彼女は僕の名前を呼んだ
少しずつですが、蓮の日常に「違和感」が増えていきます。
何気ない会話や、ふとした仕草の中に、小さなヒントを散りばめました。
どうか最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第2話をお楽しみください。
翌朝。
僕はいつもより少し早く学校に着いた。
まだ廊下は静かで、聞こえてくるのは足音だけ。
――こういう空気は嫌いじゃない。
教室の扉を開ける。
すでに何人かの生徒が登校していた。
僕は何も考えず、窓際の自分の席へ向かう。
……
もう、そこにいた。
昨日のあの女子。
星野さん。
彼女は両手で文庫本を持ち、静かにページをめくっていた。
朝の柔らかな陽射しが窓から差し込み、長い黒髪を淡く照らしている。
ふと、彼女が顔を上げた。
目が合う。
ほんの一瞬。
彼女は微笑んだ。
小さく。
控えめで。
作った笑顔なんかじゃない。
どこか……
安心したような笑顔だった。
彼女は本を閉じる。
「……おはよう。」
「……おはよう。」
僕は鞄を机の横に置いた。
静寂。
気まずいわけじゃない。
ただ――
静かだった。
その時。
「……蓮。」
体が止まった。
下の名前。
あまりにも自然に呼ばれた。
まるで、何度もそう呼んできたかのように。
僕は彼女を見る。
「……え?」
彼女は小さく瞬きをした。
「あ……」
少しだけ笑みを浮かべる。
「おはよう、蓮。」
僕は少しためらってから答えた。
「……星野さん?」
その笑顔が、ほんの少しだけ消えた。
怒っているわけじゃない。
悲しんでいるわけでもない。
どこか……
寂しそうだった。
「……そんなに他人行儀じゃなくてもいいのに。」
「……」
「私たち――」
彼女は言葉を止める。
「……ううん。何でもない。」
再び静けさが戻る。
僕は窓の外へ視線を向けた。
「……僕たち、どこかで会ったことある?」
気づけば、口にしていた。
止める前に。
彼女は僕を見つめる。
しばらく黙ったまま――
また微笑んだ。
だけど今度の笑顔は、
少しだけ……
寂しかった。
「……ううん。」
「ちゃんと話すのは、今日が初めて。」
「……そう。」
なのに、どうしてだろう。
その答えを聞いた瞬間、
僕は少しだけ……
罪悪感を覚えた。
今回は、蓮と優奈の距離が少しだけ縮まる一方で、記憶に関する謎も少しずつ動き始めました。
「あのペンダントは何なのか。」
「なぜ蓮の心だけが覚えているのか。」
その答えは、まだもう少し先です。
もし楽しんでいただけたら、フォローや★で応援していただけると、とても励みになります。
それでは、第3話でお会いしましょう!




