6話
翌朝。
まだ日が上がりきる前の時間に、セリナは目を覚ました。
習慣だ。周囲の気配を確認しながら、ゆっくりと体を起こす。
――静かだ。
宿の廊下も、外の通りも問題はない。
……はずだった。
「……は?」
視線を横に向けて、思わず固まる。
ベッドの上。神代が寝ている。
そしてその上に、ルシエルが乗っていた。
完全に覆いかぶさる形で。
「……なにしてるの」
「……ん……」
ルシエルがうっすら目を開ける。
寝ぼけてるのか、反応が遅い。
「……セリナ」
「そうだけど」
「……うるさい」
「起きてそれ?」
ため息が出る。
「……神代」
ルシエルが、まだ寝ている神代の頬に顔を寄せる。
「……起きて」
「……あと五分」
「……だめ」
ぎゅ、と抱きつく。
完全に起こしに来てるやつじゃない。むしろ離さないやつだ。
「……重い……」
「……起きた」
「起きてねえよ」
やり取りが雑すぎる。
セリナは額を押さえた。
朝からこれか。
「……神代」
「なんだよ……」
「……外、なんかいる」
その一言で、空気が変わった。
神代の目が、一瞬で覚める。
「……マジか」
「……ん」
ルシエルはすでに起き上がっていた。
さっきまでの眠そうな雰囲気は消えている。
「……気配、多い」
「……敵?」
「……たぶん」
その言葉で、セリナも立ち上がる。
剣に手をかける。
「数は?」
「……三、いや四」
ルシエルが窓の方を見る。
「……こっち来てる」
「早いな」
神代も立ち上がる。
軽く肩を回して、息を吐く。
「……どうする」
セリナが聞く。
「迎え撃つ」
「外で?」
「中壊される方が面倒だ」
「……それもそうね」
三人で部屋を出る。
階段を降りて、外へ。
まだ人通りは少ない。
その分、気配がはっきり分かる。
「……来る」
ルシエルの声。
次の瞬間。路地の奥から、影が飛び出してきた。
黒い装束。顔は隠れている。
明らかに普通の人間じゃない動き。
「……刺客か」
セリナが低く呟く。
「……たぶんな」
神代も構える。武器はない。
でも、問題ない。
――来る。
一人が一気に距離を詰めてくる。
速い。セリナが前に出る。
「ここは任せて!」
剣を抜く。金属音が響く。
敵の刃とぶつかる。
「っ……!」
重い。見た目以上に力が強い。
でも、捌ける。
問題は――
「二人目!」
横から別の影。
神代に向かってくる。
「……来たか」
迎え撃つ。振り下ろされる刃。
――触れる瞬間。
神代はその腕を掴んだ。
「……遅い」
ぐにゃり、と相手の動きが崩れる。
「……っ!?」
力が抜ける。
そのまま、簡単に地面に叩きつける。
「……やっぱ効くな」
確信する。これは――消してる。
相手の力を。
「三人目!」
セリナの声。別の敵がルシエルに向かう。
「ルシエル!」
「……いらない」
ぽつりと呟く。
次の瞬間。空気が歪む。
――ドンッ!!
敵が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
「……っ」
やっぱり強すぎる。制御できてない。
「ルシエル、抑えろ!」
「……でも」
「いいから!」
その一言で、ぴたりと止まる。
……本当に、言うことは聞くんだな。
「残り一人!」
セリナが押し返す。剣の連撃。
だが、相手も引かない。
「っ……!」
押され始める。技術はある。
でも、単純な力で負けてる。
「神代!」
「分かってる!」
走る。
間に割り込む。
敵の一撃を受け止めて――掴む。
「……終わりだ」
力を流す。
相手の動きが、一瞬で止まる。
「なっ……」
そのまま、セリナが斬り払う。
――決着。
静寂が戻る。
「……はあ」
セリナが息を吐く。
剣を下ろす。
「……終わったか」
「……ん」
ルシエルが、すぐに神代の隣に戻ってくる。
そして――当然のように腕に絡みつく。
「……無事」
「お前な」
「……よかった」
それだけ言って、少しだけ力を抜く。
……戦闘中との落差がすごい。
「……ねえ」
セリナが、ゆっくり口を開く。
「今の、見た?」
「見てた」
「……ありえないんだけど」
「どっちがだよ」
「両方よ」
即答。
「あなたも、その子も」
真剣な顔で言う。
「力を消すとか、聞いたことない」
「俺も昨日知った」
「軽いわね……」
呆れられる。でも事実だ。
「それに」
ルシエルを見る。
ルシエルは、もう完全に通常モードだ。
「……あの出力、普通じゃない」
「知ってる」
「分かってて一緒にいるの?」
「まあな」
短く答える。
「……ほんと、何者なのよ」
「ただの一般人だって」
「絶対嘘」
即否定。まあ、否定できないけど。
「……神代」
ルシエルが袖を引く。
「……帰ろ」
「もういいのか」
「……うん」
戦闘の余韻とか一切ない。
完全に切り替わってる。
「……疲れた」
「何もしてねえだろ」
「……した」
「そうかよ」
適当に返す。でも、実際はかなり抑えてた。
それだけでも相当だろうな。
「……ねえ」
セリナが呟く。
「役割、分かったかも」
「何が」
「あなたが抑えて、その子が壊す」
「……そんな感じだな」
「で、私は間を埋める」
「便利枠か」
「言い方」
軽く睨まれる。でも否定はしない。
「……悪くないバランスね」
「崩れなきゃな」
「それが一番怖いんだけど」
確かに。
ルシエルが本気で暴れたら、どうなるか分からない。
「……神代」
「なんだ」
「……大丈夫」
「何が」
「……暴れない」
少しだけ、間を置いて。
「……神代がいるなら」
静かに言う。
その声は、やけに真っ直ぐだった。
「……そりゃどうも」
軽く返す。でも、その言葉の重さは分かってる。
――完全に、依存されてるな。
「……帰ろ」
「ああ」
三人で歩き出す。
戦闘の後とは思えないくらい、いつも通りの距離感で。
片方は密着。片方は警戒。
その間を、俺が歩く。
「……やっぱり最悪のバランスね」
「同感だ」
「……神代はいい」
「だから何がだよ」
軽口を叩きながら、宿へ戻る。
――でもさっきの連中。ただのチンピラじゃない。
明らかに、狙ってきてた。
「……面倒なことになりそうだな」
小さく呟く。その言葉に、誰も否定しなかった
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