28話
――静かだった。
さっきまでの激戦が嘘みたいに。
崩れた床、砕けた壁。
その中心で。
「……ほんとに終わったんだな」
神代がぽつりと呟く。
体が重い。
力が抜ける。
でも――確かな実感があった。
「……油断しないで」
セリナが周囲を警戒する。
「完全に安全とは限らない」
「分かってる」
神代が頷く。
でも、もう大きな敵の気配はない。
「……神代」
ルシエルが隣に座る。
「なんだ」
「……疲れた」
「だろうな」
「……でも」
少しだけ顔を上げる。
「……楽しい」
「……は?」
「……一緒に戦うの」
「……そうかよ」
悪くない。
そう思った。
「……あたしも」
リオがその場に腰を下ろす。
「こんなにちゃんと戦ったの、初めてかも」
「今までは裏からだったものね」
セリナが言う。
「まあね」
軽く笑う。
「でも」
視線を神代に向ける。
「こっちの方が好き」
「……変わったな」
「でしょ?」
「……さて」
セリナが立ち上がる。
「やることはまだあるわ」
「資料か」
「ええ」
「回収して帰る」
「了解」
散らばった書類。
壊れた棚。
その中から、必要なものを拾い集める。
「……これ」
リオが一枚の紙を手に取る。
「何だ?」
「回収対象リストの続き」
「……見せろ」
そこには、いくつもの名前。
そして――
「……まだいるのか」
神代が呟く。
「ルシエルみたいなのが」
「……うん」
リオが頷く。
「これ、ほんの一部だと思う」
「……厄介ね」
セリナが眉をひそめる。
「……神代」
ルシエルが小さく言う。
「なんだ」
「……助ける?」
「……」
一瞬、考える。
そして。
「……気が向いたらな」
「……ふふ」
少しだけ笑う。
「……神代らしい」
「……でもさ」
リオが言う。
「どうするの、これから」
「何が」
「追われるのは変わらないよ」
「だな」
神代は否定しない。
「むしろ本格的に来る」
「……よね」
「逃げるだけじゃダメね」
セリナが言う。
「いずれ詰む」
「なら」
神代が言う。
「潰すか」
「……は?」
三人が同時に反応する。
「回収局」
短く言う。
「元から潰す」
「……正気?」
「正気だ」
「無理でしょ普通に」
「普通じゃねえしな」
軽く笑う。
「……でも」
リオが呟く。
「嫌いじゃない」
「だろ」
「うん」
少しだけ目が輝く。
「……神代」
ルシエルが袖を引く。
「なんだ」
「……一緒に行く」
「当たり前だ」
「……ん」
「……仕方ないわね」
セリナが肩をすくめる。
「ここまで来たら付き合うしかない」
「助かる」
「あとでちゃんと説明しなさいよ」
「気が向いたらな」
「向けなさい」
「……決まりだね」
リオが笑う。
「逃げる側から」
「攻める側へ」
「……いいじゃん」
その時、遠くで音。
崩れる音。
「……時間切れね」
セリナが言う。
「ここも長くは持たない」
「行くぞ」
神代が立ち上がる。
来た道を戻る、崩れかけた通路。
急ぎながらも、確実に外へ。
光、空気。
森の匂い。
「……戻ってきた」
リオが空を見上げる。
「生きてるね」
「当たり前だ」
「いや、当たり前じゃないよ」
小さく笑う。
「……神代」
ルシエルが隣に立つ。
「なんだ」
「……これから」
「ん?」
「……楽しみ」
「……そうかよ」
でも少しだけ、同じ気持ちだった。
戦いは終わった。
でも――物語は、まだ続く。
今度は逃げるためじゃない。
進むために。
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