第24話 重装備のキアラと、森の不気味な巨大キノコ
ガサリッ!!!と激しく目の前の茂みが揺れ動き、防衛隊の若きエリート、キアラちゃんが姿を現した。
その姿を見た瞬間、泥のキノコの中に顔だけをハメ込まれている俺の心臓は、恐怖で爆発するかと思った。
一晩中トカゲ村の地獄環境をサバイバルして目が完全にギラギラと据わっているキアラちゃんは、明らかに昨日までの可愛いお祭り浴衣衣装とは違う、物々しいガチの『最新重装備』に身を包んでいた。
ジャラジャラと独特な光沢を持つ胸当てを鳴らし、先端に巨大な魔石が埋め込まれた最新の杖をガッと構えている。
その至近距離まで近づいてきたキアラちゃんの防具と杖を、俺の【黒の王】としての鑑識眼が捉えた瞬間、俺の脳内で特大のツッコミが炸裂した。
(……待てキアラちゃん。お前、第5話でデメトの土魔法にボロ負けしたのがよっぽど悔しかったのか、人間の職人に大金はたいて『対トカゲ用最新特注重装備』をドヤ顔で新調してきてるけど……その胸当てのウロコ、今俺の右側の草むらに頭だけ突っ込んで『アタシの姿は見えてないはずよ!』ってケツ丸出しで固まってるゼフィラの親父(風の戦士長)の脱皮ウロコじゃねぇか!
おまけにその杖のウロコにいたっては、左側の太い大木の裏に隠れきれずに巨体をハミ出させてるデメトの親父(土の戦士長)のウロコだろォォォオオ!!!)
人間側にとっては「最新技術を駆使した最高峰のお守り装備」なのだが、職人にウロコ(素材)を売った当のトカゲたちの娘が、今まさに守のすぐ横でピキピキに固まってキアラちゃんから必死に隠れているという、あまりにもバカバカしすぎる地獄の等価交換。
皮肉にもキアラちゃんがこの過酷な森を無傷で猛進できているのは、大嫌いなトカゲの親父たちのウロコの防御力のおかげだった。
キアラちゃんは俺たちが固まっている泥のキノコの前に立ち止まり、じっと検分を始めた。
「……おかしいわね。マモルさんの匂いがこのあたりからプンプンするのに、誰もいない……。あるのは、この、見るからに不気味で毒々しい、葉っぱを被った巨大な茶色いキノコだけ……」
キアラちゃんがじりじりと顔を近づけてくる。泥の隙間から俺の人間姿の鼻先が見えそうなほどのゼロ距離。
(近い近い近い!! 息を止めてるけど冷や汗で泥が溶けて、今日1回目の擬態魔法の制限時間(残り15分)のウロコが浮き出てきたらその瞬間に即死(終了)だわァァァ!!)
生きた心地がしていない俺の前で、キアラちゃんはキノコを睨みつけ、ゾッとしたように一歩下がった。
「……うわぁ、思い出したわ。防衛隊の博物誌に書いてあった、危険なリザードマンの森に自生する伝説の魔導キノコ『マモルダケ』だわ……! 周囲の可愛い人間の男の残り香を吸い取って擬態し、旅人を惑わすという最悪の毒キノコ……。あの泥棒猫(メスの化け物)ども、マモルさんの匂いをこの不気味なキノコに擦り付けて、私を欺くデコイ(身代わり)にしたんだわ……っ!」
気づかないんかい!!!
虫嫌いに続いて「キノコ嫌い」の強すぎる偏見が働いてくれたおかげで、キアラちゃんは泥キノコに埋まった俺を、マモルさんの匂いを吸い取った新種の毒キノコ『マモルダケ』だと完璧に大勘違いしてスルーしてくれた。助かった。助かったがマモルダケってなんだよ、どんな最悪なご当地ネーミングだよバカヤローッ!!
――制限時間、残り10分。
「泥棒猫たちのアジトはもっと奥よ! 待っていなさいマモルさん!」とキアラちゃんが進軍を再開しようとした、その時だった。
キアラちゃんの死角となる大木の影から、まだ擬態時間がたっぷり残っている銀髪のチート聖女、エルシエラ(人間姿)が優雅にぬっと現れた。
エルシエラはキアラちゃんに背中を向けたまま、泥キノコに埋まっている俺の「唇」の前に、自分の妖艶な唇をスゥッと近づけてきた。
「マモル様、時間がありません。わたくしの魔力を上書きチャージするには、絶対に『口づけ(接吻)』が必要なのです。さあ、このキアラ様の真後ろで、わたくしと熱い接吻を交わしてあと1時間残業いたしましょう……♡」
(キアラちゃんの真後ろで、泥キノコのフリしながら銀髪美女と無理やりディープキスできるわけねぇだろ!!! どんな高度なアクティブ・ステルス・サバト(邪教のキノコ栽培)だよバカヤローーッ!!!)
俺が泥の中で必死に口を真一文字に結んで大拒絶していると、その微かな気配にキアラちゃんがハッと振り返った。
「今、キノコの後ろで泥棒猫の気配がしたわ! 逃がさない、マモルさんを返しなさい!」
キアラちゃんは最新の杖(※デメトの親父のウロコ製)をガッと構えると、キノコ(俺)のすぐ横をすり抜けて、奥の森――俺たちのガチの本拠地である『リザードマンの大集落』の方向へと怒涛の進軍を開始した。
(危ねぇぇぇ!!! キスは回避できたけど、キアラちゃんが最新重装備で攻め込む先は俺たちのガチの村(大集落)だから、そっちに行ったら本当に俺の正体(黒の王)とコイツらとの関係が今度こそ大爆発するんだって!!! 誰か、誰かあの重装備のチョロインを止めてくれェェェエエエ!!!)
泥の中から、俺が滝のような冷や汗を流して白目を剥くなかで、人間の姿に戻れないクールタイム(残りの命10分)を抱えたまま、物語の舞台はいよいよ、キアラちゃんが重装備で強襲しにくる『リザードマン大集落・絶対防衛戦』へと引きずり込まれていくのだった。
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(次回更新:本日17時20分!)




