第31話 暁の擬態大復活と、泥棒猫の敗走
地平線の彼方から、澄み渡る朝のまばゆい【朝の太陽】の光が、リザードマンの大集落を優しく照らし出した。
夜が、明けたのだ。
――カチリ。日付が変更されました。これより本日分の『1回目』のカメレオン擬態魔法の発動が可能となります。
(朝が……朝がキターーーーッ!!! ついに今日の分の変身タイマー枠がリセット大復活したァァァ!!!)
長老の椅子の裏で『真っ黒な大トカゲ(リザードマン姿)』のままカチコチに固まっていた俺は、脳内で涙を流して大感動した。
だが、すぐ真横では、一晩中おやつを食べながら起きていたせいでフルコンディション(戦闘モード)のキアラちゃんが、杖に最大出力の地魔法の魔力をバチッバチッと纏わせ、血走った目で周囲を警戒している。この目の前でいきなり人間に戻ったら『番犬トカゲがマモル姿に変身した=正体バレ』で一撃で人生が即死(終了)する。
キアラちゃんが一瞬でも目を離す隙を作らなきゃ――と俺が冷や汗を流した、その瞬間だった。一晩中ピキピキに固まって寒さに耐えていたガルダ(火・ガチトカゲ姿)のウロコが、限界を迎えて激しく震えた。
「フ、フシュゥゥゥゥ――ッ、クシスンッ!!!」
ドガァァァン!!!と、ガルダがガチトカゲ姿のまま、特大の火の粉混じりの爆発クシャミを広場の地面に向けてブッ放した。
「はっ!? そっちの番犬トカゲ(ガルダ)が急に火を吹いて暴れだしたわね!?」
キアラちゃんが驚いてガバッ!!とガルダの方を向いた、そのコンマ数秒の隙を突き、俺はトカゲ筋力を全開にして、長老の椅子の裏から広場のすぐ横にある茂みの中へと、音速のサイドローリング(横回転)でダイブした。
ザザザザァーッ!!!
茂みへと転がり込んだ俺の気配に、キアラちゃんが「あら? いま不穏な地響きが――」と振り返りかける。
(ヤバい! 戻ってくる! 擬態魔法を発動して服を整えるまでにあと数十秒はかかる、誰かキアラちゃんの目を逸らしてくれェェェ!!)
俺の魂の悲鳴を察したのか、ゼフィラ(風)、デメト(土)、ネレイダ(水)、そして白竜姿のエルシエラの4頭(全員ガチトカゲ姿)の脳内に、共通の野生の本能(恐怖)が走った。
((((ヤバいっす(わ)!! ここでマモルの正体がキアラにバレて大騒ぎになったら、アタシたちの人間の服やお菓子の1ヶ月全面没収(お母様方の地獄の追加オシオキ)が確定するっす(わ)!!!))))
長老の説教とお母様方のリアル爪研ぎの刑を恐れるトカゲ美少女たちは、ここで奇跡の暗黒の団結力を発揮した。
ゼフィラが「フシュゥゥゥン!!(※アタシのこのプロペラ尻尾ダンスの風圧で、キアラの視線を完全に釘付けにしてあげるわよ!!)」と太い尻尾を猛スピードで振り回し、風の小爆発を起こす。
「フシュゥゥゥ……フシュゥゥゥ……(※ア、アタシも手伝うわぁ〜。土を掘り返して、可愛い泥のお城を作ってあげるわねぇ〜)」
デメトが短い手足でザッザッザッと超高速で広場の地面を犬のように掘り返し、砂煙をド派手に巻き上げて物理的に目隠しを作る。
さらにネレイダが瞬膜をパチパチさせながら「フシュゥゥゥ〜(※アタシのウロコの激しいボディビルポーズ(求愛)も見るがいいですよ〜)」と、巨大な青いウロコの体をくねらせて奇妙なステップを踏み、その真ん中で白竜姿のエルシエラが神聖な咆哮をあげて翼を広げた。
キアラちゃんは杖を構えたまま、目の前でガチトカゲ4頭と白竜1頭が砂煙のなかで激しく尻尾を振り回し、奇妙なダンスを踊り狂っている地獄絵図を見て、ボロボロと感動の涙を流した。
「……な、なんて健気で可哀想なトカゲの化け物たちなの……っ! あの極悪非道な泥棒猫どもの呪い(トカゲ化魔法)に抗うために、みんなで必死に手足をバタバタさせて、私に『泥棒猫はあっち(森の奥)に逃げたわよ!』って必死のジェスチャーで教えてくれているんだわ……ッ!!! ありがとう、あなたたちの必死の伝言、確かに受け取ったわ……っ!!」
どんな大勘違いだよ!!!
