表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/54

第12話 残業確定の口づけと、一騎当千の拉致事件

エルシエラが放ったお淑やかな爆光魔法によって、周囲1マイルの夜の闇が完全に消滅した人間の村の広場。

温かいランタンの灯りに包まれていたお祭りの夜は一瞬にして消し飛び、真昼の太陽の下のような凄まじい白光が街中を容赦なく照らし出していた。


逃げ込もうとしていた路地裏の影すらも1ミリ残らず綺麗に消し飛んだ光の檻のなかで、俺の顔面には、ゴツゴツとした漆黒のウロコが『ザザザッ』と完全に浮き出てきかけていた。


タイムリミット、残り数分。

午前中に1回目の変身を使い切っている俺には、新能力の『魔力前払い(時間短縮)』を使うためのストックはもう1ミリも残っていない。正真正銘の、完全なる詰み(正体バレ)だった。


「お可哀想に、マモル様。魔力が完全に底を尽きかけておいでですね……」


エルシエラが慈愛に満ちたルビーの瞳をじっと潤ませ、俺の頬に白く透き通るような指先を這わせてきた。

彼女の人間姿のタイマーは、まだ3時間近くも残っている。圧倒的なアドバンテージを誇る銀髪の聖女は、お淑やかに微笑みながら、ペロリと妖艶に自分の唇を舌で湿らせた。


「さあ、このまばゆい光の下で、わたくしと熱い接吻(1時間チャージ)を交わしましょう。そうすれば、夜のデートをさらに延長して差し上げます……♡」


顔が、近い。吐息が触れ合うほどの至近距離で迫り来る超絶美少女。

だが、俺の爬虫類アンチの魂は、ご褒美のようなシチュエーションにときめくどころか、全身の毛穴から冷や汗を噴き出させていた。


「(バカ言えェェェエエエ!!! キアラちゃんの目の前で銀髪美女とディープキスして1時間延命しろってか!? そんな邪教の不純異性交遊の儀式を今ここでやったら、トカゲに戻る前に防衛隊エリートのキアラちゃんに即死魔法で消し炭にされるわァァァ!!!)」


俺がエルシエラの唇から全力でのけぞって拒絶している、その時だった。


ズガガガガガガガガガガァァァン!!!


広場に続く大通りの頑丈なレンガ壁が、まるで大型ダンプカーでも正面衝突したかのように木っ端微塵に粉砕された。

もうもうと立ち込める砂煙を突き破り、地鳴りのような猛スピードで広場へと爆走乱入してきた巨大な影――それを見た瞬間、キアラちゃんは息の根が止まったかのように顔面を真っ青に染めた。


「ヒ、ヒィィィィィィッ!? な、何であの人たち、『本来のトカゲの姿』のまま人間の街に暴走して入ってきてるのよぉぉぉおオオ!!!?」


地を這うような咆哮を轟かせながら現れたのは、ゼフィラ(風)、ガルダ(火)、デメト(土)、ネレイダ(水)の4人。

リザードマンは、人間側に無用な恐怖を与えないために『交流する際は必ず人間の姿に変身する』という絶対の交易ルールを敷いている。なぜなら、単体で人間の軍隊を壊滅させるほどの圧倒的な戦闘力を持つ彼らが、トカゲ姿のまま人間の村へ現れるなど、人間側からすれば100%完璧な『ガチの武力侵略テロ』でしかなかったからだ。


「マモルゥゥゥ! 光のエルシエラになんか独占させないわ!」

「マモルみーっけ! 今夜はアタシが温めてあげるっす!」


しかし、野生の本能に火がついたリアル爬虫類姿のトカゲたちに、人間の国際条約やマナーなど知ったことではなかった。


「マモルさん、危ないっ! 私が命にかえてもトカゲの化け物どもから――」

キアラちゃんが恐怖でガタガタと震える手で迎撃魔法の構えをとった、その一瞬の隙。


シュゥゥゥゥウウウ……。


無慈悲にも、俺の変身時間の魔力が完全にゼロになった。

人間の皮膚が一気にはじけ、俺の肉体は元の『ゴツゴツとした真っ黒な大トカゲ(リザードマン)』へと強制送還されてしまう。


(終わった……! キアラちゃんの目の前で、ガチの漆黒のボスに戻っちまった……!!)


絶望に目を瞑り、世界の終わりを覚悟した、その直後。


ドサァァァァァァァッ!!!


「「「「マモルゥゥゥゥウウウウ!!!!」」」」


激走してきた4頭の巨大なトカゲたちが、漆黒に戻ったばかりの俺の体に、ラグビーのタックルの如き勢いで一斉にガバッと抱きついてきた。

風、火、土、水。4頭のリアルトカゲたちによる、凄まじい質量のおしくらまんじゅう(求愛ダンス)の完全密室。


「きゃー! 黒の王のウロコ、冷たくて最高っす!」「今夜は絶対離さないんだから!」

トカゲたちは大はしゃぎしながら、俺をトカゲの群れのなかに完全に埋もれさせ、そのまま神輿のように担ぎ上げた。


キアラちゃん視点からは、4頭のトカゲが押し寄せた砂煙のなかで、マモルが完全に揉みくちゃにされて一瞬で消えたようにしか見えていない。俺のトカゲ姿は、彼女たちの巨体のおかげで1ミリも外から見えなかったのだ。


「おのれ、光の神域の邪魔者め、マモルはアタシたちのものです!」

ゼフィラたちが人間姿のエルシエラをフシュゥゥゥと一喝して威嚇すると、そのまま俺を担いだまま、凄まじい足骨音を響かせて森の奥(トカゲの集落)へと猛スピードで拉致・撤退していった。


「ふふ、さすがは野生の眷属、手荒いですね。ですが王、明日はわたくしが必ず……」

エルシエラもまた、優雅に擬態を解除して純白の白竜へと戻り、夜空へと羽ばたいて去っていく。


爆光と砂煙が晴れた、深夜の広場。

そこには、粉砕されたレンガと、凶悪なトカゲたちの巨大な足跡だけが虚しく残されていた。


ぽつんと一人、取り残されたキアラちゃんは、マモルの姿がどこにもない広場を見つめ、大粒の涙をボロボロと流しながら、泥にまみれたお祭り衣装の拳を白くなるほど強く握りしめた。


「マモルさん……あの恐ろしい、トカゲの化け物集団に……夜這い目的で(※事実)拉致されてしまったんだわ……っ!」


キアラちゃんのルビーのような強い瞳に、防衛隊エリートとしてのガチの戦意の炎がめらめらと燃え上がる。


「交易条約を破って人間を拉致するなんて絶対に許さない。私が、人間の軍隊を総動員してでも、あの凶悪なトカゲの巣窟から……必ずあなたを救い出してみせます……!!」


(違うんだキアラちゃん!!! 拉致されてるけど俺自身がそのトカゲのボスなんだよ! 軍隊を引き連れて強襲しにきたら俺の擬態生活どころか寿命がガチで即死(終了)するから、絶対に助けに来るんじゃねぇぇぇえええバカヤローーッ!!!)


遠ざかるトカゲの群れのなかで、真っ黒な大トカゲ姿のまま俺が内心で必死に叫んだ絶叫は、夜の森の闇へと虚しく消えていくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「ちょっと面白いかも」「続きが気になる」と思ってくださったら、画面下の【ブックマークに追加】や、【評価の☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

よろしくお願いいたします!

(次回更新:本日12時40分!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