第26話 ホワイト村の尋問会と、絶望のお詫びおかわり
「泥棒猫ども!! マモルさんを返しなさ――って、ええええええええ!?」
大集落の入り口の防壁トビラを豪快に蹴り開け、ゼフィラの親父のウロコ胸当てをジャラジャラと鳴らした重装備のキアラちゃんが、突入した瞬間にその場にピキピキとフリーズした。
彼女の前に広がっていたのは、凶悪な誘拐犯のアジトなどではなく、「ようこそ、人間の皆様♡」という手作りの可愛い横断幕と、人間姿のおじいさんトカゲたちが手拍子をしながら『冷たい麦茶』や『焼き立ての美味しいパン』を山盛りに用意して合唱している、超アットホームなホワイト歓迎会(村おこし)だったからだ。
重度の方向音痴であるキアラちゃんは、「泥棒猫のアジト(森の奥)」へ進軍したつもりが、完全に勘違いして、昨夜お詫びのウロコを貰ったばかりの『トカゲの大集落』へと自ら殴り込みに戻ってきてしまっていた。
すかさず、人間姿のインテリ村長や長老トカゲたちが、大切なお得意様(人間)をこれ以上怒らせては交易が途絶えると、ペコペコとこれ以上ないほど低姿勢に頭を下げて麦茶を差し出した。
「これはこれは、防衛隊のキアラ様。もしや……昨夜ウチの若い娘たちがしでかした『マモル様の強奪拉致の件』で、何かまだ至らない不手際でもありましたかな……? お詫びのウロコの枚数が足りませんでしたかな……?」
「……えっ? い、いま、拉致って言ったわよね……?(ピキピキ)」
キアラちゃんの目が完全に据わる。
広場の物陰(長老の大きなローブの陰)では、日付変更の擬態ストックを全て使い切って『真っ黒な大トカゲ(リザードマン姿)』に強制送還された俺の後ろの木箱の陰で、人間姿のゼフィラ(風)やガルダ(火)たちが、涙目で頭を抱えてガタガタと震えていた。
「長老のバカーーーッ!! 何をキアラの目の前でアタシたちの昨夜の夜這いをスマートに暴露(お墨付き)してんのよォォォ!!」
「終わったっす……これでアタシたちの人間の可愛い服やお菓子は全面没収、1ヶ月外出禁止が完全確定っす……(血涙)」
(そっちの心配かよ!! 服とお菓子お預けの恐怖でトカゲ美少女どもの顔面(美少女面)がガチの絶望のホラー映画になってんじゃねぇかバカヤローーッ!!)
俺が内心で白目を剥いていると、さらに最悪な大ポカが広場に炸裂した。
ペコペコ頭を下げていた長老トカゲが、自分のローブの陰に隠れている俺(黒トカゲ姿)の様子を素で心配してしまい、キアラちゃんの目の前でうっかり声をかけてしまったのだ。
「これこれ、マモル様、そんな狭い物陰に縮こまっておられては、お得意様に対して失礼ではございませぬか……?」
「――おじいさん。今、その真っ黒な化け物トカゲのことを、なんて呼んだの?」
ギクッ!!!と、俺を含めたトカゲ全員のウロコが恐怖で一斉に逆立った。
ゆっくりと顔を上げたキアラちゃんは、大粒の涙をボロボロと流しながら、デメトの親父のウロコ杖を白くなるほど強く握りしめた。彼女の限界突破した大勘違い脳細胞が、1秒で過去最悪の『泥棒猫脅迫サバト超理論』を弾き出したのだ。
「……なるほど……! あの不法侵入してきた破廉恥な5人の泥棒猫(メスの化け物)ども……! 昨日マモルさんを拉致しただけじゃなくて、あろうことか、この平和で優しいおじいさんトカゲたちの『優しさと指先の不器用さ』に最悪な形でつけ込み、村を武力で脅迫して人質にしていたんだわ……っ!!」
キアラちゃんの凄まじい怒りの覇気(大勘違い)が広場を圧倒する。
「『マモルさんを拉致してこないと村を滅ぼすぞ!』って泥棒猫たちに脅されたからこそ、昨夜、一騎当千のトカゲの戦士たちは涙をのんで本来の姿で暴走し、マモルさんを拉致せざるを得なかったのね……っ! おじいさんたちが昨日ウロコ(菓子折り)を無償でくれたのも、脅されていたとはいえ人間の村に迷惑をかけたことを本気で申し訳なく思っていたからだったんだわ……! おまけにあの女ども、私が愛する純潔なマモルさんへの当てつけのために、この集落の『漆黒の化け物トカゲ』に、わざわざ【マモル様】という名前を襲名させて、この村のトカゲたちに『マモル様、マモル様』と崇め奉らせるという、最悪に狂った精神的拷問を開いていたのね……っ!!」
(違うんだキアラちゃん!!! あいつらは誰にも脅されてねぇ!! 俺へのガチ恋の執念だけで、自分たちの本能のまま楽しそうに俺を神輿みたいに担いで拉致した加害者トカゲなんだよ!! あと泥棒猫に村が武力脅迫されてる設定になってるけど、その泥棒猫の正体がまさに今、木箱の陰でガタガタ震えてるアイツら(人間姿の美少女4人)なんだよーッ!!!)
「おじいさん、もう怯えなくていいわ! 私がその泥棒猫たちの監禁所を暴いてみせます!」
キアラちゃんは長老の手を握って優しく慰めると、最新の杖を、長老のローブの陰からフシュゥゥゥと冷や汗を流して固まっている俺(大トカゲ姿)の鼻先に『ガッ!』と突きつけて睨みつけた。
「出たわね、泥棒猫どもの片棒を無理やり担がされている、マモルさんの名前を騙るおぞましい看守トカゲ!! さあ、本物のマモルさんをどこへ隠したか、私の地魔法で消し炭にされる前に吐きなさい!!」
(近い近い近い!!! 看守じゃなくて俺自身がその本物のマモルなんだってば!! 確かに看守(王)だけど、俺自身が夜這い目的で拉致された被害者のマモルさんなんだよ!! っていうか目の前に本物がいるのに1ミリも気づかないんかい!!! だったら昨夜、俺の人間姿をめぐってトカゲどもと夜通し泥縄で逃げ回ったあの命がけの隠密サバイバルは一体何だったんだよバカヤローッ!!!)
日付変更の擬態ストックを全て使い切り、明日の朝までただの真っ黒な大トカゲに戻ってしまった俺の隠密スローライフは、キアラちゃんの方向音痴と名前のうっかりが生み出した『偽マモル様尋問大戦』の戦火の中で、もはや誰にも止められないデスゲームへと突入していくのだった。
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(次回更新:本日19時20分!)




