第16話 土の区画の奈落と、のたうち回る芋虫カモフラージュ
(クソっ、キアラちゃんのやつ、捜索が終わった風の区画にきっちり見張りの兵士を残しやがった……!)
人間の兵士ごとき、リザードマン最強の『黒の王』である俺のデコピン一発で村の果てまで粉砕できる。だが、ここで無双しちまったら、その瞬間に『凶悪なテロトカゲの親玉』としてキアラちゃんに正体が確定でバレて、俺の隠密スローライフの夢は即死(終了)する。
見つかって無双するわけにはいかない。
退路を完璧に断たれた俺は、四足歩行の猛烈なトカゲダッシュで、キアラちゃんたちが今まさに捜索へと向かった未知の領域――『土の区画』へと先回りするべく飛び込んだ。
だが、辿り着いたその場所を見て、俺のトカゲの目は点になった。
(なんだここ……!? 交易をしてる綺麗な大集落のはずなのに、このエリアだけガチのモグラの巣窟じゃねぇかァァァ!!!)
大の爬虫類嫌いのせいで、風の区画の我が家から一歩も出ずに引きこもりしていた俺は、土の区画がどういう場所なのか1ミリも知らなかったのだ。
地面はボコボコと穴だらけ、至る所にアリ地獄のようなクレーターがあり、家というよりは頑丈な『泥の山』が不気味に並ぶ、未開の泥炭地エリア。
パニックになりながらも、泥の山の一つに転がり込むと、そこには――さっきまで風の区画の俺の部屋で大暴れしていたはずの、お姉さんヒロイン・デメトがいた。
キアラちゃんたちが火の区画へ向かった隙に、一足先に自分の家へと帰還していたらしい。夜間変身ロックのせいで『アンキロサウルス系のおっとりグラマラスな大トカゲ姿』のまま、のんびりとベッドに腰掛けていたデメトは、俺の姿を見るなりトカゲの顔を輝かせた。
「あらぁ〜、マモルくん。アタシを追いかけてアタシの家に飛び込んできてくれるなんて、ずいぶんと大胆ねぇ〜。いいわよぉ、アタシのこの部屋で、キアラちゃんたちからしっかり匿ってあげるわねぇ〜」
デメトが、おっとりとした重低音ボイスで長い尻尾をくねらせる。
「(夜編の押し掛けじゃねぇよ! 自発的に迷い込んだだけだ! 匿ってくれるなら、お願いだからまともな隠れ場所を教えてくれ!!)」
俺がトカゲの手足で必死にジェスチャーをしていると、ズシン、ズシンと、すぐ外の地面を揺らす防衛隊の足音がこの泥の家へと近づいてきた。
「あらぁ、人間の女の子たちがもう来ちゃったのねぇ〜。大丈夫よぉ、アタシの得意な土魔法で、マモルくんを素敵にカモフラージュしてあげるわねぇ〜」
デメトがおっとりと微笑み(トカゲ顔)、床の泥をトントンと長い爪で叩いた、その瞬間。
足元の泥がガバッ!!と落とし穴のように開き、俺の巨体は「うわあああ!?」と真っ逆さまに地下の暗闇へと突き落まれた。
ドサァァァァァッ!!!
「痛っ……! って、ひえっ……なんだここ、床がめちゃくちゃ柔らかくて、妙にモゾモゾと動いて――」
俺が暗闇の中で自分の下を覗き込んだ瞬間、すべてのウロコが恐怖でブツブツと逆立った。
落ちた先は、デメトの部族が年中無休で貯蔵している、『超巨大な芋虫が何千匹ところ狭しとのたうち回る、芋虫スープ用の巨大な貯蔵庫(生簀)』だったのだ!
天井の格子からも、俺が落ちた衝撃のせいで、白くて太い巨大芋虫(生きてる)たちが「ポトポトポトポトポトッ!!」と容赦なく雨のように降ってきて、俺の漆黒の背中を完全に埋め尽くしていく。
(ギャァァァアアア! ここ、第5話で俺にトラウマを植え付けた、あののたうち回る芋虫スープの原材料の保管場所じゃねぇか!! キアラちゃんに見つかる恐怖と、全身を巨大芋虫にヌルヌルと這い回られる恐怖のどっちに耐えればいいんだよォォォオオ!!!)
ガチャッ!!!
「マモルさんはどこ!?……って、またあの泥トカゲの化け物! 部屋の下にこんなに気持ちの悪い芋虫を大量に飼って……!」
地獄のタイミングで、天井の格子トビラが開き、キアラちゃんが中を覗き込んできた。
俺は芋虫の群れの底で、耳の穴に虫が侵入する恐怖と戦いながら、カチコチに固まって息を潜める。
「あらぁ〜、そんなわけないじゃない〜」とデメトが上でのんびり威嚇の声を上げている。
キアラちゃんは激怒しながら貯蔵庫の底を睨みつけ、芋虫の山の中心でピキピキと静止している「巨大な黒い塊(俺)」に目を留めた。
(バレる……! 芋虫のウロコへの摩擦も相まって、精神が即死(発狂)する……っ!)
俺が世界の終わりを覚悟した、その時。
「うわぁ、気持ち悪い……! 芋虫の群れのなかに、栄養を吸い尽くされて丸焦げになった『ただの巨大な腐りかけの切り株』が埋まってるわ……。吐き気がするから行くわよ! 次はラストの『水の区画』を大捜索よ!!」
気づかないんかい!!!
筋金入りのトカゲ・虫嫌いなキアラちゃんは、あまりの気持ち悪さに「直視したくない」という心理が働き、巨大な芋虫にまみれた俺の漆黒の肉体を、ただの腐ったエサ用の切り株だと完璧に大勘違いして、秒速でトビラを閉めて逃げ出してくれたのだ。
キアラちゃんたちは嵐のように部屋を飛び出し、最後のエリアへと進軍していった。
バタン、と格子トビラが閉まり、ようやく一安心した俺は、涙目で芋虫のプールから這い出た。
(助かった……! 捜索が終わったこの土の区画のベッドの下に隠れるのが、今の俺にとっての最高の安全圏だ!)
「あらぁ〜、マモルくん、全身芋虫まみれの泥だらけで汚れちゃって可哀想ねぇ〜。アタシが綺麗に洗ってあげるわねぇ〜」
「(いや洗わなくていい! 泥まみれでいいからここに置いとけバカヤローッ!!)」
俺の必死の拒絶(トカゲの咆哮)も虚しく、おっとり微笑むデメトの一騎当千の怪力によって、俺の巨体はガバッと軽々と持ち上げられた。
そして、そのまま部屋の奥にある、生活用水を流すための【水の区画へと直結している巨大な排水路(激しい濁流のスライダー)】へと、景気よく豪快に投げ込まれてしまったのだ!
「それぇ〜、いってらっしゃぁい〜」
ザッパーーーーーン!!!
「(フシュゥゥゥゥウウウ(流されるぅぅぅううう)!!!)」
激しい水流に揉まれ、ウォータースライダーの如き超スピードで水路をドンブラコと流されていく俺の真っ黒な肉体。
その流される先は、言うまでもなく、キアラちゃんたちが今まさに血眼になって大捜索を開始した最悪の最前線――ヤンデレ水トカゲ・ネレイダの縄張りである『水の区画』のど真ん中だった。
人間の姿に戻れないクールタイムの限界、残りわずか。
俺の命がけの限界ステルスかくれんぼは、お姉さんトカゲのありがた迷惑すぎる強制洗車のせいで、ついに最終決戦の地へと強制射出されるのだった。
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(次回更新:本日19時20分!)




