第43話 引き留められた修羅場と、暁の連続変身上書き術式
お昼のランチデートを楽しんでいる最中、俺(人間姿)の脳内に無慈悲な世界のシステムアラームが鳴り響いた。
――ピピッ。本日分『1回目』の擬態時間、残り10分。
(ヤ、ヤバい……! 楽しいデートに夢中になってる間に、朝イチの3時間擬態タイマーが残り10分じゃねぇか! 今すぐ人気の少ない物陰へダッシュしてリザードマンの大集落へ逃げ帰らなきゃ……!)
制限時間のバッテリー低下のせいで、俺の人間姿の首元や手の甲から、漆黒の国宝級ウロコが『ザザザッ……ザザザッ……』と物理的に浮き出しかけていた。
「キ、キアラちゃんごめん! 俺、急に外せない用事を思い出したから、今日のところはこれで一旦お開きに――」
俺が引きつった笑顔で大慌てで席を立とうとした、まさにその時だった。市場の群衆を掻き分けて、お買い物帰りの銀髪の超絶美少女――エルシエラが、優雅にぶらぶらと通りかかった。
「あ、あれ……!? エ、エルシエラさん……ッ!?」
エルシエラの人間姿を見た瞬間、キアラちゃんはガバッと立ち上がり、ルビーの瞳に大粒の感動の涙を溢れさせた。一昨日の夜、泥棒猫の本隊から見捨てられ、さらにトカゲ(白竜姿)へと退化させちゃうおぞましい嫌がらせの呪い魔法をかけられていた可哀想な女の子が、奇跡的に人間の姿に戻っていると大勘違いしたのだ。
「エルシエラさん! 泥棒猫にかけられていたあの酷いトカゲの呪いが解けたのですか!? ああ、無事に人間の姿に戻れて本当によかったですね……っ! ――でも!」
キアラちゃんは一瞬で涙を拭うと、ルビーの瞳をヤンデレな戦闘モードへと切り替え、デメトの親父のウロコ特注杖をシャキーンと構えてエルシエラを睨みつけた。
「私はまだ、一昨日の朝にマモルさんの人生初の『大切なファーストキス』を、私のベッドの上で無理やり力ずくで強奪したことだけは、絶対に許していませんからね!!」
(ブッハァァァッ!!! 村のど真ん中でそのトラウマを蒸し返して大声で叫ぶんじゃねぇよキアラちゃん!!! 俺が前世の高校3年間も含めて18年間守り抜いたピュアな純潔を、空中浮遊の刑の体勢のまま強奪されたあの血涙の精神的即死ダメージ、今ようやく忘れかけてたのに脳みそがバーストしそうだわバカヤローッ!!!)
俺が心の中で血涙を流して精神的ダメージに悶絶していると、俺の隣に座っていたアリアちゃん(人間の100倍強い大魔導師)が、エルシエラの顔を見た瞬間、笑顔のまま完全にフリーズした。
昨夜、大集落の俺の部屋を包囲した『数百頭のガチトカゲの軍勢』の中には、この銀髪の女の姿だけはいなかった。
だが、アリアちゃんの鋭すぎる魔力感知は、エルシエラの肌の奥に潜む、あの『1枚で人間の村に豪邸が建つレベルの、世界最高峰の白い巨大化け物トカゲ(白竜)』の圧倒的な魔力波長を、ここで直撃で看破してしまったのだ。
(……ひ、ひぃぃぃ!!! キアラが杖を突きつけてるあの銀髪の小娘……魔力の波長が、ボクたち人間とは生物としての格が違いすぎる、あの白いダイヤモンドの化け物(白竜)そのものじゃねぇかァァァ!!!)
「ふふ、キアラ様。マモル様の初めての味は、とっても高純度で美味でしたのよ♡(※ただの天然の自慢)」
「な、なんですってぇぇぇ!? やっぱりこの泥棒猫、今すぐここで跡形もなく圧殺してあげますわ!!」
エルシエラの空気の読めないウットリ自慢のせいでキアラちゃんとの言い合いが最高潮にヒートアップするなか、アリアちゃんは滝のような冷や汗をダラダラと流しながら、全力で教え子の胴体をホールドして死ぬ気で引き剥がした。
「キ、キアラやめろォォォ!!! いいから今すぐその杖をしまえ!! だからそれはお前の完全な勘違いだと言っているだろうがァァァ!!!(その女に手を出すなボクたち一瞬で肉片にされて死ぬぞォォォオオ!!!)」
「離してください師匠!!」
二人が羽交い締めで大パニックになっている間にも、俺の擬態残り時間はついに【残り数分】の限界を迎えていた。ウロコが『ザザザッ!!』と本格的にハミ出し始めていた。
(アカン!!! 恥ずかしさと制限時間切れでトカゲに戻る!!! とにかく俺はもう帰る!!!)
