第15話 火の区画の熱血バーベキューと、丸焦げの王
「火の区画をくまなく探すのよ! 化け物どもの家をシラミ潰しに検問しなさい!」
「ハッ、キアラ分隊長ッ……!!」
ドタバタドタバタと、キアラちゃん率いる人間の防衛隊の足音が、俺たちが隠れていた『風の区画』の部屋から離れ、隣の『火の区画』へと進軍していく。
ふぅ、と俺(漆黒の大トカゲ姿)は、部屋の隅のドロドロの泥の塊から這い出た。
(冷たっ! 体温下がりまくるわ! ……でも、これで一時の隙が生まれたな)
俺の現代人としての冷静なステルス脳細胞が、瞬時に勝利の方程式を弾き出す。
(キアラちゃんたちが隣の火の区画へ移動したってことは、捜索が終わってガラ空きになったこの『風の区画』の物陰こそが、今この村で一番安全なセーフティゾーンだ! クールタイムが終了して人間に戻れるようになるまで、俺はここにじっと潜伏するぞ……!)
賢く安全圏に残り続けようとした、その瞬間だった。
ガシッ。
「ダメっすマモル! 人間の軍隊がいつ戻ってくるか分からないっす! 風の区画の防壁は薄くてボロいから、アタシの頑丈な『火の区画』の部屋へ今すぐ避難(※連れ込み)するっす!」
「(嫌だァァァ! 離せ! ここにいた方が100%安全だろ!! っていうかお前、夜間変身ロックされて『ガチの赤トカゲ姿(等身大)』のままの怪力で俺を引っ張るんじゃねぇぇぇええ!!)」
俺の抵抗(重低音のフシュゥゥゥという悲鳴)など、一騎当千の戦闘力を持つガルダの前にはそよ風に等しかった。
俺は安全圏だったはずの風の区画から、キアラちゃんたちが今まさに血眼になって大捜索を展開している最悪の最前線――『火の区画』のガルダの家へと、物理的に強制拉致(移送)されてしまったのだ。
◇
辿り着いた『火の区画』のガルダの部屋は、一言で言えば地獄だった。
火の部族が年中無休で獲物を焼きまくっているため、エリア全体が煙モクモクで超高温のサウナ状態。大の爬虫類嫌い(=リザードマンの生態に疎い)な俺の脳内で、即座に警報が鳴り響く。
(熱ちィィィ! なんだここ、ウロコがウェルダンになっちまうわバカヤローーッ!)
俺が部屋の隅でのたうち回っていると、赤トカゲ姿のギャルヒロイン・ガルダが、長い尻尾をバタバタと嬉しそうに振りながら、コンロの上から信じられないものをトングで挟んで差し出してきた。
「王、お腹が空いてると思って、一番いい『巨大ヤモリの燻製』をじっくり直火で炙っておいたっす! さあ、アタシの火の鱗でホカホカに温まりながら、二人で一緒に食べるっす!」
じゅうじゅうと不気味な脂を滴らせているのは、前世の俺の名前「ヤモリ」の呪いをダイレクトに体現した、俺(トカゲ姿)とそっくりな形をした爬虫類の丸焼きだった。
(同族じゃねぇかァァァ!!! 爬虫類嫌いの俺に爬虫類の肉を、しかもトカゲがトカゲを最高の獲物として美味そうに焼くっていう最悪の狂気食文化(共食い)を見せつけてくんじゃねぇよバカヤローーッ!!)
「この部屋も怪しいわ! 突入よ!」
無情にも、ガルダの家のすぐ外からキアラちゃんの凛とした声が響いた。
(終わった……! 家の前にキアラちゃんたちが来やがった!!)
逃げ場を失い、完全にパニックになる俺。だが、赤トカゲ姿のガルダは「マモル、隠れるっす!」と、俺の真っ黒な巨体を活かした最悪のカモフラージュを思いついた。
ガルダは俺の巨体を部屋の隅にあるバーベキューコンロ(薪の山)のすぐ横に突き飛ばすと、上から消し炭(炭の粉)をブワッと豪快に浴びせてきたのだ。
俺は漆黒のウロコの上にさらに真っ黒な炭の粉を全身に塗られ、熱い薪の山の横でカチコチに固まるハメになった。
キアラちゃんが杖を構えてトビラを蹴り開ける。
「マモルさんはどこ!?……って、またあの赤トカゲの化け物! 部屋の中でこんなに香ばしい匂いをさせて……まさかマモルさんを丸焼きにして(※ベッド的な意味)食べちゃったんじゃないでしょうね!?」
「フシュゥゥゥ(※そんなわけないっす、まだ契ってないっす)」
ガルダが赤トカゲの顔のまま威嚇の声を上げる。
キアラちゃんは激怒しながら部屋中を見回し、バーベキューコンロの横にある「大きな黒いトカゲ型の塊(俺)」に一瞬だけ目を留めた。
(ひえっ……バレる……!)と俺の心臓が止まりかけた、その時。
「あら、ずいぶん大きな『炭の塊(薪)』があるのね。お肉を焼くための燃料かしら。でも、ここにもマモルさんはいないわ……!」
気づかないんかい!!!
トカゲ大嫌いなキアラちゃんの脳細胞は、目の前にある黒い塊がマモルだとはまたしても1ミリも気づかなかった。お肉を焼くための巨大な炭だと完璧に大勘違いしてスルーしてくれたのだ。
「火の区画にもいないわ! 次は隣の『土の区画』を大捜索よ!!」
キアラちゃんたちは嵐のように部屋を出ていき、次のエリアへと進軍していった。
ふぅ、と俺は炭の山から這い出る。
(熱ちィィィ……マジで俺のウロコが焼きトカゲになるところだったわァァァ!! よし、あいつらが土の区画へ進んだなら、捜索が終わってガラ空きになった最初の『風の区画』へ引き返して身を隠すのが一番安全だ!)
俺は急いで風の区画の境界線へと引き返そうとした。……が、その瞬間、物陰から覗いた俺のトカゲの視界に、最悪の光景が飛び込んできた。
「化け物どもが戻ってくるかもしれない。ここに防衛隊の兵士を2人、見張りとして残しなさい」というキアラちゃんの優秀すぎる指揮のせいで、風の区画の入り口にガチの人間兵士が2人、剣を抜いてサボらずに検問を開始していたのだ。
(クソっ、キアラちゃんのやつ、捜索が終わったエリアにきっちり見張りを残しやがった……!)
リザードマン最強の【黒の王】である俺の戦闘力なら、あんな兵士の2人や3人、デコピン一発で村の果てまで消し飛ばせる。だが、ここで人間の兵士を力づくで粉砕(無双)しちまったら、その時点で『人間の村を脅かす凶悪なテロトカゲの親玉』としてキアラちゃんに顔(トカゲ面)を完全に覚えられ、俺の人間に戻りたがっている隠密スローライフの夢がその瞬間に確定で即死(終了)する!
見つかって無双するわけにはいかない。
つまり、風の区画への退路は完璧に断たれたのだ。
(戻れねぇ……! あいつらの進むスピードより早く、さらにその奥の『土の区画』へ先回りして身を隠すしか、正体バレを防ぐ道はねぇんだよバカヤローーッ!!!)
体温を奪う泥の岩から、皮膚を焼き焦がす炭の山へ。
人間の姿に戻れないクールタイムの真っ只中、俺の命がけの限界ステルスかくれんぼは、何が待ち受けているか一切分からない未知の恐怖の領域――『土の区画』へと引きずり込まれていくのだった。
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(次回更新:本日18時20分!)




