第4話 完璧なギャルと、完璧な捕食
エメラルドグリーンの髪をレンガの壁やメニュー看板に溶け込ませるという、ホラー極まりない擬態のボロを出したゼフィラ。
彼女を「お願いだから集落に帰ってくれ!」と必死に説得して追い返した翌日。
俺は再び人間の村のカフェでキアラちゃんと向かい合っていた。
「……マモルさん、昨日の緑の髪のお友達、本当に大丈夫なんですか? なんだか、トカゲ特有の『ぬるカサ感』を全身から放っていた気がするんですけど……」
「だ、大丈夫だよ! あいつはただの、極度のトカゲオタクというか、トカゲになりきりすぎて頭の魔力がバグっちゃった可哀想な奴だから!」
俺は冷や汗を流しながら、必死にキアラちゃんにイチゴのパフェを勧めて話題をそらそうとする。危ねぇ。キアラちゃんのトカゲ・アンテナが鋭すぎる。
俺の正体が漆黒の大トカゲだとバレたら、その瞬間にこの聖域は消滅するんだ。
「お待たせっすー! アタシもその甘そうなやつ、一つ頼んじゃっていいっすか?」
――その、軽薄極まりないギャル声が、俺たちのテーブルに割り込んできた。
隣の席の椅子をガタガタと引き、当然のように腰掛けたのは、真っ赤な髪をショートカットにした、おへそ丸出しの健康的な爆乳美少女だった。誰もが振り返るような超絶ギャル。だが、その正体を俺は知っている。
火の部族の戦士長の娘――ガルダだ。
「ガ、ガルダ!? お前までなんでここにいるんだよ!」
「え〜? ゼフィラの擬態魔法がヘタクソすぎてフラれたって部族で大笑いになってたから、アタシが正しい番の座を奪いに来たんっすよ。アタシの擬態は完璧だから、あのツンデレ緑トカゲとは格が違うっす!」
ガルダはキアラちゃんを無視して、俺の腕に「むぎゅっ」と自慢の爆乳を押し付けてくる。見た目は完璧に俺好みのドストライクなギャル。中身がトカゲだと分かっていても、理性が一瞬グラリと揺れそうになる。
「ちょっと、あなた誰ですか!? マモルさんにベタベタ触らないでください!」
キアラちゃんがガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、ガルダを睨みつける。
「アタシはマモルの本命、ガルダっす。そっちのツルツルした人間メスこそ、アタシの王をたぶらかすのやめてもらえる?」
「王……!? マモルさん、この人やっぱり頭がおかしいです! 昨日の人といい、あなたの幼馴染はどうして揃いも揃って……!」
キアラちゃんの不信感がマックスに達しようとした、その時だった。
俺たちのテーブルの上を、一匹の大きなハエが「プーーン」と不快な音を立てて横切った。
「あっ」とキアラちゃんが顔をしかめる。
次の瞬間、ガルダの野生の肉食本能が、完璧だったはずの擬態の壁を突き破った。
彼女は人間の超絶美少女姿のまま、首をグインと人間にはあり得ない角度に曲げ、目にも留らぬ超高速で「パクッ!」と口でハエをキャッチし、そのままゴクンと飲み込んだ。
喉が「きゅっ」と鳴る。
そして、何事もなかったかのように、可愛いギャルの顔で、口元をぺろりと不敵に舐めたのだ。
静寂。
カフェのテラス席が、一瞬で墓場のような静けさに包まれた。
「……あ、今のナシ。アタシとしたことが、つい癖で食っちゃったっす。テヘッ☆」
ガルダが照れくさそうに頭をかく。
「ギャァァァアアア! !食った! 爆乳美少女がハエを素手ならぬ素口でキャッチしてダイレクト捕食したァァァアア!」
俺のときめきは、一瞬でホラー映画の絶叫へと叩き落とされた。
「……ひ、ひぃっ……! い、今、あの人……ハエを……スナップをきかせて口で……」
キアラちゃんは完全に腰を抜かし、ガタガタと震えながらガルダを指さしている。
「マモルさん……あの人、見た目は人間ですけど、中身は完全に『野蛮で凶暴な大トカゲ』そのものです……! 警察を、今すぐ警察を呼んでください……っ!」
「ち、違うんだキアラちゃん! コイツはただの、ちょっと虫のプロフェッショナルというか、世界のサバイバル大会の覇者というか……!」
見た目は最高、中身はガチのハエ取りトカゲ。トカゲたちの恐ろしすぎる野生の捕食本能。
俺の3時間の命をかけた隠密ラブコメは、警察沙汰の一歩手前という、前代未聞のパニックを迎えるのだった。
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