「待ってください、マモルさん……ッ!!」
俺が顔を覆って全力で逃げ出そうとしたその瞬間、キアラちゃんが涙目で、ガシッ!!!と熱烈な修羅場ホールドで俺の手をガッチリと掴んで引き留めてきた。
「逃げないでくださいマモルさん!! あなたは……あなたは、この私を置いてあなたを無理やり拉致した、この不法侵入の泥棒猫の女のことを、一体どう思っているのですかァァァーーーッ(涙目のガチ恋激追及)!!」
(近い近い近い!!! 気持ちは嬉しいし俺もエルシエラのことはストーカー白竜として100%大嫌いだけど、今ここで手を掴まれたままタイムリミットを迎えれば、その瞬間に巨体の漆黒の大トカゲがカフェの真ん中でドカンとポップアップして即死するだろォォォオオ!!! 帰らせてくれぇぇぇ!!!)
このタイミングで逃げるわけにはいかなくなった俺は、キアラちゃんに手を掴まれたまま、笑顔を引きつらせて【本日2回目の、今日最後の変身タイマー枠(3時間)】を涙目で前払い発動(連続変身)させた。
シュゥゥゥゥウウウ……!!!
擬態の上書き術式が作動したせいで、俺の体内から、周囲の空間の空気をビリビリと震わせる凄まじい魔力のスパークがブーストされた。
街のど真んでトカゲに戻る大惨さを防ぐための必死の泥縄上書きをキメながら、俺はキアラちゃんのルビーの瞳を真っ正面から見つめ、男らしく叫んだ。
「俺が、俺が好きなのはキアラちゃんだけだァァァッ!!!」
(だからエルシエラなんか100%ただのストーカートカゲなんだってば!! はよ手を離してくれぇぇぇ!!)
俺の突然の魂の直球告白に、キアラちゃんは一瞬で「プシューーーッ!!」と顔面から湯気を吹き出して大フリーズした。
だが――真横でそのバグレベルの魔力ブースト(※ただの変身上書き)と、俺の「好きなのはキアラだけだ(※ただの弁明)」という大絶叫をまともに浴びたアリアちゃんの脳内超理論が、ガクブルとリアルな恐怖と共に過去最悪の方向へ超進化した。
(……ひ、ひぃぃぃ!!! キアラがマモル様(魔王)を修羅場で問い詰めて怒らせたせいで……! マモル様が不快感でブチ切れて、周囲の空間を歪めるほどの恐ろしい怒りの覇気を放ちながら、『ボクのお気に入りのキアラ(生贄)に手を出す泥棒猫は、今すぐこの村ごと更地にして滅ぼしてやる』っていう、恐ろしい魔王の独占宣言をしてるんだわァァァ!!! このままじゃボクもこの街も一瞬で消し炭にされる!!!)
アリアちゃんは、マモル様(魔王)のあまりの凄まじい独占欲(大嘘)の魔力に魂が完全にへし折れながらも、恐怖でバキバキに据わった涙目で、バサバサと懐の国宝級ウロコを抱きしめた。
(やっぱり、大好きな弟子とこの世界を守るために、ボクが……ボクが師匠として、何とかしなきゃ……ッ!!涙)
俺の全力の連続変身のせいで、大魔導師の誤解がさらに『やっぱりキアラをマモル様(トカゲの姿)と相思相愛にさせてキスさせなきゃ世界が滅ぼされる!』という破滅のラブコメ方向へと最悪に加速していく、のどかな昼下がりのカフェテラス。
今日最後となる2回目の擬態ストックを全て使い切り、明日の朝まで人間の姿を完全に使い果たしてしまった俺の隠密スローライフは、アリアちゃんの健気すぎる涙の決意の裏で、もはや誰もコントロールできない泥縄へと、容赦なく突き進んでいくのだった。
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(次回更新:本日18時40分!)




