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第32話 引きずられていく次期隊長候補と、昼下がりのブラック残業取引

あの地獄のトカゲ村深夜泥縄置物レースから、無事に人間の村へと帰還した俺(人間姿)。

拉致されてから丸一日が経過した今日の午前中、俺はキアラちゃんに「マモルさん、私のベッドで休んでください!」と健気にお持ち帰り看病されようとしていたのだが――俺の目の前には、現在、あまりにもシュールな現実の破壊の爪痕が広がっていた。


キアラちゃんの私室の2階の壁は、昨日の昼下がりにトカゲ美少女たちが窓枠ごとロケット大脱出したせいで、ポッカリと巨大な大穴が空いて外の風がビュービューと虚しく吹き込んでいたのだ。


(こんな壁が粉砕されて青空が丸見えの部屋で看病されたら、お色気イベントの前にガチで風邪をひいて肉体が即死するわバカヤローッ!!)


俺が心の中で白目を剥いていると、そこへ、ババババン!!と玄関のドアが激しく叩かれ、村の防衛隊の兵士たちが血相を変えて突入してきた。


「キアラ分隊長!! 一昨日の拉致事件の報告もせず、昨夜は単独で危険な森へ規律違反の潜入をし、おまけに自宅の2階の壁を魔法でブチ破って大騒ぎにするとは何事ですか!! 次期隊長候補筆頭のあなたがこんな大不祥事を起こすなど、隊長が頭の毛がハゲるほど激怒しています! 今すぐ詰所へ連行します!!」


「離しなさい! 私はマモルさんの看病をしなきゃいけないのよ! 2階の壁は泥棒猫(メスの化け物)どもの大魔法のせいで――ああっ! マモルさんごめんなさい、次期隊長候補のプライドに賭けてすぐに事後処理をつけて戻ってきますから! また今夜! 今夜絶対に私の部屋(※壁なし)で会いましょうーーーッ!!」


将来の出世に関わるレベルで隊長にガチギレされた次期隊長候補のキアラちゃんは、両脇を兵士たちにガッチリ掴まれ、ズルズルと引きずられて無残に連行されていった。


(笑顔で『また夜に会いましょう』とか破廉恥なホラーセリフを叫びながら連行されてんじゃねぇよチョロイン分隊長!! でも助かった、これで今日の朝イチの3時間擬態タイマーの残り時間を、命がけの看病デスゲームで消費せずに済んだぜ……!)



連行劇のおかげで命がけの看病を一時的に回避できた俺の朝イチの擬態時間は、気づけば【あと30分】に迫っていた。

(よし、この30分が切れる前に、大人しく集落の自室に帰って大トカゲ(完全定時退社モード)に戻るか……)と市場をぶらぶら歩いていると、人間の村で大流行している高級カフェの前の行列に、見覚えのある人間姿の美少女4人(ガルダ、ゼフィラ、デメト、ネレイダ)を発見してしまい、俺は盛大に顎が外れそうになった。


なんと、彼女たちの変身残り時間も、俺と全く同じく【あと30分】だったのだ。

まだウロコこそ肌の奥に引っ込んでいて露出していないものの、残り30分の焦りと術式のバッテリー低下のせいで、ツインテール美少女のゼフィラの髪の毛の先っちょが、第3話の時みたいにカメレオンの擬態の如く背景のカフェのレンガ壁の模様に『透けて完全に同化』しちまっていた。


実は、昨日自分たちのせいで母親の人生の宝物(限定スイーツ)をお詫びとしてキアラちゃんに消費させてしまったため、実の母親から『今日中に全く同じ限定お菓子を並んで買って弁償してこないと、本当にウロコを全部剥ぎ取るからね(ガチの家庭内制裁)』とブチ切れられた彼女たち。

「一番乗りすれば確実に買えるわ!」と完璧に見切り発車をし、あろうことかカフェのオープンが【3時間半後】だという時間に、【2時間半前】から列の先頭に陣取り、ただじっと待っているだけの無駄な時間で擬態魔力を大激消費させるという、とんでもない計画性のなさを発揮していたのだ。


「終わったっす……! 店のオープンが【あと1時間後】なのに、2時間半も突っ立ってたせいでアタシたちの変身時間は【あと30分】しかないっす……! 店が開く前に街のど真ん中でトカゲに戻ってお母様にリアルに焼きトカゲにされるっす……(血涙)」

ガルダが涙目でベソをかき、髪をレンガ模様にバグらせたゼフィラが必死に周囲をキョロキョロと見回している。


「お前らバカかァァァ!!! 1時間後にしか店が開かないのに残り30分で並んでどうするんだ! 今日は諦めて今すぐ人間の村から出て森へ定時退社しろ!!」

俺が頭を抱えて必死に説得している、まさにその時だった。


お買い物帰りの銀髪の超絶美少女――擬態時間がまだ数時間以上もたっぷりとバグレベルに余っているエルシエラ(光の聖女)が、優雅にぶらぶらと通りかかった。


「聖女様ァァァ!!! お願いだからまたアタシたちに1時間残業代チャージ(口移し)をしてほしいっす!! じゃないとお買い物禁止(リアル爪研ぎの刑)になるっす!!」

4頭が涙目でエルシエラのスカートにしがみつき、必死におねだりを始める。


それを見たヤンデレ聖女エルシエラは、ルビーの瞳を妖しく輝かせ、(ふふ……これは絶好のチャンスですね♡)と邪悪な笑みを浮かべた。整理すると、群衆のなかにいた俺(人間姿)の姿を見つめると、優雅なステップで歩み寄り、俺の顎をクイッと上目遣いで持ち上げてきたのだ。


「ふふ……マモル様。わたくしがコイツらに魔力を切り分けて助けてあげてもよろしいですが……。その代わり、マモル様。交換条件として、あなたにはわたくしからの『特別なお願い(残業)』を一つ、絶対に聞いていただきますよ……?♡」


(4頭の計画性のない自滅を人質に取って、俺に逃げ場のないブラックな約束を持ちかけるんじゃねぇよバカヤローッ!!!)


遠くの防衛隊の詰所から、「マモルさーーーん!!(事情聴取中)」という、次期隊長候補のキアラちゃんの不穏なヤンデレ覇気(幻聴)を背中にビンビンに浴びながら。

エルシエラが一体何を要求してくるのかという恐怖、そして街のど真ん中でトカゲどもが時間切れを起こす大惨事を防ぐため、俺は人間の村のど真ん中で、新たなる【極限のブラック契約回避隠密ミッション】のゴングを頭の中で鳴らすのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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よろしくお願いいたします!

(次回更新:本日12時20分!)

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