルの下から、俺の手を最高の恋人繋ぎでガッチリとホールドすると、じりじりと顔を近づけてきた。


「マモルさん……♡ 最高の2人きりのロマンチックなディナーになりましたわね……♡ さあ、お昼のサプライズキスの続きを……今夜はもっと濃厚に、私にたくさんおねだりしてくださいましーッ!!!♡」


俺の人間姿の脳細胞が、恐怖と絶望で一瞬にして白目を剥いた。


(さっそく本日最初の『キス大拒絶ディフェンス(お預け100日)』の極限の修羅場が来ちまったじゃねぇかバカヤローッ!!! 今ここでうっかり人間の姿のまま2回目のキスを喰らったら、アリアちゃんがお使いに行ってくれてる隣の国の髪の毛を試す前に、俺、本当にオスとしての尊厳が消し炭になって一生ガチトカゲのまま引きこもり生活を余儀なくされるだろォォォオオオ!!! 頼むから今すぐ冷たい麦茶コップ(物理ガード)を俺とキアラちゃんの顔の間に差し挟んでくれェェェエエエ!!!)


アリアちゃんの立てた完璧な時間差トリックの崩壊を経て、隣国の凄まじいチート怪物の細胞隠密回収ミッション(※ただの軽いお使い)が裏で始動するなか、俺の隠密スローライフは、キアラちゃんのおねだり不意打ち唇を死ぬ気でガードし続けなければいけない、過去最も心臓に悪い『キス大拒絶ガード100日耐久レース』の地獄のゴングの幻聴を聞きながら、さらなる泥縄へと、容赦なく突き進んでいくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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(次回更新:本日18時40分!)

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