29話
森の外れ。
小さな町の手前。
「……やっと人の気配」
リオが伸びをする。
「さすがに疲れた」
「当たり前でしょ」
セリナが呆れる。
「数日まともに休んでないのよ」
「それはみんな同じ」
神代が言う。
「……神代」
ルシエルが袖を引く。
「なんだ」
「……町」
「ん?」
「……楽しみ」
「観光かよ」
「……だめ?」
「別にいいけどな」
「……ん」
少しだけ嬉しそうに頷く。
「……で」
セリナが話を戻す。
「このまま入るの?」
「問題あるか」
「あるわよ」
即答。
「追われてるの忘れた?」
「忘れてねえ」
「なら慎重に」
「分かってる」
「……じゃあさ」
リオが口を挟む。
「一旦バラける?」
「……ありね」
セリナが頷く。
「目立たないように」
「再集合は?」
「町の外れ」
「了解」
「……神代」
ルシエルがじっと見る。
「……一緒」
「いや分かれるって話――」
「……やだ」
即答。
「……一緒」
「……」
少し考える。
そして。
「……じゃあ近くで動く」
「……ん」
それで満足らしい。
「……相変わらずね」
セリナが呆れる。
「いいじゃん別に」
リオが笑う。
「見てて面白いし」
「他人事だと思って」
「他人事だからね」
町へ入る。
人の声、生活の音。
久しぶりの普通。
「……なんか変な感じ」
リオが呟く。
「戦ってないのが?」
「それもあるけど」
少し笑う。
「普通に歩いてるのが」
「……確かに」
セリナも頷く。
「……これ」
ルシエルが立ち止まる。
「なんだ」
「……甘い匂い」
「パン屋だな」
「……食べたい」
「さっき楽しみって言ってたのそれか」
「……ん」
「……はいはい」
神代がため息をつく。
「少しだけだぞ」
「……やった」
分かりやすく嬉しそう。
パン屋。
焼きたての匂い。
「……どれにする」
「……これ」
迷わず指さす。
「それ好きそうだな」
「……わかる?」
「なんとなく」
「……ねえ」
リオが横から覗く。
「それ一口ちょうだい」
「……やだ」
「即答!?」
「……神代の」
「は?」
「……もらったやつ」
「いや俺のじゃねえし」
「……はいはい」
セリナがパンを追加で取る。
「これでいいでしょ」
「さすが」
「気が利くわね」
「でしょ」
少し離れた場所で腰を下ろす。
「……うまい」
神代が呟く。
「……おいしい」
ルシエルも頷く。
小さく、でもはっきり。
「……平和だね」
リオが空を見上げる。
「さっきまで命かけてたのに」
「そのギャップが怖いわね」
セリナが言う。
「……でもさ」
リオが笑う。
「こういうの、悪くない」
「……だな」
神代も同意する。
「……神代」
「なんだ」
「……これからも」
「ん?」
「……こういうの、する?」
「……時間あればな」
「……ん」
満足そうに頷く。
「……ねえ」
リオがふと思い出したように言う。
「これからさ」
「回収局潰すんでしょ?」
「そのつもりだ」
「……大変だよ?」
「だろうな」
「それでもやるの?」
「やる」
迷いはない。
「……ほんとさ」
リオが小さく笑う。
「変なやつ」
「今さらだ」
「うん」
「でも」
少しだけ真剣な顔。
「頼れる」
「……どうも」
「……そろそろ」
セリナが立ち上がる。
再び、町の外れへ。
「……なんかさ」
リオがぽつりと言う。
「普通のパーティっぽくなってきたね」
「今さら?」
セリナが言う。
「最初からそのつもりだったけど」
「……あたしだけ違ったからね」
「今は?」
「同じ」
はっきり言う。
「……神代」
ルシエルが隣に来る。
「なんだ」
「……行こ」
「どこへ」
「……先」
「……ざっくりだな」
「……でも合ってる」
「……確かに」
歩き出す。
四人で今度は迷いなく戦いの後の日常。
ほんの少しの平穏。
でもそれは――これからの戦いへ進むための、大事な時間だった。
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