第50話 トビラなき密室のロマンチックと、限界突破の不意打ち口づけ
「まあ……っ! ここが、昨日の昼下がりにマモルさんが私のために最高位の魔導鑑定を極秘に頼んでくださっていた、あの愛の聖地ですのね……っ!涙」
翌日の昼。本日『1回目』の擬態魔法を発動した俺は、アリアちゃんの指示通り、キアラちゃんを人間の村の宿屋の自室へと連れてきていた。部屋の入り口に到着した瞬間、キアラちゃんはルビーの瞳をキラキラと輝かせて大感動している。
だが、俺たちの目の前にあるのは、昨日キアラちゃんの暴走で地魔法によって粉々に大爆破したせいで、トビラが跡形もなく消滅して廊下から丸見えの、防犯性ゼロの空き部屋だった。
もちろん宿屋の人間のお主人には、俺が涙目で「本当にすみません!」と前払いで莫大な修理費を全額支払ったのだが、大工たちのスケジュールが合わず、現在もポッカリと巨大な大穴が空いたまま放置されていたのである。
(お前がブチ壊したから廊下から丸見えなんだよキアラちゃん!! 聖地じゃねぇよ!!)
だが、俺たちの目的は、アリアちゃんが昨夜の第3回残業会議で弾き出した、世界のシステムをハッキングする『時間差トカゲ戻りキス作戦』の執行だ。
俺は人間のイケメン笑顔を全開にして、廊下から丸見えの部屋のベッドの横でキアラちゃんの両肩をそっと抱きしめた。
「キアラちゃん。……その、男らしく、キアラちゃんに人生初のファーストキス(※エルシエラはノーカウント)を捧げるための、特別なサプライズがあるんだ。……だから、この方がロマンチックだからさ、ちょっとだけ目を閉じて、この目隠しをしてくれないかな?」
「は、はいっ……♡ マモルさんから私へのロマンチックなサプライズ……っ! 私、いつでも心の準備はできていますわァァァーーーッ!!!♡」
キアラちゃんが顔面から湯気を噴いて大赤面した瞬間、物陰からガクブル震えながらついてきていたアリアちゃんが、涙目でシュバババッ!とキアラちゃんの目に頑丈な『目隠しの魔法の遮光布』をガッチリと装着させた。
アリアちゃんは俺に向けて、(マモル様ぁぁ! 視界の完全封印は完了したよ! あとはキスの直前に一瞬だけ変身を解いてトカゲに戻って、キスした次の瞬間にまた人間に化ければ完璧だよ! 世界を更地にするのだけは勘弁してぇぇぇ!!涙)と必死のアイコンタクトを送ってくる。
「キアラちゃん、絶対に目を開けちゃダメだからね」
「はい……っ♡」
キアラちゃんが可愛い唇を「むぅ……♡」と突き出し、俺も覚悟を決めて、キスの数秒前に自ら変身を解いて大トカゲ姿に戻ろうとした、まさにその時だった。
「……やっぱりよ!! アタシの風のレーダーに間違いはなかったわ!! マモル様、こんなトビラのないオープンな部屋で、人間の女と何をしてんのよッ!?」
壊れたトビラの大穴から、ぬっと一斉に顔をハミ出させて覗き込んできたのは――お昼のカフェから俺の怪しい動きを完璧に嗅ぎつけ、廊下をゾロゾロと一緒のタイミングで大集結してストーキングしてきた、人間姿のトカゲヒロイン5頭の軍勢だった。
「ちょっとマモル、何やってんのよッ?(ゼフィラ・風)」
「マモル、クレープ美味いっすよ?(ガルダ・火)」
「あら、マモルくん照れちゃって。反抗期かしら?(デメト・土)」
「マモル、私との邪魔者のいない、二人きりの密室(※トビラなし)はいつですか……? ずっと待っていますね……(ネレイダ・水)」
「あら、マモル様。わたくしを差し置いて不純異性交遊ですのね♡(エルシエラ・白竜)」
トビラがない大穴の向こうに、ツインテ美少女、赤髪ギャル、豊満お姉さん、ヤンデレ青髪、銀髪聖女の顔がギチギチの満員電車状態で並び、一斉に部屋の中をのぞき込んでいる地獄のような大カオス。
