第18話 至福の看病デートと、無慈悲なカウントダウン
リザードマンの親父たちから「菓子折り」として大量の脱皮ウロコを無償で貰い受けるという、超ホワイトな菓子折り営業接待(人間側からは凄惨な拷問へのお詫びにしか見えていない)を経て、俺たちは命からがら人間の村へと帰還した。
東の地平線から昇った朝日の光を浴びて、日付変更によるシステムリセットのおかげで『今日最初の1回目の変身(3時間タイマー)』を発動した俺は、完璧な人間の青年の姿のまま、防衛隊の詰所……ではなく、なぜかキアラちゃんの私室のベッドの上に寝かされていた。
一晩中、トカゲ村の過酷な環境を泥縄でサバイバルし続けたせいで、俺の身体は疲労困憊で足がガクガクと震えていた。それを見たキアラちゃんは、大粒の涙をボロボロと流しながら、俺の手を両手でギュッと包み込んできたのだ。
「マモルさん、あの化け物どもの巣窟で、一体どれほど恐ろしい拷問を耐え抜いてきたのですか……っ! 今日はもう絶対に宿屋なんかへ帰しません! 私の部屋で、私が責任を持ってつきっきりで看病します!!」
(えっ、キアラちゃんの部屋にお持ち帰り看病!? 最高のご褒美イベントキターッ!!)
俺は内心で盛大にガッツポーズを決めた。
キアラちゃんの部屋は女の子らしいとても良い香りがして、冷たいタオルで額を優しく拭いてくれたり、すりおろした甘いリンゴを「あーん」とスプーンで口まで運んでくれたりと、まさに夢にまで見た純度100%の極上スローライフ(天国)がそこにはあった。
だが、楽しい時間というのは、無情にも秒速で過ぎ去るものである。
――ピピッ。本日1回目の擬態魔法の制限時間、残り10分。魔力が底を尽きかけています。
「(あ、やべ。ニヤニヤしながら看病(ご褒美)を受けてる間に、もうきっちり3時間が経過しようとしてやがる……! あと10分で俺、この可愛い女の子のベッドの上でガチの漆黒の大トカゲに戻っちまうぞ!!)」
唐突に脳内に響き渡った無慈悲なシステムアラームに、俺の全身の毛穴からブワッと冷や汗が噴き出した。一気に血の気が引き、俺は慌てて掛け布団を跳ね除ける。
「き、キアラちゃん! リンゴを食べたらなんだか一気に元気百倍になっちゃったから、俺、そろそろ宿屋へ帰るね!」
「ダメですマモルさん! まだ顔が真っ赤(※ただ照れているだけ)で熱があります!」
帰ろうとする俺の肩を、キアラちゃんが人間としてはトップクラスである防衛隊エリートの力強いホールドでガシッと掴み、ベッドへ優しく押し戻した。
「一晩中、トカゲの化け物どもに拉致監禁されていたんですよ!? 身体が悲鳴を上げているはずです。今日は私が、マモルさんが眠るまで、ずーっと横にいますからね!」
添い寝の体勢に入り、俺の右腕を自分の胸元にぎゅっと抱きしめて完全ロックするキアラちゃん。柔らかい温もりが腕に伝わってくるが、俺の脳内はそれどころではなかった。
タイムリミット、残り3分。
(クソっ、このままだとキアラちゃんの腕の中で大トカゲに変身しちまう! 背に腹は代えられねぇ、神様から貰った能力の裏技発動だァァァッ!!)
俺は心の中で白目を剥きながら、体内の奥底に眠る『今日2回目の変身魔力』へと意識を集中させた。
――【能力:魔力前払い前倒しシステム】を発動。2回目の変身魔力を半分『前払い(消費)』し、クールタイムを完全に相殺して連続擬態を行います。
シュゥゥゥゥウウウ……。
体内で魔力がカチリと音を立てて上書きされ、崩壊しかけていた人間の皮膚がギリギリのところで繋ぎ止められた。2回目の魔力を半分消費したペナルティとして、新しく確保された変身時間は『きっちり1時間30分』。
それでも、直撃での正体バレという最悪の即死イベントは、文字通り1ミリの差で回避することに成功したのだ。
(よし……! これで残り時間は1時間半に伸びた! この間にキアラちゃんが安心してお昼寝するのを待つか、なんとか隙を見て脱出するぞ……!)
自分の頭脳戦の勝利にガッツポーズをした、その直後だった。
「マモルさん……私、マモルさんが無事で本当に嬉しくて……。明日も、明後日も、これからずっと、マモルさんの隣で看病してあげますね……すやすや……」
安心しきったキアラちゃんは、俺の右腕をこれ以上ないほどガッチリと抱きしめたまま、ベッドの横で幸せそうに寝息を立てて本格的に眠りについてしまった。
防衛隊エリートの睡眠ホールドは驚異的な硬度を誇り、俺がトカゲの怪力(※人間姿なので手加減が必要)で外そうとしても、ピクリとも動かない。
そして、無情にも俺の脳内で、本日最後のカウントダウンが冷酷に鳴り響いた。
――ピピッ。2回目の前払い分が発動したため、本日の変身魔力はこれですべて終了しました。残り時間、1時間20分。これが切れた場合、明日の夜明けまで二度と人間の姿に戻れません。
(キアラちゃん最高に可愛いけど、腕のホールドがガチすぎて外せねぇ!! しかも『2回目前払い』をここで使い切っちまったから、この1時間半が切れたら夜が明けるまで本当にただの真っ黒な大トカゲじゃねぇか!! ご褒美の看病イベントが、ガチの命がけのタイムサスペンスになってんじゃねぇよバカヤローッ!!!)
身動きが取れないキアラちゃんの腕の中で、滝のような冷や汗を流しながら、俺は残り1時間20分の命をかけた、新たなる隠密脱出ミッションのゴングを頭の中で鳴らすのだった。
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(次回更新:本日21時20分!)