トカゲ美少女たちの「お菓子没収を回避するための必死の泥縄ダンス」は、キアラちゃんの脳内で「呪いに抗いながら誘拐犯の逃走経路を教えてくれる、優しくて健気なトカゲたちのメッセージ」へと120%完璧に格上げされ、視線は完全に守から逸らされ続けた。
そのラグビーの試合並みの時間を稼いでくれた隙に、俺は茂みの奥で体内の奥底から溢れ出る新しい魔力を一気に解放した。
シュゥゥゥゥウウウ……!
漆黒のトカゲの皮膚が一気に弾け、完璧な人間の少年の肌へと大復活していく。タイムリミットが丸々3時間残った、漆黒の髪と瞳を持つ人間姿の俺が完全大復活を遂げた。
俺は泥縄だった自分の服(※人間の服)の襟をバサッと整えると、茂みをかき分けて、何食わぬ顔で広場へとさっそうと歩き出た。
「……ふわぁぁ〜あ。よく寝たぁ……。あれ? キアラちゃん、そんな重装備で一体何をしてるの?」
「――マモル……さん……!!!?」
振り返ったキアラちゃんの目に、朝日に照らされてキラキラ輝く「本物のマモルさん」の姿が飛び込んできた。
キアラちゃんの目に一瞬にして鮮やかな光が戻り、彼女は杖を放り出すと、ずぶ濡れの俺の胸の中へと全力で飛び込んできて、子供のように声を上げて大号泣した。
「マモルさん!! 無事だったんですね!! よかった、本当によかったァァァアアア!!!」
腕の中に伝わってくる、人間の女の子の柔らかくて、本当に安心しきった温もり。
俺は役得を噛み締めながら、(助かった……! 1ミリの差で完全勝利して、俺の純潔(?)と正体もギリギリで救い出せたぜ……!)と心から大感動していた。
涙を拭って俺の胸から顔を上げたキアラちゃんは、俺の背後でホッとしてピキピキに固まっているガチトカゲ5頭を見て、本日最後の『無敵のウルトラ大勘違い超理論』を弾き出した。
「マモルさん、もう安心してください。あの極悪非道な泥棒猫(メスの化け物)ども、私が一晩中この村を包囲して兵糧攻め(※おやつタイム)にしながら、最新の杖で睨みを利かせ続けていたから……! 私の一騎当千の威圧感に本気でビビって、夜明けのドサクサに紛れてマモルさんをここに置いて、自分たちだけ泣きながら森の奥へと敗走していったんだわ……ッ!!!」
キアラちゃんのなかで、自分が一晩中もぐもぐ張り込みを続けたおかげで、誘拐犯(泥棒猫)を完全に恐怖で退散させ、マモルさんを無傷で奪還できたという完璧な大勝利ストーリーとして完結したのだ。誰も敗走してねぇよ、コイツらはただ単に『変身時間が切れて夜間ロック中だったトカゲ(身内)』だよ!!
キアラちゃんは、ガチトカゲ姿の長老たちのゴツゴツした前足を優しく握った。
「おじいさん、お母さん、安心してください。泥棒猫の本隊は私の圧倒的な武力(※ただの居座り)に恐れをなして逃げ出しました。今回はマモルさんの救出を最優先しますが、人間の村に戻ったら、必ず国一番の高名な【大魔導師様】を連れてきて、あなた方のトカゲの呪いを絶対に解きに来ますからね……っ!(涙)」
長老トカゲたちはトカゲの顔のまま「フシュゥゥゥ……(※いや、大魔導師連れてこられたら、我々のカメレオン擬態魔法の仕掛けを看破されて、全員がリザードマン集団だってことが人間の村に一発でバレちゃうんじゃが……。そんな大騒ぎになったら、楽しかった服やお菓子の健全な交易(お買い物)が全部終わるから、マジで二度と来ないでほしいんじゃが……)」と、ガチの恐怖でウロコをガタガタ震わせ、それを見たキアラちゃんが「見てくださいマモルさん、おじいさんたちが嬉しさのあまり感動で震えています……っ!」とさらに涙腺を崩壊させた。
「さあ、人間の村へ帰りましょう、マモルさん!」
キアラちゃんにギュッと手を引かれ、人間の村への大凱旋ルートへと歩き出す俺。
背後では、ガチトカゲ姿のまま固まっているガルダたち4頭(※お母様の追加オシオキ確定でガチで震えてる)と、エルシエラが静かに俺たちを見送っていた。
(大魔導師連れてきたら俺の正体がその瞬間に即死(確定バレ)するから、絶対に余計なお節介で助っ人を呼ぶんじゃねぇぇぇえええ!!!)
無事に人間の姿を取り戻したはずの俺の隠密スローライフは、キアラちゃんの限界突破したお節介な愛の包囲網と、次なる『大魔導師襲来』の恐怖の予感を背負いながら、さらに混沌とした追走劇へと引きずり込まれていくのだった。
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(次回更新:本日10時20分!)




