20話
森のさらに奥。
木々が密集し、光もほとんど届かない場所。
「……ここでいい」
神代が足を止める。
「……気配、少ない」
ルシエルも頷く。
「……追ってきてない」
「完全に撒いたわけじゃないけどね」
セリナが周囲を警戒しながら言う。
「時間は稼げる」
「それで十分だ」
神代はその場に腰を下ろした。
息を吐く、ようやく少しだけ力が抜ける。
「……はい」
セリナが布を差し出す。
「腕」
「あー、悪い」
受け取って巻く。
血は止まりかけているが、痛みは残る。
「……雑」
「うるせえ」
「貸しなさい」
セリナが手際よく巻き直す。
「こういうのはちゃんとやるの」
「助かる」
「当たり前」
「……神代」
ルシエルが隣に座る。
「なんだ」
「……ここ、いい」
「何が」
「……近い」
「またそれか」
でも離れない。
むしろ寄ってくる。
「……落ち着く」
「そうかよ」
まあ、今はそれでいい。
一方。
少し離れた場所で。
「……ねえ」
リオが小さく言う。
「なに」
セリナが振り返る。
「ほんとにいいの?」
「何が」
「あたし」
視線を逸らす。
「まだ完全に信用できるわけじゃないでしょ」
「できないわよ」
即答。
「……だよね」
「でも」
少しだけ間を置く。
「あいつが決めたなら、あたしは従う」
「……神代、ね」
「そうよ」
セリナが小さく笑う。
「変だけど」
「変だね」
「でも」
視線を神代に向ける。
「間違えないやつよ」
「……」
リオが黙る。
少しだけ考える。
「……それが一番厄介」
「でしょ」
「……で」
神代が声をかける。
「今後どうする」
全員の視線が集まる。
「拠点には入った」
「でも資料は取れなかった」
「だな」
リオが頷く。
「でも収穫ゼロじゃないよ」
「何がある」
「構造は分かった」
「巡回のパターンも」
「あと」
少しだけ間を置く。
「あの男の動きも、少し」
「……十分だな」
神代が呟く。
「……もう一回行くの?」
セリナが聞く。
「正面からは無理よ」
「正面からは行かねえ」
「じゃあ?」
「準備する」
「準備?」
「強くなる準備だ」
短く言う。
「……具体的には?」
リオが聞く。
「まず俺」
手を軽く開く。
「さっきの感覚」
「深く触るやつ」
「あれ、再現する」
「できるの?」
「分からん」
「でもやる」
「……雑だね」
「いつもだ」
「次に」
視線をルシエルへ向ける。
「お前」
「……なに」
「力、制御する」
「……む」
「暴発したら終わる」
「……わかってる」
少しだけ視線を落とす。
「……でも」
「できる範囲でいい」
「……ん」
小さく頷く。
「セリナ」
「なに」
「連携強化」
「それは得意分野ね」
少しだけ笑う。
「任せなさい」
「リオ」
「はいはい」
「情報」
「それも任せて」
「拠点の弱点、探す」
「……あー」
少しだけ苦笑い。
「それ一番危ないやつ」
「だろうな」
「でもやるんでしょ?」
「やる」
「……ほんと無茶」
少しの沈黙。
でも――悪くない空気だった。
さっきまでの緊張とは違う。
次に向いている空気。
「……ねえ」
リオがぽつりと言う。
「なんでそこまでやるの?」
「何が」
「ルシエルのために」
「……ついでだ」
「嘘」
「バレたか」
少しだけ笑う。
「まあ」
肩をすくめる。
「放っとけねえだけだ」
「……それで命張るの?」
「張ってるつもりはねえよ」
「……いや張ってるでしょ」
「そうか?」
「そうだよ」
リオが小さく笑う。
でも――
「……嫌いじゃない」
その声は、少しだけ本音だった。
「……神代」
「なんだ」
「……ありがとう」
「急だな」
「……さっき」
「ああ」
庇ったこと。
「気にすんな」
「……気にする」
小さく言う。
「……あたし、裏切れなくなるじゃん」
「それならそれでいいだろ」
「……ずるい」
「よく言われる」
少しだけ、静かな時間が流れる。
風の音、木々の揺れ。
久しぶりの戦ってない時間。
「……よし」
神代が立ち上がる。
「休憩終わりだ」
「もう?」
セリナが呆れる。
「動けるうちに動く」
「……まあ、そうね」
「……神代」
「なんだ」
「……次」
「ん?」
「……勝つ?」
ルシエルがまっすぐ見る。
「……ああ」
短く答える。
「次は勝つ」
その言葉に、迷いはなかった。
小さな休息は終わり。
ここから先は――もう一段、上の戦いになる。
でも四人はもう、止まらない。
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