第29話 昼下がりの時限爆弾と、置き去りにされた銀髪の魔女
「さあさあキアラ様、特製のハニー焼き立てクロワッサンもどうぞ!」「麦茶のおかわりです!」「次はこちらの冷製カボチャスープをどうぞ!」
「う、うぅ……もうお腹がいっぱい……お腹がはち切れそうよ……。でも、私がここで食べるのをやめたら、泥棒猫たちに脅されているこの可哀想なトカゲのおじいさんたちが処刑されてしまうかもしれないわ……っ! 負けない、私がこの泥棒猫の兵糧をすべて胃袋に収めて、兵糧攻めにしてやるんだから……っ! ぐ、んぐ(限界大食い)」
大集落の広場の中央、長老たちが並べた長机で、重装備のキアラちゃんが長老たちの命がけのエンドレスおもてなし(わんこおやつ波状攻撃)のせいで、お腹パンパンになって物理的に動けなくなっている間に、無情にも時間は過ぎ去り――。
朝一番の突入劇から数時間が経過し、リザードマンの村には太陽が少し傾き始めたのどかな昼下がりの光が降り注いでいた。
デメトの親父のウロコ特注杖を鼻先に突きつけられたまま、長老の椅子の裏で『真っ黒な大トカゲ(リザードマン姿)』のままカチコチに固まっていた俺は、すぐ横の木箱の影から漂ってくる、耐えがたいほどの極限の『術式崩壊の予兆』をビンビンに察知して白目を剥いていた。
(ヤ、ヤバい……! エルシエラから口移しで無理やりブチ込まれた、あの4頭の1時間限定の残業代チャージ(上書き擬態)、まさに今この瞬間にタイムリミットを迎えやがったぞ……!)
――ピピッ。上書き分の制限時間、残りゼロ。魔力が完全に空になりました。システムルールに基づき、本来の姿へと強制定時退社(送還)を行います。
物陰のなかで、無慈悲な世界のシステムアラームが4頭同時に鳴り響いた、その直後だった。
ザザザザザザザザザッ!!!
「ひ、ひぃぃぃっす! もう限界っす、ウロコが抑えきれないっすーーーッ!」
「コンパクトに隠れ続けるなんて、アタシたちの体格じゃ絶対に無理よぉぉぉおお!!」
ドガァァァァァァン!!!
凄まじい大爆発の音と共に、広場に積まれていた交易用の頑丈な木箱の山(資材置き場)が、内側から膨れ上がった野生の筋肉と暴力的な質量によって、粉々に粉砕されて四方八方へと吹き飛んだ。
「な、何事よっ!? うぷっ、お腹が重くて急に動けない……!」と、お腹パンパンのキアラちゃんが最新の杖を構えてガバッと物陰を振り返った瞬間、彼女のルビーの瞳が、驚きで最高に丸く点になった。
砂煙が晴れた広場の物陰からドカンと姿を現したのは、昨日マモルさんを強奪拉致していった『一騎当千のガチ巨大トカゲ4頭(ガルダ、ゼフィラ、デメト、ネレイダ)』。そして、目の前でお上品に麦茶を配ってくれていたはずのお年寄りたちは、全員が体長2メートル超えの渋い灰色のウロコを持つ『ガチの老竜(シニアトカゲ姿)』へと一斉に変貌を遂げていた。
広場が一瞬にして、野生の筋肉と凶悪なウロコがひしめき合う『ガチ巨大トカゲの群れ(ジュラシック・シニアパーク)』と化してしまったのだ。
そして、その恐ろしい巨大トカゲたちの隙間で、【まだ数時間以上のタイマーがたっぷり残っているため、1人だけ何食わぬ顔で優雅に佇んでいる人間姿の銀髪美少女】という、あまりにも温度差が激しすぎるシュールな絵面がそこに完成していた。
俺(大トカゲ姿)を含めた、広場を埋め尽くすリアル巨大爬虫類の群れのなかに、ポツンと取り残された人間姿のエルシエラ。
