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拾った娘が元魔王で、気づけば俺たちは敵になっていた  作者: 東海林


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8/30

8話

翌朝。


空はよく晴れていた。


「……ほんとに行くのね」


宿の前で、セリナが腕を組む。


「行くって決めたんだろ」


「決めたけど」


ため息をつく。


「もう少し準備とかあるでしょ普通」


「昨日の時点で余裕なかっただろ」


「それはそうだけど……」


納得はしていない顔。

でも、止める気はないらしい。


「……神代」


「なんだ」


「……準備、終わった?」


ルシエルがいつもの距離でくっつきながら聞いてくる。


「ほぼな」


と言っても大した荷物はない。

最低限の食料と水。それから少しの金。


逃げる前提なら、軽い方がいい。


「……どこ行くの」


「とりあえず街から離れる」


「雑ね」


セリナが呆れる。


「目的地くらい決めなさいよ」


「お前あるのか」


「……一応」


少しだけ考えてから。


「北に行けば、山越えの先に中規模の街がある」


「安全か?」


「完全に安全な場所なんてないわよ」


即答。


「でも、人が多い分紛れやすい」


「ならそこだな」


「即決ね……」


ほんとに雑だ。

でも、方向性は決まった。


「……じゃあ、行くか」


神代が一歩踏み出す。

その瞬間、当然のように、ルシエルが腕に絡みついた。


「……一緒」


「分かってる」


もはや確認ですらない。

そのまま歩き出す。


街を出る道へ。


後ろから、セリナがついてくる。


「……ねえ」


「なんだ」


「その距離、どうにかならないの?」


「ならねえな」


「即答……」


「……ここがいい」


ルシエルが小さく言う。

それで終了だ。

セリナはもう何も言わなかった。




街を出ると、道はすぐに細くなった。

舗装もされていない、ただの土の道。

左右には森が広がっている。


「……こういうとこ、出るわよ」


セリナが周囲を警戒しながら言う。


「魔物か?」


「それもあるけど、人も」


「どっちも嫌だな」


「選べないわよ」


その通りだ。


「……神代」


「なんだ」


「……こっち」


ルシエルが少しだけ進行方向を変える。


「なんでだ」


「……嫌な感じする」


「……直感か」


「……うん」


少し迷う。

でも――


「……従っとくか」


「え」


セリナが驚いた声を出す。


「そんな簡単に?」


「今まで外してないしな」


「……まあ、それは」


昨日のことを思い出す。

確かに、あの気配は当たっていた。


「……分かったわよ」


しぶしぶ頷く。

そのまま、少し道を外れる。

獣道みたいな細いルート。


普通なら選ばない。

でも――


「……ほんとだ」


セリナが小さく呟く。

元の道の方から、気配がした。


複数しかも、隠れてる感じ。


「……待ち伏せね」


「だな」


「……助かったわ」


ルシエルを見る。

ルシエルは特に気にした様子もなく、神代に寄り添っていた。


「……神代がいるから」


「俺関係あるか?」


「……ある」


よく分からないが、本人がそう言うならそうなんだろう。




しばらく進むと、森が少し開けた。

小さな広場みたいになっている。


「……ここで一旦休むか」


「賛成」


セリナもすぐに頷く。

気を張り続けるのも疲れる。


適当な場所に腰を下ろす。


「……神代」


「なんだ」


「……疲れた」


「まだそんな歩いてねえだろ」


「……歩いた」


そう言いながら、当然のように隣に座る。

というか、ほぼ寄りかかってる。


「……ねえ」


セリナが少しだけ真面目な顔になる。


「さっきの待ち伏せ」


「ああ」


「間違いなく、私たち狙いね」


「だろうな」


「しかも、動きが統一されてた」


「組織か」


「ええ」


嫌な予感しかしない。


「……神代」


ルシエルが小さく呟く。


「……増える」


「何が」


「……追ってくるの」


静かな声でも、確信してる。


「……そりゃそうだろ」


「……ん」


頷く。それから、少しだけ間を置いて――


「……でも」


「ん?」


「……神代がいるなら、いい」


またそれだ。

信頼というか、依存というか。


重いでも――


「……まあ、なんとかなるだろ」


軽く返す。


「適当すぎない?」


セリナが呆れる。


「でも実際なんとかなってるだろ」


「それは……そうだけど」


納得したくない顔。


「……神代」


「なんだ」


「……手」


「は?」


「……貸して」


意味が分からないまま、手を出す。

すると――ルシエルが、ぎゅっと握った。


「……これでいい」


「何がだよ」


「……落ち着く」


「そうかよ」


ほんとにそればっかだな。

でも、振り払う気にはならない。


「……ねえ」


セリナがぼそっと言う。


「ほんと、どういう関係なのよそれ」


「知らねえよ」


「……共依存にしか見えないんだけど」


「否定できねえな」


「認めるのね……」


ため息でも、その目は少しだけ柔らかい。


「……まあいいわ」


肩をすくめる。


「今はそれでバランス取れてるなら」


「崩れたら終わりだけどな」


「それ言わないで」


即ツッコミ。でも事実だ。

この関係は、ギリギリで成り立ってる。


「……神代」


「なんだ」


「……行こ」


ルシエルが立ち上がる。

手はまだ繋がったまま。


「もういいのか」


「……うん」


短く頷く。


「……ここ、長くいない方がいい」


「またか」


「……嫌な感じ」


さっきと同じ。

でも――外してない。


「……じゃあ行くか」


「ええ」


セリナもすぐに立つ。

そのまま、三人で歩き出す。


森の奥へ。


逃げるための道を。


「……ねえ、神代」


「なんだ」


「……ずっと一緒?」


「しつこいな」


「……大事」


 真顔で言う。


「……まあ、そうだな」


 適当に答える。


でも、その言葉に――ルシエルは満足そうに目を細めた。


「……ん」


そのまま、さらに距離を詰めてくる。


「近い」


「……普通」


「普通じゃねえって」


いつものやり取り。

変わらない距離感。

でも――進んでる道は、確実に変わっている。


もう、元には戻れない。

そんな予感だけが、静かに積み重なっていった。


作り置きがなくなりましたので次の投稿は月曜日です。


もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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