「お前ら全員一斉に何覗き込んでんだよバカヤローッ!!!」
俺は正体がバレるのを防ぐため、まだ【1回目の人間の姿のまま】で、大穴の向こうの5頭に向けて全力のツッコミお払いディフェンスをブチかました。
「なんでもないから!取り込み中だから! 全員まとめて今すぐ人間の村の市場へお菓子でも買いに立ち去れバカヤローッ!!!」
「え〜? ケチっすねぇ」「またクレープでも食べに行きましょ」と廊下が大騒ぎになるなか、頑丈な黒帯で目隠しをされ、顔を真っ赤にして唇を突き出した体勢のままじっと待たされていたキアラちゃんは、度重なる謎の乱入のせいで、ときめきバフ(ガチ恋覇気)が限界突破して大爆発した。
「……マモルさん、まだですか……? ――もう、マモルさんの意地悪っ!! 私、もう待ちきれませんわァァァーーーッ!!!!(※限界突破大暴走)」
「え? 待っ――」
仕切り直してトカゲに戻ろうとした俺が、制止の声を上げようとした、そのコンマ数秒の瞬間。
しびれを切らしたキアラちゃんは、目隠しをされたまま俺の胸元へとガシッ!!!と猛烈な勢いで飛び込み――俺がトカゲの姿に戻る前の【人間の姿(擬態魔法)のまま】の俺の唇に、フライングで「ちゅっ♡」と、これ以上ないほど情熱的な不意打ちファーストキスを強奪したのだ。
柔らかくて甘い、女の子の唇の感触。
人生初の、前世から18年間守り抜いたチェリーのファーストキスの完全強奪。
――カチリ。
――その至福の直後、俺の脳内に、世界最高神の申し子ココアの、最高に無邪気で絶望的なテレパシー(脳内通信)が冷酷に響き渡った。
『あ、おめでとうマモルくん! ファーストキス大成功だね! ……でもねマモルくん、トカゲの姿ではなく【人間の姿(擬態魔法)】のままでうっかりキアラちゃんとキスを交わしちゃったから……祝福のシステムが『あ、コイツはこの現状で満足してるんだな』って誤認しちゃって、人間の姿へと完全復活できる愛の裏技解除条件が【永久に消滅(完全確定ロック)】しちゃったよっ!♡ もう一生、人間の少年の肉体を取り戻せなくなっちゃうからねっ!』
(……あ、あかん……。嬉しいけど、最高にご褒美イベントだけど、終わった……。アリアちゃんのせっかくの時間差トリックをトカゲたちのストーカー乱入のせいで大バグらせた挙げ句、俺の人間に戻るチャンスが永久にロストして、一生あのゴツゴツした漆黒の大トカゲのままで生きることが、世界のシステムレベルで100%完全確定しちまったぞォォォオオ!!!(白目を剥いて血涙を流して完全石化))
キアラちゃんが「マモルさん……♡ 私たちの真実の愛の誓いの口づけですわね……♡」と目隠しをしたまま幸せそうに俺の胸に抱きついてくる横で、後ろからその永久ロックの瞬間を直撃で目撃していたアリアちゃんが、名前通りガクブル震えて(魔王様が人間の少年の魂を永久に捕食してロックをキメたんだわァァァ!!!)と白目を剥いて泡を吹いてガチ気絶した。
擬態魔法自体はまだ1回目のストックが1時間残っているため、その場でトカゲの正体がボロ出しになってキアラちゃんにバレる大惨事だけは完璧にセーフ。
だが、「擬態が切れたらただの巨大トカゲに戻るだけ」という、人間の肉体を永久に失った悲劇の魔王(守)の絶望の夕暮れのなかで、俺のお買い物隠密スローライフは、ココアを涙目で締め上げるための次なる『裏技の裏技』のデスゲームへと、容赦なく突き進んでいくのだった。
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(次回更新:本日21時20分!)




