第23話 森の中の不器用な作戦会議と、残業代の追撃
「全員、マモルを担いで即座に撤退よ! 急ぎなさい!」
ゼフィラのツインテールを振り乱した号令と共に、俺たちはキアラちゃんの部屋の窓枠ごと2階の壁を力ずくでブチ破り、ロケットの如き勢いで人間の村の外へと強制射出された。
そのまま、人間の兵士すら近づかない危険なトカゲの生息地――リザードマンの大集落の周辺にある、薄暗い森の茂みへとド派手に着地する。
「ぶはっ……! なんとか五体満足だけど……クソっ、やっぱり前世の高校3年間も含めて、俺が18年間毎日夜空を見上げて願っていた人生初の『ファーストキス』が、宙づりの車裂きの刑の状態で、中身がガチの白竜の女に力ずくで強奪された事実は変わらねぇじゃねぇかァァァ!!! 返せよ! 俺のピュアな青春を返せよバカヤローッ!!」
俺が一人で地面を叩いて悲恋のヒロインのように血涙を流している横で、ガルダ(火)やゼフィラ(風)たちは、人間の服やお菓子を没収(外出禁止)される長老たちの恐怖のペナルティにビビり散らかし、必死の顔で次の隠れ場所を話し合っていた。
「いい、みんな。あの人間のメス(キアラ)が『泥棒猫のアジト(この森)をシラミ潰しにする!』って叫んで、すぐ後ろから凄まじいスピードで猛追してきてるわ。ここでまた鉢合わせして大騒ぎになったら、アタシたちの買い出し(擬態生活)が本当に全面禁止になっちゃう!」
「それは絶対に嫌っす! アタシ、人間の街のサクサクのパンがまだ食べたいっす! マモル、変身時間が切れるまで、大集落のマモルの部屋に避難するっす!」
ガルダの言う通り、俺だって本当は今すぐ自分の部屋に逃げ帰って、鍵を閉めて引きこもりたい。だが、俺の冷静な隠密脳細胞が、最悪の未来を予知して警報を鳴らす。
(戻れねぇ……! キアラちゃんがすぐ後ろまで迫ってるこの状況で大集落に逃げ帰ったら、俺たちが逃げ込む背中をキアラちゃんにバッチリ見られて、リザードマンの集落そのものが『泥棒猫のガチのアジト』として100%特定されちまう! そんなことになったら俺の正体がその瞬間に芋づる式に即死(確定バレ)するだろォォォオオ!!)
最強の『黒の王』の力を持っているからこそ、不用意に動いて正体がバレるわけにはいかない。大集落への退路すら断たれ、俺が森の真ん中でパニックになっていると、銀髪の超絶美少女――エルシエラが、お淑やかに優雅なステップで歩み寄ってきた。
「マモル様、時間が少なくなってきましたね。わたくしの擬態時間は1日1回12時間ですので、昼間に3時間使い、先ほどあなたに1時間お分けしたところで、まだ残り『8時間以上』もお釣りがたっぷり残っているのですよ♡」
エルシエラがルビーの瞳を潤ませ、俺の顎を再びクイッと上目遣いで持ち上げてくる。
「さあ、『おかわりの口づけ(魔力の上書きチャージ)』を交わしましょう。そうすれば、人間の姿のままわたくしの光の神域へ今すぐエスケープできますよ……♡」
(おかわりのファーストキスを要求するんじゃねぇ!! お前が擬態時間10時間以上残ってるチートなのは分かったけど、これ以上キスをしたら、キアラちゃんに次に見つかった時、邪教のサバトじゃなくて『ガチの愛の浮気現行犯』として人生が文字通り物理的に塵にされるわァァァ!!!)
「マモルさん!! 今、今助けに行きますからねーーーッ!!」
無慈悲にも、森の入り口からキアラちゃんの凛とした絶叫と、リザードマンの脱皮ウロコ粉末が編み込まれた防具の擦れる音が、すぐ目と鼻の先まで近づいてきた。
焦るトカゲ美少女たち。デメト(土)がおっとりと微笑んだ。
「あらぁ〜、大変ねぇ〜。大丈夫よぉ、アタシの土魔法で、マモルくんをこの森の自然と素敵にカモフラージュしてあげるわねぇ〜」
デメトが地面をトントンと叩いた瞬間、泥魔法によって、俺の身体が一瞬にして『森の中にポツンと生えている、ただの巨大な一本の茶色いキノコ(泥の彫刻)』の形の中にガチガチに固められ、ゼフィラによって頭の上に大きな緑の葉っぱをフワッと被せられた。
(またこの雑な泥縄カモフラージュトリックかよ!!! しかもなんで今回は巨大キノコなんだよ!! ただの『葉っぱを被せられた泥キノコ』ってどんなお留守番隠密作戦だよバカヤローッ!!! 泥が耳の穴に入ってまた体温が下がるわァァァアア!!!)
キノコの泥の中に顔(人間面)だけをハメ込まれ、身動きが1ミリも取れなくなった俺の目の前の茂みが――ガサリッ!!!と激しく揺れ動いた。
「見つけたわ、泥棒猫どものアジトの入り口……っ!」
ウロコ防具をフル装備し、目をギラギラと輝かせた重装備のキアラちゃんが、目の前の茂みから杖を構えてぬっと顔を出した。
(ひえっ……キアラちゃんが目の前にキターーーーッ!!! 頼むから目の前にあるこの奇妙な巨大キノコ(俺)をスルーしてくれ、じゃないと俺の人生がガチで即死するゥゥゥウウウバカヤローーッ!!!)
キノコの泥の中から、俺が冷や汗を滝のように流して白目を剥くなかで、人間の村の外(森)を舞台にした、過去最もキレ狂った『第3の限界カモフラージュ隠密大戦』のゴングが容赦なく鳴り響くのだった。
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(次回更新:本日15時20分!)