昨夜からココがトカゲの集落であるとバッチリ自覚しているキアラちゃんの限界突破した大勘違い脳細胞は、この一斉トカゲ戻りの光景を見て、涙を流しながらさらに最悪な『擬態解除の嫌がらせ呪い魔法超理論』を弾き出した。
「……な、なんてこと……! 木箱の陰から凶悪な化け物トカゲたちが出てきただけじゃなくて……私に麦茶をくれていた、あの優しいおじいさんやおばあさんたちの『人間の姿(擬態)』の魔力を無理やり剥ぎ取って、あのおぞましい元のトカゲの化け物の姿へと退化させちゃう邪教の呪い魔法をブッ放したんだわ……ッ!!! この大量の極上スイーツで私を動けなくなるまで満腹にさせて『胃袋を暗殺』した挙句、村中を大パニックに陥れて、この銀髪の女1人をここに置き去りにして、自分たち自身はマモルさんを連れて別の安全な隠れ家へと逃げたんだわ……ッ!!! 仲間さえも見捨てるなんて、なんて冷酷で計算高い魔女たちなの……っ!!」
(違うんだキアラちゃん!!! 泥棒猫が村を脅迫して胃袋を暗殺したんじゃなくて、長老たちが大切なお得意様(人間)を怒らせまいと、交易を守るために必死にエンドレスわんこおやつ接待をしてただけなんだよ!! あとエルシエラだけ擬態時間のストックがバグレベルに残りまくってるから人間に化けたまま取り残されて、他の全員は昼下がりのこの瞬間に綺麗に一斉にバッテリー切れ(時間切れ)になって元のリアルなトカゲ姿に戻って服や木箱を壊しちゃっただけなんだよ!!!)
だが、キアラちゃんのブレないトカゲへの偏見のおかげで、エルシエラ以外の4頭の人間姿があのキアラの部屋を襲った泥棒猫の正体(時間切れのトカゲ)だという最悪の真実は、またしても1ミリもバレずに完璧にセーフとなった。
「仲間にも見捨てられた可哀想な泥棒猫の残党に、マモルさんの名前を騙る看守トカゲ(俺)、一騎当千の番犬ども……!」
キアラちゃんはお腹をさすりながら最新の杖(※デメトの親父のウロコ製)をシャキーンと構え直し、昼下がりの大集落の真ん中で、俺たち6頭(5トカゲ+1美少女)を包囲するように据わった目で宣言した。
「お腹がいっぱいで今は追撃できないわ……。こうなったら、このお腹の満腹感が治るまで、私にこんな仕打ち(※ただのおもてなし)をした泥棒猫の本隊がマモルさんを連れてここへ戻ってくるまで、今日の夜を越えて、明日の夜明けまで、私はこの最新の杖を構えたまま、この置き去りにされた銀髪の魔女と5頭の化け物トカゲたちの真横でガチの徹夜の張り込みを開始します!! 誰もここから一歩も動くんじゃないわよ!!」
(キアラちゃん、お腹パンパンのまま目が完全に据わったまま『明日の夜明けまで一晩中ここで張り込みする』って言ったか!? これ、明日の夜明けに俺たちの変身タイマーが日付変更でリセットされて人間に戻れるようになるまで、俺たち、このガチのリアルトカゲ姿のまま、キアラちゃんの真横で昼下がりから丸一日、一晩中ピキピキに固まって徹夜ステルスサスペンスに耐えなきゃいけないってことじゃねぇかァァァアア!!!)
のどかな昼下がりの午後の太陽から、やがて過酷な深夜の静寂へ。
本日の擬態ストックを全て使い切り、明日の朝まで完全にただのトカゲに戻ってしまった俺たちの隠密スローライフは、キアラちゃんの方向音痴と胃袋暗殺説が生み出した『昼下がりから始まる、地獄の丸一日ガチ張り込み徹夜デスゲーム』という、過去最大の極限の耐久サバイバルへと引きずり込まれていくのだった。
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(次回更新:本日22時20分!)




