25話
――通路。
「っ……!」
リオが壁を蹴る。
背後から迫る気配。
速い、そして重い。
「……ちっ」
セリナが舌打ちする。
「これ、長引くと不利よ」
「分かってる」
リオが息を整える。
でも――逃げ切れる距離じゃない。
次の瞬間――影が落ちる。
「見つけた」
低い声、振り向く。
そこにいたのは――
「……上位個体か」
セリナが構える。
さっきの雑魚とは違う。
明らかに格が違う。
「……止まって」
リオが前に出る。
「ここでやる」
「正気?」
「正気だよ」
少しだけ笑う。
「逃げ続けるの、性に合わないし」
「……今さら?」
「今さら」
「……リオ」
セリナが低く言う。
「無茶するなら止めるわよ」
「無茶じゃない」
首を振る。
「選ぶだけ」
「……何を」
「どっち側にいるか」
視線が、わずかに揺れる。
思い出す。回収局。
命令、任務、裏切り。
そして――
「……仲間だろ」
神代の言葉。
あの瞬間、あの目。
「……ほんとさ」
リオが小さく笑う。
「ずるいよね、あいつ」
「……ええ」
セリナも少しだけ笑う。
「否定しない」
「……だからさ」
一歩前に出る。
「ちゃんと選ぶ」
短く言う。
「もう逃げない」
「……いいのね」
セリナが確認する。
「戻れなくなるわよ」
「戻る気ない」
即答。
「ならいい」
セリナも剣を構える。
「背中は任せた」
「任せて」
「……ほう」
敵が少しだけ興味を示す。
「裏切り者か」
「元ね」
リオが笑う。
「今は――」
少しだけ間を置く。
「こっち側」
踏み込む。
速い、音が消える、気配も消える。
「……消えた?」
敵が一瞬反応を遅らせる。
その隙。
「……そこ」
背後、急所へ。
――突き。
「っ……!」
確かな手応え。
「……やるじゃない」
セリナが横から斬り込む。
連携、噛み合う。
「……でも」
敵が距離を取る。
「甘い」
次の瞬間。
圧。
「っ……!」
二人同時に吹き飛ばされる。
「……強いわね」
「うん」
リオが立ち上がる。
でも――目は折れてない。
「……ねえセリナ」
「なに」
「さっきさ」
「ええ」
「守る理由、分かるって言ったじゃん」
「言ったわね」
「ちょっと違った」
「……どういうこと」
「守るだけじゃない」
息を吐く。
「一緒に立つんだよ」
「……」
セリナが一瞬黙る。
そして。
「……遅いわよ」
「今気づいた」
「でも正解」
少しだけ笑う。
「……だから」
リオが前を見る。
「もう庇われない」
「……」
「ちゃんと戦う」
次の瞬間、動く。
今までより速い。
今までより深い。
「……っ!」
敵が反応する。
でも遅い。
完全に読み切る。
懐に入る。
「……これで」
低く言う。
「終わり」
――突き。
急所に、正確に入る。
敵の動きが止まる。
崩れる。
「……やった」
リオが息を吐く。
手が少し震えている。
でも――
「……あたし、勝った」
「ええ」
セリナが頷く。
「完全にね」
「……変な感じ」
リオが笑う。
「敵倒して安心するの、初めてかも」
「これから慣れるわよ」
「それもどうなんだろ」
「……行くわよ」
セリナが言う。
「神代たちのとこ」
「うん」
リオが頷く。
もう迷いはない。
「……あいつさ」
走りながら呟く。
「絶対無茶してるよね」
「してるわね」
「……助けないと」
「当然でしょ」
その目は、もう迷っていなかった。
命令でも任務でもない。
自分の意思で戦うために。
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