30話
――数日後。
森を抜け、街をいくつか越えて四人は、小さな拠点を手に入れていた。
「……思ったより普通だな」
神代が部屋を見回す。
簡素なベッド。
机、窓から入る光。
「十分でしょ」
セリナが言う。
「屋根があるだけマシよ」
「それはそう」
「……神代」
ルシエルがすぐ隣に座る。
「なんだ」
「……ここ、好き」
「まだ何もねえぞ」
「……でも好き」
「……そうかよ」
悪くない。
そう思った。
「……ねえ」
リオが窓際で振り返る。
「これからどうするの?」
「決まってるだろ」
神代が答える。
「回収局、潰す」
「やっぱそれか」
「他にあるか?」
「ないね」
少し笑う。
「……でもさ」
リオが続ける。
「いきなり本拠地は無理でしょ」
「分かってる」
「じゃあ?」
「一つずつ潰す」
「……地道」
「確実だ」
「……嫌いじゃない」
「……協力者も必要ね」
セリナが言う。
「情報も人も足りない」
「集める」
「簡単に言うわね」
「簡単じゃねえ」
でも。
「やるだけだ」
少しの沈黙。
でも――重くない。
未来に向いている空気だった。
「……神代」
ルシエルが小さく言う。
「なんだ」
「……あの日」
「ん?」
「……拾ってくれて」
少しだけ間を置く。
「……ありがとう」
最初の日、森の中。
倒れていた元魔王
それを、何となく拾っただけ。
「……今さらかよ」
「……今だから」
「……そうか」
「……後悔してる?」
ルシエルがまっすぐ見る。
「してねえよ」
即答。
「一回もな」
「……ほんと?」
「ほんとだ」
「……そっか」
小さく笑う。
安心したように。
「……よかった」
「……ねえ」
リオがニヤニヤしながら言う。
「それさ、ちょっといい話すぎない?」
「うるせえ」
「いやだってさ」
「静かにしろ」
「はいはい」
でも楽しそうに笑う。
「……ほんと変なやつね」
セリナが言う。
「拾って、守って、戦って」
「普通じゃないわ」
「自覚はある」
「ならいいけど」
「……でも」
セリナが少しだけ柔らかく言う。
「悪くない選択だったんじゃない?」
「……だな」
神代も頷く。
「……ねえ神代」
「なんだ」
「……これからも」
「ん?」
「……一緒?」
「当たり前だ」
迷いなく言う。
「……ずっと?」
「ずっとかは知らねえ」
「……む」
「でも」
少しだけ笑う。
「行けるとこまでは行く」
「……ん」
それで十分だった。
外、風が吹く。
世界は広い。
まだ知らないことばかり。
敵も、仲間もこれから増えていく。
「……行くか」
神代が立ち上がる。
「もう?」
リオが言う。
「準備あるだろ」
「……まあね」
「……次はどこ」
ルシエルが聞く。
「さあな」
「……決めてない」
「適当だ」
「……神代らしい」
「……でも」
神代が言う。
「もう逃げねえ」
「攻める」
「それでいい」
セリナも頷く。
「……楽しみ」
ルシエルが呟く。
「……次も」
「……ああ」
あの日ただ、拾っただけだった。
理由なんてなかった。
意味もなかった。
でも――それが、全部の始まりだった。
拾った娘が、元魔王だった。
その日から少しだけ世界は変わって今も、変わり続けている。
そして――物語は、まだ続く。
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